The Vicar of Dibley (イギリスのシットコム)美しい田舎町と教会が舞台

「The Vicar of Dibley」は、1994~2000年、2004~2007年に放送されたイギリスのシットコム。現在でも根強い人気があり、度々再放送が行われています。2004年のBBCによる「Britain’s Best Sitcom」投票では第3位にランクインし、イギリスを代表するシットコムの一つと言えます。

1990年代のイギリスにおける教会女性聖職者叙任という社会変革を背景に、個性的な女性聖職者ジェラルディンと保守的な田舎村の文化や風刺、コミュニティの結束、笑いと温かさあふれるシットコムです。美しい田舎町も必見です。

脚本のリチャード・カーティスの有名な作品は「フォー・ウェディング」「ノッティングヒルの恋人」「ラブ・アクチュアリー」「ブリジット・ジョーンズ」シリーズ、「アバウト・タイム」「パイレーツ・ロック」「Mr.ビーン」「ブラックアダー」シリーズなど。

オープニングタイトルの背景には、このシットコムの舞台にふさわしい音楽が流れます。「The Lord Is My Shepherd(主は我が羊飼い)」の詩篇23篇に、ハワード・グッドールが讃美歌調の美しい音楽を加えたもので、穏やかで希望に満ちた言葉と教会音楽らしい厳粛さと温かみが感じられます。(画像は引用目的で使用しています)

ハワード・グッドール、リチャード・カーティス、そして「Mr.ビーン」でおなじみのローワン・アトキンソンはオックスフォード大学時代の友人で、大学時代の舞台活動やその後のテレビ番組で共に活動しています。

オープニングの直後に毎回挿入される田舎風景のスケッチも見どころの一つです。例えば、茅葺屋根の修復作業中に急な屋根の角度で作業員が滑り落ちたり(文字にすると恐ろしいですが笑)、クリスマス時期には羊たちがトナカイカチューシャをつけて藁を食んでいたり、羊の横に座ったおばあさんが羊の毛から直接編み物をしている姿などが描かれます。

目次

「The Vicar of Dibley」女性聖職者の到着

「The Vicar of Dibley」の初放送(1994年11月10日)は、イギリス国教会で女性聖職者が正式に認められ活動を開始していた頃。女性牧師の受け入れは段階的に進められていたものの、伝統主義者や一部の高教会派からの反対意見が根強くありました。このシットコムはそうした現実をコメディとして巧みに取り入れた作品と言われています。

第一話「The Arrival」では、老牧師の死後、ディブリー村に初の女性牧師ジェラルディン・グレンジャーが着任。村人による教区委員会(Parish Council)の会議では、特に議長を務めるデイヴィッドが「女性だから」という理由でジェラルディンを認めず、送り返そうとします。(「おすすめのエピソード」で後述しています)

ジェラルディン役のドーン・フレンチは、豪快で体当たりの演技と豊かな表情がとても魅力。教区委員会の村人たちの個性も際立っており、第一話からその魅力が存分に発揮されます。

「The Vicar of Dibley」登場人物とキャスト

ジェラルディン・グレンジャー
ジェラルディン(ドーン・フレンチ)は、チョコレートとワインをこよなく愛する女性聖職者。豪快でエネルギッシュ、ユーモアあふれる魅力によって、村人たちはどんどん心を開いていきます。イエスの肖像画が掲げられた彼女のリビングルームでは、クリスマスに「Birthday Boy(バースデーボーイ!)」と呼びかけたり、「Cheers, mate(「どうも、ありがとね!」のような軽いノリ)」と声をかけたりするなど、ジェラルディンにとってイエスはとても身近な存在。 ドーン・フレンチは、コメディ番組「French and Saunders」でジェニファー・ソーンダースと共演して人気を博し、映画「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」ではファット・レディ役で知られています。

デヴィッド・ホートン
ディヴィッド(ゲイリー・ウォルドホーン)は、教区委員会の議長を務める、保守的で権威的な村のリーダー。堅物で上流気取りな性格で、ジェラルディンが来る前までは反対勢力もなく教区議会を掌握していました。新しい牧師が女性だと知ると、すぐにジェラルディンを送り返す手続きを進めます。 しかし、彼女に振り回されるうちに次第に受け入れるようになり、温かい人間味も少しずつ見えてきます。

ジェラルディンにプロポーズするために労働党に鞍替えしたり、若く見せようとフーシャピンクのシャツを着たりしたことも笑。堅物な役柄ながら、笑うと可愛らしいおじさまです。「RP(標準イギリス英語)」で威厳のある話し方をしますが、個人的にはとても聞き心地のよい英語だと思います。

ヒューゴ・ホートン
ヒューゴ(ジェームズ・フリート)は、デイヴィッドの息子で、教区委員会の一人。人懐っこい性格ですが、父に逆らうことができません。ジェラルディンの助けを借りてアリスにプロポーズし、結婚します。プロポーズの言葉を伝える姿が素敵でした。 ジェームズ・フリートは、「フォー・ウェディング」のトム役、「ロスト・キング 500年越しの運命」のアッシュダウン=ヒル役、「Monarch Of The Glen」で気品さを隠し切れなかったリアム役を演じています。

アリス
アリス(エマ・チェンバース)は、ジェラルディンの補佐(ヴァージャー:Verger)を務めています。非常に天然で不器用な性格の持ち主。エマ・チェンバースは、「ノッティングヒルの恋人」でハニー役。

オーウェン
オーウェン(ロジャー・ロイド=パック)は、教区委員会の一人で、無骨で粗野、風変わりな農夫。農場で動物たちと暮らし、社交性が低く、不適切な発言や下品なユーモアが目立ちます。動物の話題や体臭に関する冗談をよく口にしますが、心優しく思いやりのある人物で、どこか憎めない存在。 ロジャー・ロイド=パック(Roger Lloyd-Pack)は、「Only Fools and Horses」のトリガー役や、「ハリー・ポッターと炎のゴブレット」のバーティ・クラウチ・シニア役など多数に出演。

ジム
ジム(トレヴァー・ピーコック)は教区委員会の一人。独特の言語障害があり、返事をする際には必ず「No, no, no…」から話し始めます。「No, no, no… yes」や「No, no, no… no」と答えることもあれば、「No, no, no… Nolans sisters」や「No, no, no… knowing me, knowing you, ahah」など、何が続くのか分からないことも多い笑。一方、妻のドリスは「Yes, yes, yes…」から返答します。 ディブリー村のガーラ(お祭り)では、映画「フルモンティ(The Full Monty、1997)」のようなフルモンティを披露したり、力強いシャウトで歌ったりします。

フランク
フランク(ジョン・ブルーサル)は、長年にわたる教区委員会の書記。とても真面目で、話出すと長くなる傾向があります。村のラジオ放送で自分がゲイであることをカミングアウトし(40年以上も秘密にしていた)、ジェラルディンを大いに驚かせました(しかし一緒にいたジェラルディン以外、村人の誰もその放送を聞いていなかった)。蝶ネクタイを着けていることが多い紳士で、エピソード内ではジムと並んでソファに座ったり、一緒に踊ったりと可愛いおじさまです。 DVDに収録されているエキストラ映像では、部屋を去るときに何度も振り向いて手を振る姿が可愛いです。

ラティーシャ
ラティーシャ(リズ・スミス)は、教区委員会の一員。教会の花のアレンジメントやオルガン奏者を担当しました。シーズン1のスペシャル「Easter Bunny(イースターバニー)」で亡くなります。毎回と言っていいほど、村人たちに奇妙な料理を振る舞っていました。 リズ・スミス(Liz Smith)は「アガサ 愛の失踪事件」「チャーリーとチョコレート工場」「キーピング・ママ」「Lark Rise to Candleford」「The Life and Adventures of Nicholas Nickleby」「A Christmas Carol」など多数に出演しました。

ハリー
ハリー(リチャード・アーミティッジ)は、2006年から2007年にかけて放送されたスペシャルで初登場し、ジェラルディンと結婚。 リチャード・アーミティッジは、テレビドラマ「North & South(北と南)」のジョン・ソーントン役で、国内で高い評価を受けて知名度を高めました。「ホビット」シリーズではトーリン役を務め、国際的にも注目されました。「The Vicar of Dibley」スペシャルには、リチャード・アーミティッジを目当てに視聴する人が増えたとも言われています。「North & South」での厳しい表情や低く強い口調の役柄とは異なり、リラックスした笑顔や眼鏡姿が素敵でした。

Vicar of Dibley
美しい牧歌的な景色を楽しむことができます!

エンドロール後の「エピローグ」

エンドロールの後には、毎回「エピローグ」として、教会付属室でジェラルディンとアリスが紅茶を飲みながら、ジェラルディンが面白い小話をします。「どう、面白いでしょう!」と得意げなジェラルディンに、天然すぎるアリスがジョークを理解しなかったり、必要以上に分析したり、ときにはジェラルディンを叱ることも。アリスの反応に現実に戻るジェラルディン・・・というのが定番の流れ。

ハリーとアリスが新婚旅行に出かけた頃、ジェラルディンは当時の恋人サイモンを追ってリバプールに移住すると宣言したばかりでした。不在のアリスの代わりにその席に座っていたのはディヴィッド。ところがディヴィッドは、ジェラルディンのジョークに大笑いします。普段はアリスの天然で奇妙な反応にすっかり慣れていたジェラルディンは、ジョークのセンスが似ている人がいることに驚きます。それだけでなく、エピローグが終わった直後に(画面も切り替わっている)、ディヴィッドが「Stay(ここに残ってほしい)」と告げるのです。

その言葉を聞き逃さなかった視聴者の多くは感動していたはず。粋な瞬間だったと思います。

撮影地はバッキンガムシャーの「Turville」

オープニングやドラマ内に登場するディブリー村のモデルは、バッキンガムシャー(Buckinghamshire)の小さな村「ターヴィル(Turville)」。地図上では、周囲に目立った施設がなくスーパーなども遠いようですが、村の教会、ジェラルディンの住居、村人たちの可愛らしいコテージスタイルの家、そして羊が放牧される牧草地など、豊かな田舎暮らしが楽しめそうな素敵な場所です。

気に入っているエピソード

「The Vicar of Dibley」の気に入っているエピソードをいくつかあげてみます。

※ ネタバレを含みます

The Arrival(1994年11月10日放送)

ジェラルディンが到着する回。102歳の牧師が日曜礼拝を行っていた頃は、教会の席はガラガラ(主要キャストしか出席していない)。牧師が亡くなると、教区委員会のメンバーは新しい牧師を心待ちにします。しかしやって来たのは女性聖職者で、委員会だけでなく村人たちも戸惑います。デイヴィッドは断固として反対し、正式に送り返す手続きまで始めました。

一方で、おおらかで明るくフレンドリーなジェラルディンに好感を持ったデイヴィッド以外の委員会メンバーは、日曜礼拝でのジェラルディンの働きぶりを見て判断することに。結果として、日曜日の教会は満席となり、ジェラルディンの明るくユーモラスな講話に、参列者たちは笑顔を見せます。

小さな村の保守的な考えの人たちが、女性聖職者に対する野次馬的な気持ちで参列したということもあるようです(「そうでもしないと教会に行かない人が多い」という皮肉かも)。ジェラルディンは村人たちに受け入れられ、女性聖職者でも問題ないことを印象づけました。

The Christmas Lunch Incident(1996年12月25日放送)

クリスマスは、家族がそろって祝う大切なイベント(日本の元旦のようなもの)。ジェラルディンは、ジムとフランク、デイヴィッド宅、アリス宅、そしてオーウェン宅から、クリスマスランチに招待されます。

クリスマスランチやディナーでは、たくさんの料理が用意されるのが通例。そのため、ジェラルディンは4回分のランチを食べきれるかどうか不安に。どれかを断れないか探ってみるものの、どの招待にもジェラルディンに来てほしい切実な理由がありました。結果、すべてに出向くことに決めます。

どの家でもジェラルディンをもてなすためにごちそうを用意しています。すでに満腹だというのに、彼らの気持ちに応えようと大きなクリスマスプディングまで平らげたり、ヒューゴのために芽キャベツファイトをしたりと奮闘します。しまいには、食べ過ぎで動けなくなったジェラルディンを、オーウェンがトラクターのシャベル部分に乗せて運んできたり笑。

帰宅したジェラルディンは、クリスマスの夜を一人で(満腹で笑)過ごしていることに気づきます。すると、教区委員会のメンバー全員とアリスが一緒に過ごすために訪ねてくるのです。素敵で心温まるシーンでした。

The Easter Bunny(1996年4月8日放送)

イースターが近づき、アリスが「村人たちも私も、イースターバニーが存在することを知っている」と話すので、ジェラルディンは驚きます。そこで、「ディブリー村にイースターバニーはいるのか」と教区委員会で尋ねると、全員が「存在する」と答えるのでさらに驚きます。

この回ではラティーシャが他界します。最期に牧師として呼ばれたジェラルディンは、ラティーシャからこれまで秘密にしてきたことをに打ち明けられます。それは父親も行っていた大切な役目だったというのです。何のことだかちょっと想像できますが・・・笑。

イースター当日の夜明け前、ジェラルディンはウサギに扮してイースターエッグを配ります。すると、ウサギ姿のデイヴィッドに出くわします。「ラティーシャに頼まれたから」と説明するジェラルディンに、「ラティーシャが僕に頼むのを忘れたから」と答えるディヴィッド。そして、二人が村を歩いているとあちこちにウサギ姿が・・・。

ネットの説では「ラティーシャは亡くなる前、村人たちにバニー役を依頼していた」というものあり、そうかもしれないなと思いました。でも、それよりも、デイヴィッドのように「私に頼むのを忘れていたな」と、村人たちがウサギに扮してイースターエッグを配っていたと私は推測します。

イースターバニーを信じる子どもたちとアリス、そして内緒で配っていたラティーシャ自身のためにも、委員会メンバーは彼女の前で「イースターバニーは存在する」と口にしたのかと思います。それぞれがその伝統を引き継ごうとした結果、同じ思いの人がたくさんいたという結果に。温かい村人たちの素敵なエピソードだったと思っています。

「The Handsome Stranger」「The Vicar in White」

2006年12月25日と2007年1月1日に放送されたスペシャル。ジェラルディンが幸せをつかむ回です。

ジェラルディンは、定住するつもりもないのに軽い気持ちで村の家を購入する人々に、いら立ちを覚えていました。最近も近所の家が買われたため、一度苦言を呈してやろうと、アリスを連れてその家を訪ねます。ドアを開けたのはハンサムなハリー(リチャード・アーミティッジ)で、二人を快く中へ招き入れます。あっという間に心を奪われるジェラルディン(いつものパターン笑)。

その後、二人は徐々に距離を縮めていくものの、ハリーの家に滞在する魅力的な女性ロージーの存在を知り、ジェラルディンは距離を置いてしまいます。

ハリーはジェラルディンに結婚したいと打ち明けます。そう、以前にも似た経験がありました。ジェラルディンが恋に落ちたトリスタンが結婚を申し込んできたものの、それは自分との話ではなく、別の女性との結婚式を執り行ってほしいという依頼。

その記憶から「ああ、またそのパターンね」と、「で、どの日が希望なの?」「予約も入れるわよね?」と事務的に対応します。しかし、それが自分自身へのプロポーズだと気づき、ロージーがハリーの妹であることも判明。

その数日前、ジェラルディンとハリーは、「ジェーン・オースティンの『高慢と偏見』の映画で、登場人物が結婚話になってうわずっていた声」について笑っていたばかり。この瞬間、ジェラルディン自身が同じ声を無意識に何度も(それもかなり誇張して笑)繰り返すことに。伏線を回収しています笑。

叫びながら家を飛び出してガッツポーズ。夜だというのに教会でウェディングベルをガンガン鳴らしてしまいます笑。ハリーも笑顔でしたが、実はドーン・フレンチの演技に素で笑っているのではないかと思いました。

ドタバタはありつつも、教区委員会のメンバーとアリスが結婚式の準備を整えてくれます。聖職者として、他の新郎新婦の誓いの言葉を何百回も聞いてきたジェラルディンが、今回は自分自身のためにすらすらと誓う姿がとても素敵でした。

Vicar of Dibley

豪華なゲスト

「The Vicar of Dibley」には豪華なゲストも登場しました。90年代のシットコムなので、今の大物といわれる有名人の若いころの姿を見ることができます。

出演者には、ピーター・カパルディ、カイリー・ミノーグ、ダーシー・バッセル、クライブ・マントル、ニコラス・ル・プレヴォ、リチャード・グリフィス、ジョニー・デップ、元ヨーク公爵夫人、レイチェル・ハンター、ミランダ、キーリー・ホーズなど。

カイリー・ミノーグ、ダーシー・バッセル、ジョニー・デップ、ヨーク妃、レイチェル・ハンターは本人役で登場しており、特にダーシー・バッセルは村のチャリティイベントの小さな舞台の上でバレエを披露します。バレエ演目のタイトルは「Mirror(鏡)」です。(「鏡」と聞くと、日本の昔のコントでそんなのがあったなと思い出してしまう笑)。鏡の前に立つダーシーの向こうには、バレエ衣装姿のジェラルディンが笑。ダーシーもちょっと笑っています。

シリーズ3までが掲載されたスクリプトブック。台詞だけでなくドラマに関連した可愛いイラストや写真、ラティーシャの奇妙な料理のレシピ、アリスのパズルのページ、フランクによる年間行事のページなど盛りだくさん。可愛いくて楽しい本です。

おわりに

教会を舞台にしたシットコムだけあって、心が温かくなるようなエピソードが多く、下品な描写もありません。このような楽しくて美しい村なら、一度は住んでみたいと思います。

男性たちのファッションは英国のカントリースタイルが中心で、ゴルフコスチュームも含めて、ツイードのジャケットやパンツ、フラットキャップ、タッタソールシャツ、ウェリントンブーツ、ワックスジャケット、アーガイル柄のセーターなどが登場します。

スコットランドのキルトも登場。オーウェン、フランク、ジムが自分たちの苗字に「Mc」をつけて「McNewitt!」「McTrott!」「McPickle!」と名乗ります笑。子どもが欲しいジェラルディンに「相手になりますよ」ということで、ジェラルディンが「ブレイブハート(Braveheart)」のファンであることをふまえて、雰囲気を盛り上げるためにキルト着用したのです。彼らの奇抜さがいつでも面白くて愛らしくて好きでした。

ちなみに「Mc」はスコットランドおよびアイルランドのゲール語由来の姓で、「~の息子」という意味。正式には「Mac」で、「M’」や「Mcc」という表記もあったそうです。

「McNewitt!」「McTrott!」「McPickle!」
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