コリン・ファース主演、2012年公開の強盗コメディ映画。
キャメロン・ディアス、アラン・リックマン、トム・コートネイ、スタンリー・トゥッチらが出演しています。
アラン・リックマンがヌードを披露しているのも印象的です。
1966年に公開された、シャーリー・マクレーンとマイケル・ケイン主演の同名映画のリメイクだそうですが、設定などいくつか異なる点があるようですね。
オープニングのアニメーションは登場人物の特徴をよく捉えており、シンプルな色使いがおしゃれな印象を与えます。
このアニメーションがエピソードの内容をさりげなく示している点も注目です。
(画像は引用目的で使用しています)
「Gambit(モネ・ゲーム)」あらすじ・感想
メディア王ライオネル・シャバンダー(アラン・リックマン)は、美術収集家であり、独裁的で他人に容赦のない人物です。彼のもとで働いているのが、美術学芸員のハリー・ディーン(コリン・ファース)です。
ハリーは、日々シャバンダーから侮辱され、正当に評価されていないと感じています。そんな彼は、シャバンダーに贋作を買わせて復讐する計画を立てます。
シャバンダーは、すでにクロード・モネの「夜明けの積みわら(Haystacks at Dawn)」を所有しており、連作とされる「夕暮れの積みわら(Haystacks at Dusk)」を長年探しています。ハリーはこの執着を利用しようとします。「夕暮れの積みわら」は架空の作品です。
計画には、知人のメイジャー(少佐、トム・コートネイ)が協力します。彼は贋作制作に長けた人物です。
「夕暮れの積みわら」は戦時中ナチスに奪われて以来、長らく行方がわからない。美術界では大きな謎とされてきました。ハリーたちは、アメリカ軍が進軍したときにプズノウスキー軍曹がこの絵を持ち帰り、現在はその子孫が所有しているという筋書きを計画に用います。
ハリーとメイジャーは、この珍しい苗字の人物を探すためテキサスへ向かいます。そこで出会ったのが、P・J・プズノウスキー(キャメロン・ディアス)です。彼女はロデオ・クイーンだといいます。ロデオ・クイーンという肩書きは、シャバンダーのような富豪に好印象を与えるだろうと見込んでいましたが、PJは予想以上に魅力を発揮してしまい、計画は次第にブレ始めます。
また、彼女が鶏肉加工工場で最低賃金で働いていることも調べており、協力に応じる可能性が高いと踏んでいました。
完璧で美しい計画
ハリーとメイジャーは、PJが飲んでいるバーに現れます。まだ声をかけてもいないハリーは、計画が完璧に進んでいくさまを頭の中で描きます:
バーの客たちは、PJに近づく英国紳士に注目します。ハリーはスマートに自己紹介、メイジャーも紹介したうえで、PJが計画への参加を快く受け入れます。その後、写真撮影のため、ハリーとメイジャーはPJのトレイラーを訪ねます。PJと気品ある祖母を並べて座らせ、背後にはメイジャーの贋作「夕暮れの積みわら」を掛けて撮影をするのです。
ロンドンに戻ったハリーは、いつものようにシャバンダーにぞんざいに扱われます。シャバンダーは雑誌の原稿に目を通す中、PJのトレイラーの写真に目を留め、その中に写っている絵画を確認します。すぐにハリーが呼び出されます。
オフィスに向かうと、ヌーディストのシャバンダーは全裸で仕事をしています。目のやり場に困っているハリーにシャバンダーは、その絵に興味を持ち調査を始めたこと、さらにすでにPJをロンドンに招いたことを告げます。
ハリーは動揺を見せず、あの絵画はテキサスのキャラバンに掛けられていただけだから複製の可能性が高いと分析してみせます。するとシャバンダーは「彼女の姓は『プズノウスキー』だ」と得意げに指摘するのです。
その後、ハリーはロンドンに到着したPJを迎えに。PJは洗練されたスーツ姿で現れ、すっかり雰囲気が変わっています。キャメロン・ディアスのスタイルが抜群です。
ハリーとPJはそのままシャバンダーの屋敷へ向かい、道中でハリーはモネの絵に関する設定を彼女に説明します。彼女の祖父であるプズノウスキー軍曹が戦後に「夕暮れの積みわら」を持ち帰ったという内容です。
さらに、ハリーはシャバンダーが20年前に「夜明けの積みわら」を1100万ポンドで落札した経緯を語ります。当時は、日本人コレクターのアキラ・タカガワと激しく競り合った末の購入でした。それ以来、シャバンダーは連作とされる「夕暮れの積みわら」を探し続けてきたのです。
ハリーは、もしシャバンダーから交渉を持ちかけられたら、1200万ポンドを提示するようにとPJに伝えます。
シャバンダーの屋敷では、ハリーが専門家らしくPJの絵画を鑑定し的確な解説を行います。シャバンダーは満足し、「ハリーを全面的に信頼している」と誇らしげ。
取引は成功し、ハリーとメイジャーはPJを空港まで送ります。約束通り、スーツケースには50万ポンドの現金がぎっしり詰められ、ファーストクラスのチケットも用意されています。PJが何かを言いかけますが、ハリーは「何も言わないで」と静かに制します。
と、ここまでの一連の流れは、すべてハリーの妄想。
そのまま映画が終わってもおかしくないほど、完成された美しい結末のように思えます。しかもここまで、PJは一言もセリフを発していない笑。
だが実際は
しかし現実は、ハリーが想像していた展開とはまったく異なっていました。
彼はPJに声をかけたものの、他の男性と話していた彼女の会話に強引に割り込み一方的に話を進めます。そして「50万ポンド」と切り出したところで殴られてしまいます。しかし、メイジャーがさっと上着を脱ぎ「大きい方の人は私に任せて!」と、相手を打ち負かします。メイジャーは謙虚で紳士的なでありながら、贋作の腕もあり、腕っぷしも強いという万能な人です。彼のトラッドな服装も印象的です。
「どう話しかければよかったんだ」と落ち込むハリーに声をかけてくれたのはPJでした。彼女の協力を得られることになったハリーとメイジャーは、PJの祖母のトレイラーハウスに写真撮影に向かいます。ところが、実際のトレイラーは想像と違い、砂漠の中にぽつんと立っており、気品とは程遠いたたずまい。さらに祖母もほぼ認知症のような状態でした。
ロンドンに戻ったハリーは、さっそくシャバンダーに「夕暮れの積みわら」の話を持ちかけます。シャバンダーは裸でもなんでもなく切れ者のビジネスマンの様子。そして、ハリーが妄想の中で言った「あんなトレイラーにずっと飾ってあったようなものは偽物だ」というセリフを、シャバンダーが口にするのです。
ハリーは「プズノウスキー軍曹の記録もあるし、複製はあまり流通していない」と説明し、シャバンダーとPJを引き合わせようとします。シャバンダーは「ロンドンに来ることがあるなら数分だけ会ってもいいが、仮に本物でも欲しそうな態度は見せない」と言い放ちます。
しかし、実際にPJをシャバンダーのもとに連れていくと、予想外にPJをすぐに気に入ってしまいます。ふたりはファーストネームで呼び合うほどに打ち解けます。シャバンダーはその絵画を、水曜日の恒例パーティーに届けるようにハリーに指示し、さらにその日の夕食にPJを招待します。
シャバンダーに「PJはサヴォイ・ホテルに泊まるべきだ」と言われたハリーは、仕方なく自腹で予約を取ります。しかも1泊分だけ。また、PJは初めての海外旅行で、パスポート申請を急ぐための費用もハリーが負担していました。
シャバンダーの夕食の場には、ドイツ人の鑑定士マーティン・ザイデンベイバー(スタンリー・トゥッチ)も同席しており、シャバンダーは彼にPJの絵画の鑑定をさせるつもりだといいます。そして、今後は彼を雇うつもりで、ハリーについては「間抜けで、必死すぎて、少しずるくて弱気。失望している」と酷評します。
でも、ハリーの様子を見ていると、それが的外れでもないと感じさせられる場面が多く、シャバンダーの優秀さが際立ちます。
サヴォイに到着すると、ハリーはできるだけ安い部屋を希望したため、PJと少し言い争いになります。PJは、ハリーだけでなくメイジャーのことも頼りないと言い、ハリーは反論します。
このやり取りを聞いたホテルスタッフは、ハリーとPJの間に関係があり、さらに「メイジャー」という第三者を含む三角関係にあるのではないか、または、「メイジャー」がハリーの男性器を指す隠語や婉曲表現だと受け取っている様子です。二人の会話にはダブルミーニングのユーモアが含まれており、英語では「メイジャー」や「ジェネラル」といった軍階級がユーモラスな隠語として使われることもあります。
後日、ハリーが再びサヴォイを訪れた際、スタッフに「メイジャーはお元気ですか?」と尋ねられます。ハリーは知人のメイジャーのことだと思い、「元気ですよ。少し痩せて、半分引退状態ですが」と返答。スタッフは「それは残念ですね。でも、少なくとも“半ば”ですので・・・」と慰めるように返します。この対応からスタッフがまったく別の意味で会話を受け取っていたことがうかがえます。
頓挫したのは誰のせい
PJは、この計画はうまくいかない気がしており、これ以上ハリーの提案に関わりたくないと伝えます。さらに、シャバンダーについても、ハリーの言うような人物ではなく、むしろ魅力的だと話します。
ハリーとPJは「あなたはクビよ」「いや、そっちこそ」と応酬になり、その流れでPJは、シャバンダーがハリーを切って、代わりにザイデンウェーバーを起用しようとしていることを明かします。そして今晩はサヴォイに泊まり、明日にはアメリカへ戻るつもりだというのです。
翌日、ハリーはサヴォイに向かい今後のPJの部屋の支払いはしない意向を伝えます。しかし、PJの部屋はすでにアップグレードされ、支払いもシャバンダー名義に変更されていること、さらにPJは彼から贈られたドレスを着て外出したことを知らされます。
そのころPJはシャバンダーと共に、日本人ビジネスマンたちとの夕食に出席していました。
1980年代、日本のメディア業界は勢いがあり、モネの競売で敗れたとはいえ、アキラ・タカガワはシャバンダー以上に影響力のある存在として見られていました。シャバンダーはタカガワが持つ220のテレビ局を買収できれば、日本を超える規模でアジア市場に進出できると考えています。
取引相手の「Konichiwa Media Group」の通訳チャックは、子供に話しかけるような大げさな日本人英語で通訳します。日本人なら彼の英語がよく分かると思います笑。日本側は、あえて少し馬鹿なふりをする戦略に出ているようです。PJは、彼らをシャバンダー邸で近日行われるパーティに招待してはどうかと提案します。シャバンダーはPJの手腕を高く評価するのです。
翌朝、ハリーはサヴォイの中庭でホテルから出てくるPJを待っていました。
PJは「私たちはライオネルみたいな規模の人間じゃないんだから、もうやめた方がいい」と忠告します。それに対しハリーは、「予想外のことはあったが、まだ諦めていない」と返します。PJは少し面倒に感じながらも、シャバンダーのパーティで協力することを約束します。
日本人が歌うパーティ会場
シャバンダーのパーティには多くのゲストが到着します。PJも姿を見せ、シャバンダーは彼女を見て大喜び。
例の日本人ビジネスマンたちもやって来ます。全員がおかめの仮面をかぶっている姿はちょっと不気味笑。彼らは「今日は無礼講ですね」と言いながらビュッフェの料理を取り、グループの上司がカラオケでディーン・マーティンの「Ain’t That A Kick in the Head」を披露します。彼らの上司は歌が上手です。PJは彼らをもてなし、商談は問題なくまとまります。
ハリーとメイジャーも車で会場に到着していますが、ハリーはメイジャーの姿を隠すために彼を先に帰らせます。その後、ハリーのイーゼルに置かれた贋作「夕暮れの積みわら」が並んでいます。
ハリーが「夜明けの積みわら」を壁から外すと、部屋のセキュリティが作動し一頭のライオンが現れます。
絵画のセキュリティがライオンだと知ったPJは急いでハリーのもとへ駆けつけ、彼を救出します。彼女のロデオクイーンとしての腕前がここで発揮され、「四つ足のやつなら何でも対処できるの」というのです。
そこにやってきたシャバンダーは、「PJが襲われたかもしれないじゃないか」と怒りを露わにします。そしてハリーを解雇し、代わりにザイデンウェーバーを雇うと宣言。その場で彼を呼び「夕暮れの積みわら」の鑑定をさせます。ザイデンウェーバーは興奮しながらそれを本物のモネだと評価します。
しかしハリーは、シャバンダーとザイデンウェーバーが驚き慌てる中で絵画の表面をこすって塗料を拭き取り、下に隠れていたエリザベス女王の写真を見せます。
吐き気を催しながら部屋を去るザイデンウェーバー。シャバンダーはPJに「君はもう私の役に立たない」と告げますが、PJは「どうせテキサスのトレーラーの壁にかかっていた絵画じゃない」とあっけらかんと返します。
紳士なハリー
そしてシャバンダーは何事もなかったかのように、これまで通り働くようハリーに伝えますが、ハリーは「こんな素晴らしい人を侮辱する人のもとでは働けない。野蛮で横暴でうんざりだ」と言い、PJを外へエスコートします。
翌日、ハリーとメイジャーは空港までPJを送ります。計画は思いどおりに進まなかったものの、ハリーは「必ず埋め合わせをする。君の給料はちゃんと払うよ」と約束します。そして三人は別れを告げ、PJは空港の建物の中へ入っていきます。
しかし、ハリーとメイジャーは車に戻らず、トランクから荷物を取り出して自分たちも空港内へ入ります。
彼らが向かった先には、あのパーティに出席していた日本人グループと、日本から到着したタカガワ氏の姿がありました。通訳のチャックはハリーたちから「チャーリー」と呼ばれており、今回は流暢な英語で通訳しています。
ハリーはパーティー会場に持っていったイーゼルスタンドのバッグを渡します。その中にはシャバンダーの「夜明けの積みわら」が入っていました。チャーリーは代金がすでにスイスの銀行に送金済みだと説明し、メイジャーが電話でそれを確認します。
一方、チェックインを済ませたPJは、自分の荷物の中に見覚えのない小包を見つけます。開けてみると、それはハリーの部屋に飾ってあったアルフレッド・シスレーの小さな絵画でした。PJが「とても美しくて好き」と言ったもので、ハリーは「かなりの額を出して手に入れた」と話していた絵です。
計画を終えたハリーとメイジャーは、PJの座席をアップグレードしようと話し合います。そして「次はどうしようか。ドナルド・トランプがピカソに興味を持っているらしい」などと話すのでした。
おわりに
コリン・ファースが紳士的にふるまう姿は、思わず見惚れてしまいます。「高慢と偏見」のミスターダーシーや、「ブリジット・ジョーンズの日記」のマークなど、イギリス紳士の役を演じるとしたら、彼は間違いなくトップ10に入ると思います。
エンドロールでは、シャバンダーのパーティで日本人の上司がカラオケで披露した「Ain’t That A Kick in the Head」が流れます。歌っているのは上司役の藤本政志さんです。
メイジャーは「夕暮れの積みわら」だけでなく、「夜明けの積みわら」も贋作していたことになりますね。しかも「夕暮れの積みわら」はエリザベス女王の写真の上に置く必要があったため、もう一枚描き直したことになるのかと。
ハリーのことを「Mr Deane」、PJのことは「マダム」と呼ぶメイジャーは、PJが空港に到着したときには自然に手を伸ばして彼女の荷物を持つなど、とても紳士的です。謙虚な一方、テキサスのバーでは殴り合いにも応戦するなど、とても頼りになる人物です。
トム・コートネイのファンなので、彼が出演していると知るとつい注目してしまいます。「Billy Liar」「ドクトル・ジバゴ」「長距離ランナーの孤独」「ドレッサー」など、数多くの作品に出演しています。「カルテット!人生のオペラハウス」では主人公を一途に愛し続ける老人役、「ガーンジー島の読書会の秘密」ではポテトピールパイを発明した心優しいおじいちゃんを演じており、年を重ねてもなお魅力を放っています。
シャバンダーを演じたアラン・リックマンが2016年に亡くなったのは本当に残念です。1988年の「ダイ・ハード」を観たときから、クセのある魅力的な俳優だと感じていました。2001年からは「ハリー・ポッター」シリーズでスネイプ先生を演じ、より幅広い年齢層に知られる存在だったと思います。