クランフォード(Cranford)第1話のあらすじ

ドラマ「クランフォード」は、ストーリーの魅力だけでなく、登場人物ひとりひとりが個性的で、衣装や舞台もとても美しくおすすめです。どのシーンもまるで絵画のように美しく、観ているだけで心を奪われます。

エピソード1から感動的な場面がいくつもあり、ユーモアもありでとても楽しめます。オープニングは牧歌的でチャーミングな雰囲気にあふれています。

印象に残ったあらすじをまとめてみました。

※ 一部ネタバレしています!

目次

エピソード1: 1842年6月のあらすじ

舞台はイギリス・ヴィクトリア時代の架空の小さな町「クランフォード」。モデルとなったのはマンチェスターとリバプールの近くにある「チェシャー(Cheshire)」という町です。

メアリーが居候をしにやってくる

姉妹で暮らすデボラ(アイリーン・アトキンス)とマティ(ジュディ・デンチ)の家に、友人の娘メアリー(リサ・ディロン)が居候することになります。メアリーからの手紙が届いたのは、彼女が到着するわずか1時間前。メールのない時代、手紙の遅れは日常です。

二人は慌ててメアリーの部屋を準備します。長らく使われていなかった部屋には家具に布がかけられ、電気のない薄暗い家の様子が印象的です。

姉のデボラはいつも的確で人情味あふれる人物。あまり笑わない印象です。一方、妹のマティは穏やかで優しく、寒さの中を馬車でやって来るメアリーを気遣い、部屋に花を飾るなどの細やかさを見せます。
マティは「手紙に『!』が書かれていたので、彼女は悩んでいるのかもしれない」と案じます。当時、手紙に感嘆符を書くことはまだ一般的でなかったのかもしれません。ジュディ・デンチの柔らかい話し方はとても癒されます。

メアリーが到着し、手紙は届いたか、滞在しても大丈夫かと心配しますが、姉妹は温かく迎えます。メアリーのお土産は箱いっぱいのオレンジ。当時は貴重で特別な果物でした。メアリーが「鉄道で運ばれてきたものです」と話すと、デボラは「鉄道?」と疑いの表情を見せます。

メアリーの亡き母は姉妹の旧友で、小さいメアリーを連れてデボラたちの家に滞在したことのある仲。メアリーは、継母が意欲的に持ち込む縁談を避けてクランフォードに来たと打ち明けます。マティはメアリーの書く手紙をとても気に入っており、メアリーもデボラが綴るクランフォードの手紙を楽しみにしていました。マティによると、デボラは手紙を書くときにサミュエル・ジョンソンの文章を参考にしているといいます。

クランフォードでは昼の12時から3時の間に来客を迎えるという慣習があります(訪問時間は15〜30分)。デボラはこの決まりを厳格に守っており、これは町の人々にとって貴重な情報交換の時間のようです。ただ、いつでもよくおしゃべりをしていますが・・・笑。

デボラたちは客間に静かに座り訪問者を待ちます。
この日訪ねてきたのはモーガン医師(ジョン・ボウ)。デボラは使用人マーサに訪問時間の管理を指示します。モーガン医師は、近々若い新しい医師を迎える予定だと伝えます。「変化のときが来ました」と話す医師に、「変化?」と驚くデボラ。クランフォードでは変わらないことが美徳であり、モーガン医師もそれを分かっていて「変化しますよ」とワンクッション置いている様子です。

新たに来るのは、ロンドンのガイズ病院で研修を終えた医師の従弟の息子。ロンドンと聞いて「そんな都会から!?」とでもいうように息をのむマティ。

マティが「他の住人には伝えましたか?」と質問すると、医師は「まだです。でもミス・ポールには話したので、お茶の時間までには広まるでしょう」と返答。それを聞いたデボラは「もっと早いかもしれません。ここはクランフォードですから」と応じるのでした。

町にはそれぞれの役割があるようです。

町の女性たち

いつも噂を広めるのがミス・ポール(イメルダ・スタウントン)。

イメルダ・スタウントンは「ハリー・ポッター」のアンブリッジ役で知られていますが、私は90年代の英シットコム「Is it legal?」のステラ役以来のファンです。実力派の素晴らしい女優で、コミカルな演技も巧み。表情や仕草のすべてが魅力的です。

ミス・ポールはフォレスター夫人(ジュリア・マッケンジー)を見つけ、モーガン医師から聞いた話を一気に伝えます。医師からメイドを貸してほしいと頼まれたこと、その理由が若い医師の到着と関係していること、そしてその医師の世話をする未亡人の家政婦が2週間後に来る予定だということまで。

ジュリア・マッケンジーはイギリスの舞台やテレビで活躍する女優、歌手、演出家。アガサ・クリスティ原作の「ミス・マープル」主演でも知られています。ミュージカルにも多数出演し、その豊かな表現力と歌唱力で多くのファンを魅了しています。YouTubeでぜひ彼女の歌を検索してみてください。素晴らしい歌唱力です。

若い医師は、女王の侍医を務める有名な医師に師事していると知り、ミス・ポールとフォレスター夫人は興奮します。そこに通りかかったジェイミソン夫人(バーバラ・フリン)にも同じ話を伝えます。彼女は常にセダンチェア(日本でいう籠(かご))でよ移動しています。さらに、ミス・ポールの興奮した様子を見かけたトムキンソン姉妹(セリーナ・グリフィス、デボラ・フィンドレイ)も加わり、一同は新しい医師の話題で盛り上がるのでした。

イケメンのハリソン医師が町にやってくる

ハリソン医師(サイモン・ウッド)はロンドンで流行しているスーツ姿でクランフォードに到着しますが、モーガン医師から「クランフォードでは医師は黒を着た方がいい」とアドバイスされます。

その後、ハットン牧師の娘のソフィー(キンバリー・ニクソン)に一目惚れ。6歳の弟のウォルターが「サクランボ欲しい?」と尋ねるので、3人で庭に出ると、サクランボよりもソフィーを見つめるハリソン医師笑。そんなに見なくてもというぐらい笑。

当時の灯り事情、ろうそく

エピソード1の重要なポイントの1つが「ろうそく」。
電気のない時代、夜はろうそくやオイルランプが照明の主流でしたが、ろうそくは当時とても貴重なものでした。

読書好きなメアリーに対し、マティは「うちはキャンドルを2本灯しているの」と言いますが、実際は1本だけで済ませることも多いようです。メアリーは暖炉の明かりも頼りに読書していますが、それでも暗いはず。

ミス・ポールが夜に訪れたときには、慌てて2本目のろうそくを灯す描写もありました。ミス・ポールは「とても明るいわね」とコメントしますが、現代の感覚からしても十分に暗い笑!

ハリソン医師が行う最新医療の手術

ハリソン医師のもとに、大工のジェム(アンドリュー・ブーカン)が木から落ちて腕を複雑骨折し、運ばれてきます。

モーガン医師は、「クランフォードでは、せいぜい腕を切断するくらい医療設備しかなく、切断が一番安全。君の最初の手術なんだから評判を考えろ」と助言するものの、ハリソン医師は最新技術での手術をすることに。

レディ・ラドローの屋敷の氷でジェムの腕を冷やし、手術を遅らせる処置を施します。そして、必要な器具を取りに馬でマンチェスターへ。クランフォードがあるとされるチェスターからマンチェスターまで、今なら車で50分程度ですが、当時は大変な道のりだったでしょう。

しかし、夕方に戻ったハリソン医師、手術に必要なろうそくが足りず落胆します。雑貨屋に行くも、店主は「ろうそくが入るのは金曜日です」とのんびり言いながら、代わりにハリソン医師が注文していた黒いジャケットを着せてくれます。ハリソン医師は意気消沈して雑貨屋の前に座り込んでしまいます。

「ジェムの腕が切断されるらしい」という噂が広まっていたクランフォード。雑貨屋前のハリソン医師を見かけたキャロラインは動揺してデボラの家を訪ね、「ハリソン医師はもう喪服を着ているのよ!ジェムの命は危ないのかもしれない!」と話を広げます(悪気はないんでしょうけど・・・笑)。

ジェムは腕を失えば生活が立ち行かず、また、彼は町にとっても重要な存在です。女性たちは心配は尽きず、メイドのマーサ(クラウディ・ブラックリー)はドアの陰で泣いている。彼女はジェムの恋人だったのです。

デボラは「冷静でいるには推測を控えるべき」と言い、家の前を通りかかったハリソン医師を家に招き入れます。

ハリソン医師は「ろうそくがないため手術は明け方まで待つことになり、その間に成功率が下がるかもしれない」と落胆を隠せません。それを聞いたマティが「うちのろうそくを使ってください」と申し出ます。ろうそくは高価であることを日ごろ話していたにもかかわらず。他の女性たちもろうそくを持ち寄ります。

「こんな親切はロンドンにはなかった」と感動する医師に、デボラは「ここはロンドンではありません。クランフォードですよ。」と答えるのです。

女性たちの温かさに心を打たれます。何度見ても胸が熱くなる場面です。

手術は無事成功し、モーガン医師も技術を認めました。助手を務めたメアリーは落ち着きがあり、洞察力・度胸・知性を兼ね備えた洗練された女性であることが伝わります。
後日、デボラはメアリーにこう言います。「ハリソン医師があなたを『男性と同等です』と褒めていたけれど、私は訂正しました。『そんな女性はいません。彼女(メアリー)はあらゆる点で男性より優れています』と。」

これはデボラからの、最高の賛辞だと思います。

カーター氏とハリーの出会い

ジェムが運ばれてきたとき、カーター氏(フィリップ・グレニスター)とハリー(アレックス・エテル)が初めて出会います。

ハリーはジプシーの子供で、貧しい家には弟や妹たちがいます。母親は大きなお腹を抱えており、父親はいつ帰ってくるのか分からないことが多い。家計を助けるため、レディ・ラドローの敷地の川で魚を捕り、町ゆく人々に声をかけて売ろうとしていました。

レディ・ラドローの地所管理人のカーター氏は、魚を売る子供がいると聞いてハリーを捕らえます。ちょうどそのとき、ハリソン医師がジェムの腕を冷やすための氷を必要としていたため、カーター氏はハリーを屋敷の地下の氷室に連れて行き、氷を運ばせる仕事を与えます。

ハリーは「ここの氷はなぜ解けないのか」「温度とは何なのか」と興味を示すので、学校に通っていないながらもその賢さに、カーター氏は気づくのです。

ハリーは急いで氷を届けるということで、盗んだ魚の件は見逃されました。

レディ・ラドロー

レディ・ラドロー(フランチェスカ・アニス)はクランフォードの有力な地主で、ハンベリー・コートの女主人。厳格な貴族で、階級や伝統を重んじています。

彼女はカーター氏に、今年もガーデンパーティーを開くと伝えます。カーター氏は、彼女の息子セプティマスがイタリアのコモで静養中であるものの、浪費の額や回数が増えていると指摘します。しかし彼はレディ・ラドローにとって唯一残された子供。彼女は、金のことで心配させず静養に専念させるべきだと言い、そのせいで息子は4年間ガーデンパーティーにも戻れなかったと語ります。

静養しているはずの人の支出が毎月増えているなんてむしろ元気な証ではないかとも思えてきますし、ただ単にイギリスに帰ってきたくないだけなのでは・・・。

レディ・ラドローの帽子職人ロレンシア(エマ・フィールディング)は、彼女の保護下で育ち、帽子店も彼女の許可を得ています。レディ・ラドローは帽子を試しながら、息子にどう思われるかを気にし、ロレンシアに相談するほどの親しい関係です。当時、帽子は外出時の必須アイテムで、階級や品格を表すものでした。女性たちはボンネットを、男性たちはトップハットやボウラーハットなどを着用していました。

レディ・ラドローは屋敷のメイドの採用面接を行うものの、読み書きを少し学んでいるという若い女性を「雇わない」と即答します。カーター氏は「最近では下層階級でも多少の教育を受けるのが普通になってきている」と話すものの、彼女は「女子たちは奉仕と祈りができれば十分だ」というのです。価値観が違いますね・・・。

ブラウン大尉が越してくる

デボラたちの家の向かいの空き家に、ブラウン大尉(ジム・カーター)と2人の娘が引っ越してきます。

クランフォードに新しい住人が来るのは珍しく、デボラたちは窓からその様子を観察。窓越しに並んでいる顔は外からも丸見えだったはず笑。そこにちょうどミス・ポールが訪ねてきて「見学するのに理想的な場所だわね」と、もちろん観察に加わります。運び込まれる家具や、家族構成についてあれこれと話す女性たち。(ちなみに、ブラウン大尉役のジム・カーターとミス・ポール役のイメルダ・スタウントンは、実生活では夫婦です)

大尉には二人の娘がいて、そのうち一人は体調が悪いのか大尉に抱えられて家に入っていきます。そこへチャールズ・モールヴァー卿が姿を現し、大尉と共に中に入っていくのを見ながら女性たちは少し驚きます。モールヴァー卿は、大尉に鉄道関連の仕事を依頼しに来ていたのです。

ジェシーがモールヴァー卿と大尉にお茶を出した後、部屋の外で二人が彼女のことを話しているのが聞こえてしまいます。
「もう結婚の時期を逃してしまったようだ」
「相手はいないのか」
「いまだに誰も申し込む様子がないのです」

田舎町で出会いが少ない中、これはさすがに傷つきますよね・・・。

ジェシー扮するジュリア・サワラは「Absolutely Fabulous」のサフラン役をしています。魅力的な声が素敵です。
ジム・カーターもジュリア・サワラ魅力的な声の持ち主だと思います。

その後、空き家だった家にラベンダーを焚いてあげたデボラたちの心遣いに、大尉が礼を言いに訪問します。クランフォードでは、本来こうした訪問は3日後が慣例ですが、大尉は「早くお礼したい方なので」と、町の習慣にはあまり頓着しない様子。

また、「作家ならサミュエル・ジョンソンが好きです」というデボラに対し、大尉は「チャールズ・ディケンズの方がよい作家ですよ」と無邪気に主張します。というか、人の話をあまり聞いていないような笑。そして、ディケンズの「The Pickwick Papers」を「ラベンダーのお礼に(A small token of my gratitude)」と言って、やや強引にデボラへ手渡します。本好きなメアリーは興味津々ですが、デボラは大尉のこの無遠慮な態度に良い気がしていない様子。

とはいえ、大尉は悪い人ではありません。
大きなお腹を抱えたハリーの母親が中身の入った鍋を落としたとき、人々が見て見ぬふりをする中、大尉はためらわずに手を差し伸べます。そしてハリーたちに優しく声をかけます。

「ディケンズの読み過ぎじゃないかしら?」
「クリスチャン精神なのよ」
デボラやメアリーはそんなふうに分析しますが、大尉はとても親切な紳士だと思います。

慣習より大切なこと

大尉はしばらく家を空けることになり、娘たちに何かあったときは手助けしてほしいとデボラに頼みます。一緒にいたジェシーは「私は大丈夫だから」と言いますが、デボラは「ご近所として当然のことです」と事務的に返し、その場を離れます。なんだか少しよそよそしい様子にも見えるので、先日の大尉の無遠慮な言動をまだ気にしているのかもしれません。

ところが、大尉の留守中に体の弱かったジェシーの姉が亡くなってしまいます。取り乱したジェシーはデボラたちの家に助けを求め、葬儀の手配をしなければならないと話します。父が戻らなければ、自分が棺の後ろを歩くつもりだとも。しかしデボラは「女性は葬儀には参列できません」と答えます。ジェシーは「姉が一人で埋葬されるのは耐えられないし、そうすれば父が落胆するでしょう」と訴えます。

夜になると、デボラとマティは「ジェシーが参列することは礼儀に反することになるし、クランフォード中の話題になる」と心配します。メアリーは、マンチェスターでは女性の葬儀参列は普通になりつつあることを話しますが、デボラは「ここはクランフォードだから」ときっぱり否定。

「ジェシーも私も導きが必要です」と、デボラは一晩祈り考えます。

そして葬儀の朝。
すすり泣くジェシーが家から出てきて棺の後ろに立つと、そこに喪服姿のデボラが現れ、静かに彼女の隣に立ったのです。二人は一緒に棺の後ろを歩いていきます。
心配そうに窓からデボラを見つめるマティ。クランフォードの人々も驚きを隠せない表情です。しかし、「デボラがそうするなら間違いない」と受け入れる女性もいました。

幻想的な夜明けの光のなか、棺と一緒に静かに歩いていく人々の姿がとても美しく印象的です。

数日後、帰宅した大尉は「一人で大変だったね」と声をかけるも、ジェシーの返答は「私は一人じゃなかったのよ」。
大尉はオークの木を削って、暖炉で石炭をくべるためのコールシャベルを作ります。初めてデボラたちを訪れたとき、姉妹が「違うシャベルが欲しい」と話していたのを覚えていたのです。

デボラの家を訪ねた大尉は、今回も「感謝のしるしです(A token of my gratitude)」とシャベルを手渡しました。前回と同じセリフですが、今回は彼の心がこもっています。
受け取ったデボラは「感謝のしるしなんて不要です。私たちはご近所さんではなく、もう友達ですから」と答えるのです。素朴な会話ですが胸が熱くなります。

その後、みんなで暖炉を囲んで座る姿はとても温かく、愛らしいです。
牧歌的なテーマ音楽も、ドラマのどのシーンも絵画のように美しく素敵な第一話でした。

おわりに

ドラマ「クランフォード」にはユーモアも多いので楽しく観ることができます。

ある日、ミス・ポールとフォレスター夫人は、大切なレースを白くしようと、夫人の飼っている牛から取ったバターミルクを使います。レースは一世紀前に修道女が作った貴重な品。皿にミルクを注ぎ、そこにレースを浸していたのですが、窓の外を見ながら話をしているうちに、猫がレースごとミルクを飲んでしまいます。

ミス・ポールのお手本のような「二度見」が本当にコミカルです。

二人は大慌てで猫をバスケットに入れ、下剤を買いに出かけます。それをみかけたジェイミーソン夫人は、チェアメン(セダンを担ぐ人)に急ぐよう命じます。チェアメンは必死に頑張りますが、絶対自分で走ったほうが早い笑。

ジェイミーソン夫人とともに家に戻り、ワーテルローの戦いで使われたブーツを使って猫からレースを取り出します。ウェリントン公爵が長靴を作ったと言われていますが、その原型がこれだったのかと興味深いです。そして、ミス・ポールの表情もずっと素晴らしい笑。

私が観たDVDは英語版で、英語字幕がついています。登場人物の英語は美しく、耳に心地よいのも魅力です。

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