ドラマ「クランフォード」は、エピソード1から感動的な場面がいくつもあり、ユーモアにも溢れていて楽しめます。印象に残ったあらすじをまとめてみました。
エピソード1: 1842年6月のあらすじ
メアリーが居候をしにやってくる
姉妹のデボラ(アイリーン・アトキンス)とマティ(ジュディ・デンチ)の家に、友人の娘メアリー(リサ・ディロン)が居候することに。彼女の到着の1時間前、それを知らせる手紙が届き、姉妹は慌てて部屋を準備します。長らく使われていなかった部屋の家具には布がかけられ、電気のない薄暗い家の様子が印象的です。
姉のデボラはいつも的確で人情味がありますが、あまり笑わないタイプ。マティは穏やかで優しく、寒さの中を馬車でやって来るメアリーを気遣い、部屋に花を飾ります。マティは「手紙に『!』が書かれていたので、大丈夫かしら」と案じます。当時、手紙に感嘆符を書くことは一般的でなかったのかもしれません。ジュディ・デンチの柔らかい話し方はとても癒されます。
メアリーが到着すると「滞在しても大丈夫か」と心配しますが、姉妹は温かく迎えます。お土産は箱いっぱいのオレンジ(当時は貴重)でした。鉄道で運ばれたと聞いて、デボラは「鉄道?」と疑いの表情を見せます。メアリーの亡き母は、小さかったメアリーを連れてデボラたちの家に滞在したことのある仲。継母が意欲的に持ってくる縁談話が嫌でクランフォードに来たと打ち明けます。マティはメアリーの書く手紙をいつも楽しく読んでおり、メアリーもデボラが綴るクランフォードの手紙を楽しみにしていました。
クランフォードでは正午から3時の間に来客を迎えるという慣習があります(訪問時間は15〜30分)。デボラはこれを厳守しており、この時間は町の人々にとって貴重な情報交換の時間のようです。ただ、いつでもおしゃべりをしている印象ですが・・・笑。
この日訪ねてきたのはモーガン医師(ジョン・ボウ)。近々若い新しい医師を迎える予定で、「変化のときが来た」と話すと、驚くデボラ。クランフォードでは変わらないことが美徳であり、モーガン医師もそれを分かっていて「変化しますよ」とワンクッション置いている様子です。ロンドン・ガイズ病院で研修を終えた医師が来ると聞いて、「そんな都会から!?」と驚きます。
「そんな重要なことを他の住人には伝えたのか」と質問すると、医師は、ミス・ポールに話したのですぐに広まるだろうと答えます。町の住人にはそれぞれの役割があるようです。
町の女性たち
いつも噂を広めるのがミス・ポール(イメルダ・スタウントン)。ミス・ポールはフォレスター夫人(ジュリア・マッケンジー)に、モーガン医師から聞いた話を一気に伝えます。若い医師の到着する予定なので、メイドを貸してほしいと頼まれ、新しい医師の世話をする未亡人の家政婦があとから来る予定だということまで。
若い医師は、女王の侍医を務める有名な医師の師事であることを知り、ミス・ポールとフォレスター夫人は興奮します。そこに通りかかったジェイミソン夫人(バーバラ・フリン)にも同じ話を伝えます。彼女は常にセダンチェア(日本でいう籠(かご))で移動しています。さらに、トムキンソン姉妹(セリーナ・グリフィス、デボラ・フィンドレイ)も加わり、一同は新しい医師の話題で盛り上がります。
イメルダ・スタウントンは「ハリー・ポッター」のアンブリッジ役で知られています。私は90年代のイギリスのシットコム「Is it legal?」のステラ役からのファンです。コミカルな演技もシリアスな演技も自由自在の役者です。 ジュリア・マッケンジーはイギリスの舞台・テレビで活躍する女優、歌手、演出家。アガサ・クリスティ原作の「ミス・マープル」主演でも知られています。ミュージカルではその豊かな表現力と歌唱力を披露しています。YouTubeでぜひ彼女の歌を検索してみてください。素晴らしい歌唱力です。
イケメンのハリソン医師が町にやってくる
ハリソン医師(サイモン・ウッド)が到着すると、ロンドンで流行しているスーツ姿のハリソン医師に、モーガン医師は「クランフォードでは医師は黒を着た方がいい」とアドバイスされます。
その後、ハットン牧師の娘のソフィー(キンバリー・ニクソン)に一目惚れ。6歳の弟のウォルターと3人でサクランボを取りに庭に出ると、サクランボよりもソフィーを見つめるハリソン医師。そんなに見なくてもというぐらい笑。
当時の灯り事情、ろうそく
エピソード1の重要なポイントの一つが「ろうそく」。
当時、夜の照明はろうそくやオイルランプが主流でしたが、ろうそくはとても貴重なものでした。
読書好きなメアリーに、マティは「うちはキャンドルを2本灯す」と話しますが、実際には節約のために1本だけ灯している様子。メアリーは暖炉の明かりも利用して読書していますが、それでも暗かったはず。
ミス・ポールが夜に訪ねてきたときは、体面を気にしたのか慌てて2本目のろうそくを灯す描写もありました。ミス・ポールは「とても明るいわね」と言いますが、現代の感覚からしても十分に暗い笑!
ハリソン医師が行う最新医療の手術
ハリソン医師のもとに、落下して腕を複雑骨折した大工のジェム(アンドリュー・ブーカン)が運ばれてきます。
モーガン医師は、クランフォードでは医療設備が整っていないため、ハリソン医師の最初の手術は評判を考えて切断を勧めます。しかしハリソン医師は、最新の医療技術で手術を行う決意をします。彼はレディ・ラドローの屋敷の氷を使ってジェムの腕を冷やし、手術を遅らせる処置を行います。そして必要な器具を取りに馬でマンチェスターへ。クランフォードがあるとされるチェスターからマンチェスターまでは、今なら車で50分ほどですが、当時はかなりの道のりだったでしょう。
夕方に戻ったハリソン医師、手術中の照明に使うろうそくが足りないことを悟り落胆します。雑貨屋を訪ねると、店主は「次の入荷は金曜日」と、医師が注文していた黒いジャケットを代わりに着せます。意気消沈したハリソン医師は店の前に座り込んでしまいます。
町の女性の間では「ジェムの腕が切断されるらしい」という噂が広まり、雑貨屋の前のハリソン医師を見かけたキャロラインは、「ハリソン医師はもう喪服を着ている!」と話をさらに広げます(悪気はないんでしょうけど・・・笑)。ジェムは腕を失えば大工としての仕事がなくなり、町の人々も彼を頼りにしています。隠れて交際中のジェンキンス姉妹のメイド、マーサ(クラウディ・ブラックリー)はドアの陰で涙を流します。
女性たちがハリソン医師に事情を尋ねると、彼は「ろうそくがないせいで、朝まで待つと成功率が下がるかもしれない」と話します。すると女性たちは、自分たちにとっても貴重なろうそくを家からかき集めてきたのです。「こんな親切はロンドンではなかった」と感動するハリソン医師に、デボラは「ここはロンドンではありません。クランフォードですよ」と答えます。何度見ても胸が熱くなる場面です。
手術は無事に成功し、モーガン医師もその技術を認めました。助手を務めたメアリーは、落ち着きと洞察力、度胸、知性を兼ね備えた女性であることが伝わります。ハリソン医師がメアリーを「男性と同等(に仕事ができる)」と褒めると、デボラは「彼女はあらゆる点で男性より優れています」とためらわずに答えます、また、ジェムを心配する女性たちに対してデボラは「冷静でいるためには推測を控えるべき」と、ハリソン医師を自宅に招き入れます。彼女の言葉は現代でも参考になります。
カーター氏とハリーの出会い
ジェムが運ばれてきたとき、カーター氏(フィリップ・グレニスター)とハリー(アレックス・エテル)が出会います。
ハリーはジプシーの子どもで、貧しい家には弟や妹たちがいます。母親は大きなお腹を抱えており、父親はいないことが多い。家計を助けるため、ハリーはレディ・ラドローの敷地の川で魚を捕り、町ゆく人々に声をかけて売ろうとします。
地所管理人のカーター氏は、魚を売る子どもがいると聞いてハリーを捕えます。しかし、ハリソン医師がジェムの腕を冷やすための氷を必要としていたため、カーター氏はハリーを屋敷の地下の氷室に連れて行き、氷を運ぶ役目を与えます。
ハリーは「ここの氷はなぜ解けないのか」「温度とは何なのか」と興味を示します。学校に通っていないハリーの賢さに、カーター氏は気づきます。ハリーは急いで氷を届けることで、魚を盗んだ件は見逃されます。
レディ・ラドロー
ハンベリー・コートの女主人であるレディ・ラドロー(フランチェスカ・アニス)は、クランフォードの有力な地主。厳格な貴族で、階級や伝統を重んじています。
今年もガーデンパーティーを開くつもりのレディ・ラドローに、カーター氏は、彼女の息子セプティマスの浪費の額や回数が増えていると指摘します。イタリアで静養しているというセプティマスは、レディ・ラドローにとって唯一残された子どもで、ここ数年イギリスに帰ってきていません。彼女は金のことで心配させたくないといいます。支出が増えているなんて元気な証じゃないかとも思えますが・・・。
帽子職人のロレンシア(エマ・フィールディング)は、レディ・ラドローの保護下で育った経緯があり、レディ・ラドローの許可を得て帽子店を経営しています。レディ・ラドローは帽子を試しながら、息子にどう思われるかをとても気にします。当時、帽子は外出時の必須アイテムで、階級や品格を示すものでした。女性たちはボンネットを、男性たちはトップハットやボウラーハットなどを着用していました。
レディ・ラドローが屋敷のメイドの採用面接を行うと、応募者の若い女性が「読み書きを少し学んでいる」と言っただけで即却下します。カーター氏は「最近では下層階級でも多少の教育を受けるのが普通になってきています」と話しても、彼女は「女子は奉仕と祈りができれば十分」というのです。
ブラウン大尉が越してくる
デボラたちの家の向かいの空き家に、ブラウン大尉(ジム・カーター)と二人の娘が引っ越してきます。
クランフォードに新しい住人が来るのは珍しく、デボラたちは窓からその様子を観察します。窓越しに並んでいる顔は外からも丸見えだったはず笑。ミス・ポールもやってきて「見学するのに理想的な場所ね」と観察に加わり、運び込まれる家具や家族構成についてあれこれ話します。(ちなみに、ブラウン大尉役のジム・カーターとミス・ポール役のイメルダ・スタウントンは、実生活では夫婦です。)
娘のうち一人は大尉に抱えられて家に入っていきます。そこへチャールズ・モールヴァー卿が現れ、女性たちは少し驚きます。モールヴァー卿は、大尉に鉄道関連の仕事を依頼しに来ていました。
娘の一人ジェシーは、モールヴァー卿と大尉の話を聞いてしまいます。二人は「ジェシーは結婚の時期を逃してしまったようだ」「いまだに申し込む人がいない」と話しています。田舎町で出会いが少ないのに、これはジェシーに気の毒です。
ジェシー扮するジュリア・サワラは「Absolutely Fabulous」のサフラン役。声が魅力的です。ジム・カーターも魅力的な声の持ち主ですね。
空き家だった家にラベンダーを焚いたデボラたちの心遣いに、大尉は礼を言いにやってきます。クランフォードではお礼の訪問は三日後が慣例らしいのに、大尉は「早くお礼したい方なので」とあまり頓着しません。また、「作家ならサミュエル・ジョンソンが好き」と話すデボラに対し、大尉は「チャールズ・ディケンズの方がよい作家です」と無邪気に主張します。そして、ディケンズの「The Pickwick Papers」を「ラベンダーのお礼に」とやや強引にデボラに手渡します。本好きなメアリーは興味津々ですが、デボラは大尉のこの無遠慮さに良い気がしていない様子。
とはいえ、大尉は悪い人ではありません。大きなお腹を抱えたハリーの母親が中身の入った鍋を落としたとき、人々が見て見ぬふりをする中、大尉はためらわずに手を差し伸べます。そしてハリーたちに優しく声をかけるのです。「チャールズ・ディケンズの読み過ぎなのよ」と分析するデボラたち笑。
慣習より大切なこと
大尉はしばらく家を空けることになり、娘たちに何かあったときは手助けしてほしいとデボラに頼みます。ジェシーは「私は大丈夫なのに」と父に言うものの、デボラは「ご近所として当然のことです」と事務的に返事をします。少しよそよそしく、先日の大尉の無遠慮な言動をまだ気にしている様子。
ところが、大尉の留守中に体の弱かったジェシーの姉が亡くなってしまいます。取り乱したジェシーはデボラたちの家に助けを求め、葬儀の手配をしなければならないし、父が戻らなければ、自分が棺の後ろを歩くつもりだと話します。「女性は葬儀には参列できません」というデボラに、ジェシーは「姉が一人で埋葬されるのは耐えられないし、父も落胆します」と訴えます。
デボラとマティは「ジェシーが参列することはクランフォードの慣習ではないし、話の種になってしまう」と心配。メアリーはマンチェスターでは女性の葬儀参列が普通になりつつあることを話しますが、デボラは「ここはクランフォードだから」と否定します。そして、「ジェシーも私も導きが必要です」と一晩祈り、考えます。
葬儀の朝、ジェシーがすすり泣きながら棺の後ろに立つと、喪服姿のデボラが現れて隣に立ちます。二人は一緒に棺の後ろを歩いていきます。心配そうに窓から見つめるマティや、驚きを隠せないクランフォードの人々。フォレスター夫人は「デボラがそうするなら間違いない」と受け入れます。幻想的な夜明けの光の中、棺と一緒に歩く人々の姿はとても美しく印象的です。
数日後に帰宅した大尉は「一人で大変だったね」と悲しい表情を見せますが、ジェシーは「私は一人じゃなかった」と答えます。
大尉はオークの木を削り、暖炉で石炭をくべるためのコールシャベルを作ります。初めてデボラたちを訪れたとき、姉妹が「違うシャベルが欲しい」と話していたことを覚えていたのです。
デボラの家を訪ねた大尉は、「感謝のしるしです」とシャベルを手渡します。前回と同じセリフですが、今回は心がこもっています。デボラは「感謝のしるしなんて不要です。私たちはご近所さんではなく、もう友達ですから」と答えるのです・・・。
素朴な会話ですが胸が熱くなります。その後、みんなで暖炉を囲んで座る姿はとても温かくて愛らしいです。
「クランフォード」は、第一話が一番好きです。ストーリーが素晴らしく、どのシーンも絵画のように美しいです。
ミス・ポール
「クランフォード」はユーモアも多く、特にミス・ポールのシーンは楽しいものが多いです。
ある日、ミス・ポールとフォレスター夫人は、大切なレースを白くしようと、夫人が飼っている牛から取ったバターミルクを使います。レースは一世紀前に修道女が作った貴重な品。ミルクを注いだ皿にレースを浸し、窓の外を見ながら話しているうちに、猫がレースごとミルクを飲んでしまいます。お手本のようなミス・ポールの「二度見」がコミカルです。
二人は大慌てで下剤を買いに走ります。それを見かけたジェイミーソン夫人は、チェアメン(セダンを担ぐ人)に急ぐよう命じます。チェアメンは必死に頑張りますが、絶対自分で走ったほうが早い笑。
ジェイミーソン夫人とともに家に戻り、ワーテルローの戦いで使われたブーツを使ってレースを取り出そうとします。ウェリントン公爵が長靴を作ったと言われていますが、その原型がこれだったのかと興味深いです。そして、ミス・ポールの表情もずっと素晴らしい笑。
おわりに
私のDVDはイギリスで購入したもので、英語字幕がついています。登場人物の英語は美しく、耳に心地よいのも魅力です。





