クランフォード(Cranford)第3話のあらすじと感想

ドラマ「クランフォード」は、物語の魅力はもちろん、登場人物一人ひとりが個性的で、衣装や舞台もとても丁寧に作られていておすすめです。どのシーンもまるで絵画のようで心を奪われます。

家の中の足音、ドアの開閉音、女性たちの歩く音、馬の蹄の音など、細やかな音の演出も美しく印象的です。

特に心に残ったシーンのあらすじをまとめておきます。

※ 一部ネタバレしています!

目次

エピソード3: 1842年11月

L-I-B-E-R-T-Y

ペンキを塗る作業をしているハリーの背後で、「L」と言うカーター氏。

ハリーはアルファベットの「L」を壁に書きながら、
「『L』は『Labour(労働)』を意味し、食料と誇りを生み出します」と答えます。

カーター氏は次に「I」と言い、ハリーは同様に「I」を壁に書きながら、
「『I』は『Intelligence(知性)』です。すべての人が生まれながらに持っているものだけど、その使い方を学ばなければなりません」と続けます。

そしてハリーが書いた文字を読むと「LIBERTY(自由)」になるのです。教育は人を自由にするのですね。そして「人が来るから今書いたものを早く消して」とというカーター氏。

これは私の大好きな場面です。カーター氏が素敵です。

強盗事件を心配する人々

その頃、町では強盗事件が続いていました。ハリソン医師の家に強盗が入り、雑貨屋のジョンソン氏も背後から殴られて店を襲われました。

ジョンソン氏の妻は「アイルランド人かもしれません。シラミのようにこの辺りに広がって、アヘン中毒者もすぐ追ってくるでしょう。マンチェスターの店のようにうちもシャッターを取り付けないと」と、当時の人々の不安を次々と並べます。

マティの家に集まった女性たちは「きっとフランスからのスパイよ」と話しますが、あまり役に立っていません。

男性たちも集まり意見を交わします。犯人を捕まえる必要はあるが捕まえるのと捜すのは別の任務である、ロンドンには巡査がいるというが給料が払われている。早く犯人を捕らえるべきだが、ジョンソン氏は背後にいた犯人の顔を見ていない等々。

ミス・ポールは銀製品を集めてマティの家に避難します。彼女がマティのベッドを使うことになり、マティとメアリーはメアリーの部屋で一緒に寝ることに。怖くてろうそくをつけたまま眠ります。

ハリーの父親の逮捕

貧しいハリーの家族はどこかから食料を調達しなければなりません。
ハリーは「ここはレディ・ラドローの敷地だから」と父を止めますが、父は「子どもたちが腹を空かせている」と聞かずに敷地に入っていきます。そして二人は上等な雉を数羽見つけて家に持ち帰ります。

ところが翌日、ハリーが仕事に行くとカーター氏が慌てています。昨晩、密漁者が現れてレディ・ラドローの雉を捕ってしまったというのです。雉は12月に謹呈する大事なもので、レディ・ラドローはそれができなくなり立腹しているとのこと。当然ながらハリーは「まずいことになった」と感じます。

しばらくして、ハリーの父は家族を連れてジョンソン氏の店にやってきます。
手には何枚かの硬貨。おそらく捕った雉の一部をお金に換えたのでしょう。硬貨をチャリンチャリンと鳴らす父。あまり品があるものではないし、しまっておいたらいいのにと思ってしまいます。それを見たジョンソン氏は勘ぐる様子を見せます。

その夕方、ハリーの家では懐が潤ったおかげで充実した夕飯を過ごしていました。しかし突然の訪問があり、父はジョンソン氏を襲った罪で逮捕されます。

普段お金がない人が急に持てば怪しまれるのは自然なことだとは思いますが、「襲った犯人」が「襲った店」で白昼堂々と家族を連れて買い物をするだろうかと疑問にもなりますが・・・。

ハリーの父はクランフォードの街の真ん中にある仮収容施設に入れられ、ハリーはパンと果物を持って父に会いに行きます。

「正直に話すべきだ。さもないと父さんが船で送られてしまう」と言うものの、父は「密漁がばれたらお前も捕まる。まだ10歳だから刑務所には入れたくない」と答えます。

だったら父さんちゃんと働けよ。ハリーが可愛そうだよ・・・。

翌日、ハリーはカーター氏のオフィスで助けを求めます。
「父はジョンソン氏を襲っていません」
「父親があの時間何をしていたか証明できるのか」
「父はレディ・ラドローの敷地で密漁をしていました。夫人の雉を捕りました」
「証明できるのか」
「・・・僕が一緒にいたからです」

出ていくように言われ、ハリーは涙を浮かべて屋敷を去ります。

大切な雉を捕っただけでなく、お世話になっているカーター氏の顔にも泥を塗り、裏切ることになってしまいました。切ないですね・・・。

レディ・ラドローーとカーター氏

しかし、カーター氏はハリーのために、レディ・ラドローのもとへ取り計らいを願いに向かうのです。

カーター氏は、ハリーの父親の罪状を「敷地内の密漁」として訴えて欲しいと頼みますが、レディ・ラドローは「どうして私が密漁者を助ける必要があるのか」と答えます。

「ハリーの家族には小さな子どもが多く、父親が船で送られたら家族は生きていけません」と訴えるものの、「彼らは私の借家人ではないので何の責任もありません。私に何をしてほしいのですか?」と逆に質問されてしまいます。

カーター氏は、囲い込み法が施行されて以来、貧しい人たちは土地を追われ食料や燃料を手に入れる場所がなくなったと説明します。この件を取り扱うモールヴァー卿に、ハリーの父が敷地内で密漁していたことを保証して欲しい。父は密漁をした罪で3ヶ月の懲役か5ポンドの罰金になるが、妻を事実上の未亡人にして6人の子供が父親を永遠に失う状況よりはましだから、と訴えます。

それでも合意できないと言うレディ・ラドロー。

「あなたが助けないなら神が助けるでしょう」と部屋を去るカーター氏。

どうしましょう。カーター氏がかっこよくて・・・。

当時イギリスでは囲い込み法(Enclosure Act)が施行され、貧しい人々、特に多くの農民層は住む場所を失いました。「common land(共有地)」と呼ばれる土地では、村人が家畜を放牧し薪や果物を採って暮らしていました。地主が名義上の所有者ですが、村人には「慣習的利用権(コモン・ライツ)」があり、放牧や枯れ枝拾い、食べられる草や果実を採ることが認められていました。地主が一方的に追い出すことは難しかったのです。

しかし、囲い込み法の施行により地主は合法的に村人の立ち退きを主張できるように。生活できなくなった人々は仕事や家を求め都市に流れ、都市の貧困や労働問題の一因となりました。一方、地主階級は広大な農地を支配し農業の大規模化と利益増加を享受しました。この変化は貧富の差を広げ、封建社会から資本主義への転換点となりました。

レディ・ラドローのクリスマス・イブ

レディ・ラドローはカーター氏の訴えに心を動かされたのか、ハリーの家を見に行きます。

ほとんど小屋のような家にたくさんの子供がいて泣き声も響いていました。「こんな世界があるのか」と彼女は大きな衝撃を受けたようです。

クリスマス・イブの夜、レディ・ラドローはカーター氏を連れて町の仮収容施設へ向かいます。そこで判事のモールヴァ―卿を呼び出し、被告の罪状を「彼女の敷地内の密漁」に変えるように言います。モールヴァ―卿は彼らは放浪者で密漁者でもあり、それだけで罪だと法律を説明しました。

それに対しレディ・ラドローは、「法律を作るのは誰ですか?下院のあなたのような者ですか、それとも貴族院の私でしょうか?あなたには判事としての特権もあるはずです」と返します。そして「被告を密漁で有罪にしたら罰金は私が払います。6人の子供を持つ父親を救うためです。その代わり彼には私の敷地で働いてもらいます」と告げました。こうしてハリーの父は家に戻ることができました。

カーター氏もモールヴァ―卿も呼び出されたときには「クリスマス・イブなのに?」と驚いていましたが、ハリーたちにとっては思いがけないクリスマスプレゼントとなったことでしょう。

マーシュランド医師

その頃、ハリソン医師の友人であるマーシュランド医師がクランフォードを訪れていました。彼はハリソン医師とガイズ病院で知り合い、現在はマンチェスターの病院勤務。

ハリソン医師は「トムキンソン姉妹からクリスマス・イヴのパーティに招待されているけれど行きたくない。牧師の娘のソフィーからの招待なら嬉しいのに」と話します。マーシュランド医師もトムキンソン姉妹のパーティに一緒に行くことになりました。

クリスマス・イブのパーティーで


パーティでは町の女性たち、ブラウン大尉とジェシー、ハリソン医師たちが招待され、料理を楽しんだりゲームをしたりして楽しく過ごしています。

キャロラインはやはりハリソン医師をずっと意識している様子。
社交的でなマーシュランド医師は、ハリソン医師の過去の面白いエピソードを話したり、歌を披露したりしてしてパーティを盛り上げました。

デボラはブラウン大尉にきついことを言った直後に亡くなり、それ以来ブラウン大尉とは疎遠だったマティは大尉の隣に座り声をかけます。二人は今年、それぞれの家で大切な家族を亡くし悲しい年だったと振り返ります。マティが「ゴードン少尉はジェシーをとても気に入っていましたね」と触れると、ブラウン大尉は驚く様子を見せます。

そして「本当に知らなかった」と言うのです。やはり気づいていませんでしたね・・・。

バレンタイン・デーの勘違い

バレンタインデーが近づくと、ジョンソン氏の店先にバレンタインのカードが並びます。
以前は花束を贈るのが一般的でそれだけで気持ちを伝えられると考えられていましたが、最近はカードが流行り始めています。もちろん女性たちはカードを見ながら話に花を咲かせます。

「最近はカードが機械で作られているらしい」
「機械がどうやって作るの?」
「機械で作ったものでどうやって気持ちを伝えられるの?」
「メイドがカードをもらったら言い訳できないわよね」

女性たちの家にはメイドがいて、当時は一般的にメイドが恋人(follower)を持つことは許されませんでした。社会階級や道徳観念が恋愛を制限していたためです。メイドが花をもらっても「特別な意味はない」と説明しやすいのですが、カードは気持ちがはっきり示されるため言い訳できないわね、と言っているのです。

しかし、マティのメイドであるマーサは大工のジェムからカードを受け取ります。カードを見つけたマティは複雑な表情を見せます。

その頃、マーシュランド医師がまたクランフォードにやってきます。
「ソフィーとはまだ何の進展もない」と言うハリソン医師に、マーシュランド医師は「花を贈ったらどうだろう」と提案します。二人が花屋に行くとソフィーと妹たち、それからトムキンソン姉妹に出くわします。

マーシュランド医師はソフィーの妹たちに匿名でバレンタインカードを書くといいます。そしてハリソン医師に内緒でキャロラインにも匿名のカードを書くのです。

ソフィーの妹たちはカードを受け取って喜び、花を受け取ったソフィーはハリソン医師を食事に招待しました(花は匿名ではなかったので)。

キャロラインはマーシュランド医師からの匿名のカードを受け取ります。しかし姉妹は、それをハリソン医師からだと勘違いして大喜びします。

当時のバレンタインカードは差出人を記さないのが一般的でした。これは想いを寄せる相手に匿名で気持ちを伝えるロマンチックな遊びとして好まれていたり、当時の英国社会では特に女性が恋愛感情を公にすることが望まれず匿名で表現することが礼儀とされていたり、または、ユーモアを込めて送られたりしていたことからといいます。

マーシュランド医師のように社交的で冗談好きな人物は、バレンタインカードを文化的な遊びとして送ったのでしょうが、クランフォードのような小さな町では恋愛は非常に慎重。トムキンソン姉妹のような純粋で礼儀正しい女性たちは、バレンタインカードを真剣な告白と受け取りやすかったと思われます。

このマーシュランド医師の「ユーモア」が、後々、ハリソン医師に思わぬ深刻なトラブルをもたらすことになってしまうのです・・・。

ホルブルック氏との過去

ジョンソン氏の雑貨店で、マティはホルブルック氏と再会します。

前に会ったのは夏のガーデンパーティ。電話もメールもなかった時代では3か月会わないことは珍しくありません。手紙も届くまでに何日もかかるのが当たり前の頃ですから・・・。

ミス・ポールはホルブルック氏のいとこにあたります。メアリーが彼女を訪ねたとき、ミス・ポールはホルブルック氏とマティの間にかつて何があったのかを語りました。30年前、彼はマティにプロポーズしたのだというのです。

ホルブルック氏は農夫で、牧師だったマティの父や姉のデボラは、彼はマティにはふさわしくないと考えていたようだ、ふるまいも紳士というよりは農夫であったと語ります。あくまでもミス・ポール談です。
マティは結局プロポーズを断ったので、ミス・ポールは「マティも彼のことをそれほど好きではなかったのでは」と推測します。そしてその後、ホルブルック氏は30年間クランフォードに近づかなかったといいます。

ある夜、マティもメアリーに30年前に何が起こったのかを話します。(町の人々はメアリーに色々と打ち明けてしまうようです笑)
マティにはピーターという弟がいました。素行が良い方ではなく、牧師の家柄にありながら町の人を巻き込んでスキャンダルを起こしてしまったのです。ピーターはほどなくして町を去り、数か月後には(おそらくそれが原因で)母の精神が不安定になり亡くなりました。この一連の出来事は、マティの家族にとって大きな傷となり、クランフォードでも語り草になっていたようです。

それでもホルブルック氏はマティにプロポーズしました。
本当は結婚したかったマティでしたが、家族を残して自分だけが幸せになることはできず断ってしまったのです。その後、ピーターはインドで軍人となり、いまだに戻らないといいます。

ホルブルック氏を訪れる

マティ、メアリー、ミス・ポールの三人はホルブルック氏の家に招かれます。

ホルブルック氏の家も趣があってとても素敵です。

2階に上がったマティは、壁に掛けられたホルブルック氏の若い頃の横顔のシルエット画を見つけます。おそらくマティにプロポーズをした頃のホルブルック氏なのでしょう。

ミス・ポールにとってこの家は久しぶりの訪問のようです。到着するなり家具の埃を調べたり、メイドに服やリネンを出させて、状態をチェックしながら「これが最後に使われたのはいつなのかしら」とあれこれと口にしています笑。ホルブルック氏が一人暮らしでそうしたものを適切に管理できていなかったのではと気にしている様子です。

ホルブルック氏はずっとマティのことを想っていたようです。その日もマティばかりを気にかけ、ミス・ポールが「隙間風が入ってきて寒いわね」とこぼすと、「ああ、それは失礼」と言ってマティにショールをかけます。

そのときのミス・ポールの表情がまたコミカルです。イメルダ・スタウントンの表情の演技が魅力的です。

後日、ホルブルック氏はマティを訪ねてきます。
彼はパリへ旅行に行く予定だと話し、戻ってからまた会う約束をします。彼は再びプロポーズをしたいような雰囲気で、マティも今度はそれを受け入れる気持ちがあるように見えます。

しかし、とても残念なことに、ホルブルック氏はパリからの帰りに風邪をこじらせ、肺炎を患い亡くなってしまいます。

おわりに

当時は手紙が届くまでに数日かかり、仕事で出かけた相手とはしばらく連絡が取れない、また、海外に行ってしまうと手紙のやり取りに数か月、帰ってくるまでにもさらに時間がかかりました。人々にとって「待つこと」は当たり前で、時間の流れや情報の届き方に対する感覚は今とはまったく違っていたはずです。

一度別れた相手にもう会えない可能性や、手紙が届かないこと、予定が大幅に狂うことも想定していたと思います。現代のようにメッセージの返信をすぐに期待する感覚とは全く違いますね・・・。

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