「ドライビングレッスン(Driving Lessons)」は、2006年に公開された映画。
内気な10代の少年と、風変わりな年配の女優との友情を描いたエピソードです。
「ハリー・ポッター」で「ロン・ウィーズリー」役を演じたルパート・グリントが主演です。助演はイギリスの名女優ジュリー・ウォルター。「ハリー・ポッター」シリーズではロンの母、「モリー・ウィーズリー」として登場していました。
10代のルパート・グリントは透明感があって美しいです笑!
彼が杖を持って台詞をいうシーンも登場します笑。
ロンドンの美しい住宅街、2人がドライブするカントリーサイド、エジンバラの街並みなど、美しい風景が数多くするので眺めているだけでも楽しめます。
オープニングタイトルの背景は、ベンの住んでいる地域の住宅地図のようです。ルパート・グリント演じるベンが自転車で年配の家々に食事を届けて回っている様子が描かれます。
(画像は引用目的で使用しています)
「ドライビングレッスン(Driving Lessons)」あらすじ
17歳のベン(ルパート・グリント)の家は、敬虔なクリスチャンの家庭。
父(ニコラス・ファレル)は牧師で、教会では「神は私たちに自由を与えた」と説教し、母(ローラ・リニー)は慈善活動に熱心で、ベンに自転車で高齢者宅へ食事を届けさせたり、当然のように教会の活動に参加させます。
映画のタイトル通り、ベンは運転免許試験に挑みますが、車をぶつけてしまい不合格に。母は「運転を教える」と理由で、さらにベンをコントロールしている様子。慈善活動の訪問先の一つには、実は母の不倫相手である教会関係者ピーターの家も含まれていました。
さらに、母は精神的な問題を抱えるフィンチャム氏を家に引き取ります。慈善とはいえ、そのような人と一緒に暮らすのはちょっと怖いわ・・・。
母はフィンチャム氏の世話の手伝いとして、ベンに夏休みに仕事をするよう求めます。クリスチャンとしての価値観を持ち出して説得する母に、ベンは逆らえず、これまで通り素直に従います。
一方、ベンは教会で一緒に活動しているサラに思いを寄せており、彼女のために詩を書きます。ある日一緒に歩いていたとき、「君の髪はきれいだ。詩を書いた」と突然伝えます。これだけでも「キモい」のですが笑、「読んでもいい?」というベン。
「今はいいから」「後でいいから」「本当に大丈夫だから」と断り続けるサラですが、ベンは読むと決めていたらしい。詩を読み上げると、サラに「悪いんだけど、気持ち悪い」と言われてしまいます。
ベンは仕事を探すために、教会で発行されている教区誌「Hello Jesus(こんにちはイエスさま)」の求人欄をチェックします。そして、ハムステッド在住の、ほぼ引退状態の女優が出していた「家と庭の手伝い」の求人に応募します。
女優の家を訪ねるベン。赤レンガのハムステッド駅が美しいです。
高級住宅地にあるその家を訪ねると、女優のイーヴィー(ジュリー・ウォルターズ)は庭の手入れをしていました。草木が伸び放題の広い庭で、彼女は女優ということあり声が大きく、下品な言葉を交えながら低木の枝を切っていました。
イーヴィーは、ベンの両親とはまったく異なるタイプで、個性的でよくしゃべり、自由気ままなスタイルです。彼女はすぐにベンを気に入り仕事をオファーします。ベンはその勢いに押されるようにして彼女のもとで働くことを決めました。
イーヴィの家での仕事とは
ある日、ベンはイーヴィーにつき合って「Cotswold(キャンプ用品の店)」に行くためにダブルデッカー(2階建てバス)の2階にあがる二人。
誰かが席を譲ってくれるとでも思ったのか、イーヴィーは「一番前に座りたい」と大声て言ってみたり、ベンはゲイではないかと話します。車内の乗客たちが何となく聞き耳を立てる中、ベンはそんな彼女の態度に驚いているのか無表情です笑。
店内では「キャンプ用品を全部見せて」と次々に商品を試します。アルプスの山の写真の前で、「ヨーロレッヒッヒー」と大声で歌い上げるイーヴィー。さすが女優、見事な声で響かせます。そして、高い場所に登って降りられなくなり、「ベン!あなたの肩に私のケツを乗せていい?」と叫びます。口は悪いですが素直で、だんだん可愛い人に見えてきます。
結局、何も買わずに店を出ますが、イーヴィーは商品をひとつこっそり持って出てきてベンを驚かせます。
帰宅すると、家の前には怒った仁王立ちしている母の姿が。夕方6時にドライビングレッスンの約束をしていたのです。ベンは携帯電話を持たせてもらえていないから連絡できないと反論しますが、そのまま母の慈善活動に同行させられます。
イーヴィの相手役と木の役
イーヴィーにはアルコールに依存しているような一面があり、仕事に来たベンが倒れている彼女を発見したことがありました。また、彼が散らかった部屋を片づけようとしたときには「私のものに触るな」と怒鳴られたこともあり、複雑な背景があるようです。
そのせいか、ベンは辞める意向を伝えるつもりでいたところ、イーヴィーはベンが片づけるために動かした本の中に、長い間なくしたと思っていた本が見つかったというのです。
彼女はそのうちの一冊を開いてベンに渡し、「コリオレイナスをやって。私は母親役をするから」と言います。
その瞬間、彼女の表情が変わり、シェイクスピア「コリオレイナス」の母親の台詞を語り始めます。長年の経験がよみがえったかのように自然と台詞が出てくるのです。
「コリオレイナス(Coriolanus)」は、シェイクスピアによるローマの将軍の生涯を描いた悲劇です。あまり知られていない演目らしく、イーヴィーの演劇や文学への深い理解が感じられます。
その後も2人は、「マルフィ公爵夫人(The Duchess of Malfi)」、「夏の夜の夢(A Midsummer Night’s Dream)」、「オセロ(Othello)」などを演じていきます。オベロン役で杖を持つベンは自信がなさそうで、ハリー・ポッターのロンとはまるで違って見えます。
イーヴィーは「上手!これをするために生まれてきたわね」とベンを褒めます。2人は次第に打ち解けていきます。庭は草木が伸び放題ですが、広くて美しくどこか落ち着ける空間です。
そして、イーヴィーは「明日からキャンプに行こう」と誘います。ベンはまず教会に行って父に相談します。母に言っても反対されるだろうと思ったのでしょうね・・・。
夕食時にその話を父がすると、案の定、母は即座に反対。
「ベンは教会のページェント(宗教的・歴史的なテーマの劇)に出演するからダメ」と言い張り、「彼は立ってるだけの木の役じゃないか」と指摘する父。
すると、母は「ベンは他にもやることがあるし、ここにいる必要がある」と断固反対します。
キャンプに行くことになってしまう
ベンが「キャンプには行けない」と伝えに行くと、イーヴィーは「じゃあドライブに行きましょう」と提案し、ベンに運転させます。
イギリスでは仮免許があれば、フルライセンスを持つ21歳以上の人が同乗し、「Lプレート」を表示し保険に加入していれば運転可能です。ただ、イーヴィーの車に「L」の表示はありませんでしたが。(おそらく保険にも入っていないかと)
車窓の景色に感動するイーヴィーは、女優ならではの豊かな感性を感じさせます。ただし、「*ucking green!」と相変わらず口は悪いままですが・・・。
ベンが「そろそろ引き返したほうがいいんじゃないか」と言うと、イーヴィーは「まだ早いわよ」と答え、キャンプ場に立ち寄ります。休憩すうるイーヴィーの後ろでベンはテントを設営します。「6時までに帰らなきゃ」と重ねて言うも、「まだ食事もしてないし、時間はあるわ」と返されます。
痺れを切らしたベンがテントを片づけようとすると、イーヴィーは車の鍵を飲み込んでしまいます。ベンはどうしようもなく、結局そのまま泊まることに。焚き火で焼いたソーセージはとても美味しそうです。
ワインを飲んでリラックスしたベンは、星空の下に寝転んでサラの話を始め、自作のポエムを「気持ち悪い」と言われたことまで打ち明けます。イーヴィーは「まあ、焦らないことね」とアドバイスします。
近くの公衆電話から家に連絡すると、母は激怒しており「警察に通報する」とまで。ベンが「イーヴィーは友達なんだ、やめてくれ」と訴えると、母は「じゃあ帰ってきたときに話しましょう」と冷たく言い放ちます。
キャンプからエジンバラへ
翌日、やっと帰れると思いきや、イーヴィーは「エジンバラまで運転してほしい」と言い出します。朗読の仕事があるからといいます。
ベンが「もう無理だよ。僕は電車で帰る」と返すと、イーヴィーは「私は運転できないし、この車は元夫のものなの」と言います。そして突然、発作のような症状を起こし、「原因不明の病気を抱えているの」と話し出します。そんなイーヴィーを心配したベンはエジンバラまで同行することに。
田舎道を走る車からは気持ちよさが伝わり、のどかで美しい風景が広がっています。さらに、リチャード・トンプソンの「One Door Open」が流れ、エジンバラへ向かうドライブの雰囲気を盛り上げています。
エジンバラの街並みも美しいです。
イーヴィーは翌日の朗読会に向けて異常なほど神経質になっていました。そのため、明日はベンにそばにいてほしいと頼みます。もちろん彼は了承しましたが、その夜、スタッフのブライオニー(ミシェル・ダンカン)とバーに出かけ、彼女の部屋で一夜をともにしてしまいます。「初めて?」と聞かれて「違う」と答えるけど、絶対に嘘だ笑。
ブライオニーのスコットランド訛りはとても魅力的で、バーで生演奏されていた「Salsa Celtica」の音楽もとても良いです。ラテンとケルトが融合したサウンドで、キルト姿のメンバーがいるのもユニーク。ベンにとってはどれも新鮮な体験だったはず。
翌朝、部屋にベンがいないことに焦るイーヴィーは火災警報器まで鳴らしてしまいます。仕方なく1人で会場に向かいステージに立ちものの、本を落とすほど手元が不安定。「大丈夫、暗記してます」と言いつつも、台詞が飛んだり、しどろもどろなことを言ってしまったり・・・。そこへベンが駆けつけ、彼女を外へ連れ出します。
車の中で「チェルトナムでのリサイタルの手配をしたから、次はちゃんとやろう」と言うベンに対し、イーヴィーは「もうやりたくない」といいます。キリスト教的な価値観で育ったベンは「神様は理由があってその才能をくれたんだ」と励ましますが、イライラしたイーヴィーは「やりたくないし、病気も演技だったの」と感情的に車を飛び出します。
「たった一度、11時に一緒にいてほしいって頼んだだけなのにどうして?誰といたの?」と責め、ベンは「ブライオニーと一緒にいた」と告白します。
その後二人は家には戻らず、途中のキャンプサイトに立ち寄ります。
家にたどり着くまでにワンクッションあるのは悪くない選択かもしれません。
翌日、イーヴィーを自宅まで送ると、「行きたくなかったのに、だまして連れて行ってごめんなさい」と謝りますが、ベンは「とても素敵な時間だったよ」と答えるのでした。
神の役を演じるイーヴィ
一方、ベンの家では、怒り心頭の母がまた家の前で仁王立ち、今回はフィンチャム氏も一緒で、驚いたことにベンの母と同じ服を着ています。
なんだかおかしな雰囲気が漂っていますが・・・。
母はイーヴィーのことを「あの女優」呼ばわりし、ドラッグや虐待などという言葉をつかって批判します。
ベンが「彼女は僕を必要としていて、友達なんだ」と反論しても、「神の家を去ることは許さない。私をもう裏切るな」と聞き入れず、翌日からまたベンを連れまわします。
しばらくしてイーヴィーがベンの家を訪ねると、母は「彼はもう働きたくないようです」と噓をついて追い返してしまいます。
そして教会のページェント当日。
木の衣装を着たベンは、母がイーヴィーを追い返していたことを知り、そのままの格好でイーヴィーの家に向かいます。
イーヴィーは酒を飲んだらしく、テーブルにうつ伏せていました。
ベンは郵便受けから、母がイーヴィーが来たことを隠していた、僕は今あなたと話したい、僕たちは親友だ、僕をあの会場に場に戻さないでくれ」と叫び、会場に戻ります。
会場では最後の章の演技が始まっていました。ベンが戻ってきたので、母は「ほら戻ってきたわね」とでもいいたげな表情です。
「キリストは光の中に歩み出し、そして父なる神が叫びます・・・」という台詞の後、イーヴィーが「息子を迎えに来たぞ!」と言って会場に現れます。
かっこいいです。
「くそっ」とつぶやく母。
お母さん、本性が出てますよ・・・。
イーヴィーの演技が加わったじちで舞台は熱を帯びます。
「神の息子が別れを告げる時が来た。主よ!立ち上がって空に叫べ!もう木にはなりたくない、人間になるんだ!私は根も枝もないのだ!」と、ベンの衣装の腕を投げ捨てて彼を連れ去ります。
母は慌ててコーラス隊を呼びましたが、それがかえってイーヴィーの演出のBGMのようになってしまいます。観客の中には感動して立ち上がり、熱狂する人もいました。
さすがは女優、彼女の存在感は圧倒的です。
母が「家に帰ろう」と外まで追いかけてきますが、ベンは「もう母の人生を生きたくない」と拒み、母の不倫を指摘しました。その直後、母はフィンチャム氏の運転する車にはねられて入院することに。
病院でベンが見舞うと、母は「お父さんとしばらく話して、神に祈ったら『離婚しろ』という声が聞こえた」と言い、浮気相手のピーターが母をコーンウォールで療養させるというのです。
病室を出ると、ベンがかつて詩を書いたサラも見舞いに来ていました。彼女も母の不倫を知っており、それも神の御心だと語ります。うんざりしたベンは「どこかに行け」と突き放します。以前の彼からは考えられない変化です。
その後、ベンはイーヴィーから手紙を受け取ります。
「何があってもただの結末で、すべてはあなた次第」と書かれています。「最後にウィリアム・シェイクスピアの言葉を添えます」といい、「大変なことになったら、テントを張っておけ」というのです。
彼女らしいユーモアです。
ベンが庭にテントを張っていると、父がやってきます。
ベンは母から聞いた話に対して怒りをぶつけます。「母はひどいことをしたんだから、もっと文句を言うべきだったし、離婚を言い渡すべきだった!「どこかに行け」って言ったらよかったんだよ!」と訴えます。
すると父は、離婚を切り出したのは自分だと明かしました。
ベンが「しばらくテントで暮らしてみる」と言うと、父は「自分のスペースを持つのもいいことだ」と答えます。そして「スコットランドでヒバリを見た」と話すと、野鳥好きの父は「見たことがないから羨ましい」と言い、「ベンのことを愛している」と伝えました。ベンも「僕もだよ」と応えます。
優しく理解ある父がいるのに、狂信的な母のせいで長い時間を無駄にしてしまったようです。
しばらくするとベンは本屋でのアルバイトの休憩時間にイーヴィを訪ねます。
「本屋での仕事なんてぴったりね」とイーヴィ。
ベンが「今は一人暮らしをしているよ、庭だけど」と伝えると、「素晴らしいことね」と喜んでくれます。
そして「エジンバラの大学で英語を専攻する予定」と話すと、「いい選択ね」というのです。
すべてを肯定し褒めてくれる存在は、本当にかけがえのないものですね・・・。
おわりに
教会での活動に熱心で、精神的に不安定な人を引き取る母の信仰よりも、イーヴィーの生き方やあまり多くを語らなかった父の優しさのほうが、ベンの人生にとって真の信仰の価値があるように感じられました。
長距離を運転してエジンバラの街やロンドンの街まで帰ってこれるなら、かなり運転技術は上がっていると思います。
私が持っているDVDは、イギリスのアマゾンで購入したものです。日本ではあまり知られていないようで、DVDも販売されていないようです。
ただ、ルパート・グリントファンにはぜひおすすめしたい映画です。ご覧になりたい場合、イギリスのアマゾンから取り寄せてみてくださいね。