「From Time to Time」は、2009年に公開のイギリス・ファンタジー映画です。
舞台は、ケンブリッジシャー州ヘミングフォード・グレイ村にある邸宅「マナーハウス」。
オープニングに「Lucy M. Boston」と表示され、台詞に「Green Knowe(グリーン・ノウ)」が出てきたので「ボストン夫人」の原作だと気づきました。
ボストン夫人は「グリーン・ノウ」シリーズとして6冊の子供向け小説を発表(1954~1976年)、また、パッチワーク作家としても知られています(ボストン夫人のパッチワーク)。グリーン・ノウという古い屋敷はボストン夫人が実際に住んでいた家で、小説に登場するアイテムの多くが屋敷内にあるそうです。
「イギリスはおいしい」の著者である林望先生は、1990年代にイギリス滞在中、このボストン夫人のお宅に2年ほど下宿されていました。林先生のファンなので記憶に残っていました。(「イギリスはおいしい」はとても面白いのでおすすめです)。
「From Time to Time」は「グリーンノウの煙突(The Chimneys of Green Knowe:1958)」が原作で、歴史、ミステリー、ファンタジーが融合された心温まる作品です。
キャストは、アレックス・エテル、マギー・スミス、ティモシー・スポール、カリス・ヴァン・ハウテン、エリザ・ベネット、エリザベス・ダーモット・ウォルシュ、ドミニク・ウェスト、ヒュー・ボネヴィル、ポーリン・コリンズ 。
監督・脚本のジュリアン・フェローズは、映画「ゴスフォード・パーク(Gosford Park)」の脚本、「ダウントン・アビー(Downton Abbey)」の脚本、「ベルグレイヴィア(Belgravia)」の原作・脚本、またスコットランドが舞台の映画「Monarch of the Glen」にも出演しています。
「From Time to Time」のあらすじ
第二次世界大戦末期のイギリス。13歳の少年トリー(アレックス・エテル)の父はまだ戦地から戻っておらず、トリーの母が父の消息を探す間、トリーは一時的に父方の祖母、オールドノウ夫人(マギー・スミス)の屋敷「グリーン・ノウ」で過ごすことに。グリーン・ノウは田舎の広大な土地に建つ歴史ある建物。トリーが到着したとき、戦時下の徴用期間がちょうど終了したところでした。
オールドノウ夫人をはじめ、庭師のボギス氏や家政婦のトゥイーディー夫人がトリーの父の身を案じる中、トリーは「行方不明なだけで、生きている」と、自分に言い聞かせるように皆を安心させます。オールドノウ夫人がトリーの母について尋ねると、トリーは夫人が母をあまり好きではないことを知っていると打ち明けます。否定する夫人に、トリーは夫人が父へ宛てた手紙から知ったことを明かしました。トリーが屋敷を訪れたのも数年ぶりであり、改めて客間の絵画や古い部屋の数々に圧倒されます。
夫人は屋敷の維持に苦労しており、手放すことも考えていると語りますが、トリーは「絶対に売ってはいけない」と反発します。彼女は、先祖マライア・オールドノウが浪費家であったため家計が傾いたこと、また、屋敷にまつわる一族の歴史を少しずつ明かしていきます。
到着した夜から、トリーは泣き声を聞き(お約束のように笑)ます。そして浪費家だったマライアの唯一の資産である宝石類がすべて盗まれたことや、マライアとキャプテンの間にはセフトンとスーザンという子どもがいたことを知ります。
グリーン・ノウには広い庭や多くの部屋、ミュージックホール、小さな礼拝堂、昔のローマ風呂など、今ではあまり使われていない古風な設備も残っています。手入れが行き届かず荒れている場所もあります。私だったら怖くて一人で歩き回れないかも笑。
少女の幽霊と遭遇する
19世紀のグリーン・ノウでは、航海から戻ったキャプテン・オールドノウを家族と使用人たちが迎えます。美しい妻マライア、甘やかされて自分勝手な兄セフトン、そして正反対で盲目の妹スーザン。キャプテンはスーザンへの土産として、黒人の少年ジェイコブを連れて帰ります。ジェイコブは奴隷として売られるのを逃れて密航していた少年で、キャプテンが保護してきました。
黒人の少年に周囲が戸惑う中、スーザンとジェイコブは親友になり、ジェイコブのおかげでスーザンはより自由に行動できるようになります。その様子を見たキャプテン・オールドノウは喜びます。
夜、トリーは自室でスーザンのゴーストに出会います。スーザンにはトリーが見えており、最初はトリーをセフトンと間違えます。トリーは急いでオールドノウ夫人のもとへ行き見たことを伝えます。夫人は驚かず、何かを知っている様子。
翌日、トリーが木に登っていると、古びた拍車(乗馬で使う馬具)を見つけます。夫人はそれがセフトンのものだといい、トリーは屋敷の過去と現在がどこかでつながっているように感じ始めます。ほどなくして、トリーは19世紀の屋敷の中にいたり、現在に戻ったりを繰り返すという不思議な体験をするのです。
フレッドに渡した懐中電灯
ジェイコブの存在を快く思わないセフトンは、彼を屋敷から追い出すよう執事のカクストンと共謀します。
ある日、セフトンは「撃った鳥が煙突に入り込んだ」と、ジェイコブに取ってくるよう命じます。スーザンが激しく反対し、使用人たちも非難の視線を送る中、ジェイコブは「大丈夫」とスーザンを安心させて暖炉の中に入り煙突を登っていきます。しかし、セフトンは意地悪にも使用人に火をつけるよう指示します。そのくせ、ジェイコブがなかなか戻らないと焦り、「冗談に決まっている」と今度は火を消すよう命じます。最初から最後まで自分の手を汚さないところが卑怯ですねー。
ジェイコブは煙の中、他の部屋の暖炉につながる通路を見つけていました。騒動を知ったマライアは「ジェイコブが怪我をしたらキャプテンにどう説明するの」とセフトンを叱ります。すると、ちょうどジェイコブが暖炉から現れ、持ち帰った鳥を差し出します。それはなんとニワトリ。マライアは「最近の紳士はニワトリを撃つのね」と皮肉を言って皆を笑わせ、セフトンは気まずい思いをするのです。
ジェイコブが持ってきたニワトリは、屋敷の農場や庭で飼われていたものかと思います。セフトンは、貴族が狩りで仕留めるような鳥を撃ったから取ってこいと命じました(が、実際に撃ったのかは不明で、単にジェイコブを困らせたかったのかも)ジェイコブは、身近で誰にでも捕まえられるニワトリを持ち帰り、セフトンの嘘や見栄を皮肉ったのでしょう。
ある日、トリーは、使用人のフレッド(ボギス氏の先祖)がウサギを捕まえたことで密猟の疑いをかけられたことを知ります。これは、フレッドがジェイコブの味方をしたことに対するセフトンとカクストンの仕返しのようです。キャプテンがいればこんなことになるはずはなく、このままではフレッドが奴隷船に売られてしまうかもしれないと、スーザン、ジェイコブ、トリーは心配します。
トリーは屋敷の庭にあるバス(昔のローマ風呂)に隠れていたフレッドに食料を届け、自分の懐中電灯も託します。「電池が切れるから使いすぎないように」と念を押すトリーに、フレッドは「電池って何?」と聞き返します(やっぱり笑)。そして、トリーが現代に戻ると、オールドノウ夫人は「屋敷にあった古い懐中電灯の謎がやっと解けた」と、戸棚から古い懐中電灯を取り出すのです。
帰還したキャプテンは、フレッドの件でセフトンを叱責し、カクストンを解雇します。マライアは2日後のパーティーにカクストンが必要だと猛反対しますが、キャプテンは聞き入れません。
パーティでの火災
パーティーには客人が次々と到着し、屋敷にまだ残っていたカクストンも自分の仕事に忙しくしています。しかし、マライアが夕食のために着替えているとき、自室から宝石類がすべて盗まれていることに気づきます。それでもマライアはパーティーを続けますが、カクストンが屋敷で火事が起きていることを告げに来るのです・・・。
トリーとオールドノウ夫人は、先祖の話やトリーの体験を語り合いながら少しずつ心を通わせていきます。そこへ、トリーの母から「明日屋敷に行く」という電報が届き、ふたりは緊張します。トリーは「母が来たら優しくしてあげてほしい」と夫人に頼みます。トリーの滞在で、夫人も変わったようです・・・。
おわりに
「From Time to Time」は、ファンタジーやタイムトラベルに興味のある方、家族向けの作品が好きな方、そしてルーシー・M・ボストンのファンにおすすめです。
ウサギの密漁の疑いをかけられたフレッド。その縁からか、1940年代のその子孫であるボギス氏は、戦時中の食料不足を補うためにウサギを捕まえ、キッチンにいつも届けてくれていました。オールドノウ夫人は「とても助かるけれど、ウサギに変身しそう」と苦笑いします。
トリー役のアレックス・エテルは「クランフォード」でハリー役を演じていました。
私が持っているDVDはイギリスのアマゾンで購入したもので、英語字幕がついています。


