「The Shell Seekers(シェル・シーカーズ)」は、2006年に放送されたイギリスのミニ・ドラマシリーズ。原作はロザムンド・ピルチャー(Rosamunde Pilcher)の小説「The Shell Seekers」(1987年)。
画家ローレンスの娘ペネロピは、心臓発作をきっかけにこれまでの人生を振り返ります。父からの愛情、戦時下での不幸な結婚、真実の恋を経て、父の絵画「シェル・シーカーズ」を巡る子供たちの欲が明らかに。
コーンウォールの海岸町の風景も美しく、特に主人公ペネロピのカントリースタイルの家と庭が素敵でした。こんな場所で過ごせたら最高です。
ピルチャーは自然描写と温かな人間関係を特徴とする英国の作家で、2000年に引退しましたが、作品はいまでも人気があります。
画像のオープニングタイトルの背景は、コーンウォール(多分)の波の映像。エピソードには穏やかな海辺や港町の景色が多く登場します、オープニングを改めて見ると、登場人物たちの心の動きのようにも見えます。(画像は引用目的で使用しています)
「The Shell Seekers(シェルシーカーズ)」あらすじと感想
1982年の春。2週間前に心臓発作で入院したペネロピ(ヴァネッサ・レッドグレイヴ)は、病院の制止を振り切ってタクシーで帰宅します。家へ向かう途中の田園風景がとても美しいです。
彼女の家は、美しい庭に囲まれた茅葺き屋根のコテージ(茅葺き屋根は維持費が高いとのこと)。ペネロピは壁に掛けられた父の絵画「The Shell Seekers」(貝拾い)を愛おしそうに眺めます。これは、彼女が子供の頃、父(マクシミリアン・シェル)がペネロピをモデルにコーンウォールの海辺で描いたもの。「動かないで」と声をかける父に、ペネロピは巻貝を耳に当てて「海の音が聞こえる」と答えます。父は笑顔で筆を動かします。ペネロピが愛されているのが分かります。
3人の子供と絵画の値段
ナンシー
ペネロピが退院したと聞いてやってきたのは長女のナンシー(ヴィクトリア・ハミルトン)。ペネロピが電話に出ないので車でやってきます。日ごろから母の一人暮らしが心配で「ハウスキーパーを雇うべき」という彼女は、庭でガーデニングをする母を見て驚き「庭師も必要だ」と声を上げます。ペネロピは「一人で大丈夫だから」と聞きません。
自宅に戻ったナンシーは「私の話は聞かないけど、オリビア(妹)なら聞く」と夫に不満をこぼし、弟のノエルなら聞くかもしれないと彼に電話をかけます。ナンシーの夫は、義母が同居してくるのではと気にしている様子。
夫は、ペネロピの父(ナンシーの祖父)の絵画が最近注目を集めていることを雑誌で知ります。ナンシーは「あんな古臭い絵」と軽く受け流すものの、その古さが評価され、オークションで高値がつきそうだというのです。
ナンシーたちの家は英国の広いカントリーハウスで、家政婦を雇い、高級家具が並びます。室内や玄関のドアはチューダー様式のような凝った造りで、敷地内には夫の趣味の馬畜舎も。子どもたちはプライベートスクールに通い、ナンシーは日々の細かなことに神経を使うのです。
ノエル
ノエル(チャールズ・エドワーズ)に会ったナンシーは「母に誰かと暮らすよう説得して」と頼みます。「母は自立しているから嫌がるだろう」と躊躇するノエルに、ナンシーは「話すぐらいできるでしょ」と食い下がります。
そんなことよりも、とナンシーは夫が話していた雑誌を見せます。雑誌に掲載されている祖父の絵画は現在25万ポンドの値がついていると知り、ノエルの顔つきが変わります。「ということは、あの『The Shell Seekers』も・・・」と、二人は同じことを考えます。
スポーツカーを乗り回すノエルの部屋は広くなく、安っぽいベッドやテレビが置かれ、あまり成功しているような印象ではありません。同居の彼女も安価な服にアクセサリーを重ねて品がない印象。
二人は知り合いのギャラリー前に停車し障がい者用プレートを表示。これだけで彼の人柄が伝わります。ギャラリーで祖父の絵の価値を尋ねると、現在では1枚あたり4~5千ポンドとのこと。最初は電話だけで済ませるつもりが、急きょペネロピを訪ねることに。
ペネロピの家に到着するなり「手を洗ってくる」と家を見て回り、絵を確認するノエル。さらに屋根裏にも入ります。何をしているのかと聞かれれば「スカッシュのラケットを探している」と。いつも彼の部屋にあったものなのに、ペネロピは違和感を抱きます。
そして、ナンシーから聞いた話をノエルが切り出すと、ペネロピは「絵は売らない」ときっぱり答えます。
用事が済んだらさっさと帰るノエル・・・。あの美しい庭でお茶をゆっくり飲んでいったらいいのに・・・。
オリビア
次女のオリビア(ヴィクトリア・スマーフィット)は、ペネロピが心を開いて話せる娘。
オリビアは恋人のコズモ(セバスティアン・コッホ)とイビサ島に滞在中で、ペネロピにしばらく一緒に過ごさないかと招待します。最近同居し始めたコズモの娘アントニオ(ステファニー・スタンフ)が、ペネロピについて尋ねると、「個性的で、自立していて、一途で、でも凛としてる」と答えます。その通りだと思います。
イビサ島にやってきたペネロピは、ナンシーには黙って出かけてきたといいます。「話せば出かけてはいけない理由を山ほど言われそうで」と苦笑い。
一方のナンシーは、電話に出ない母にやきもきしてまた車でやってきます。隣人のプラケット夫人からペネロピのイビサ島行きを聞かされ、すぐにノエルに連絡。二人は母のことよりも、母の家にある絵画には保険がかかっているのか、母は祖父のスケッチの話をしていなかったか、などと相談します。ナンシーの夫は、雑誌の絵画がさらに高騰していることを確認します。
イビサ島では、ペネロピがアントニオと海辺を歩きながら、父がいたコーンウォールの美しい海について話します。コズモもアントニオもペネロピを気に入っており、彼女のためのパーティーを開きます。アントニオはイギリスに来ることがあれば、ペネロピを訪ねると約束します。
ペネロピが帰宅した頃、オリビアはロンドンから仕事のオファーを受けます。念願の仕事だったのでオリビアはコズモとアントニオを残してロンドンに戻り、ほどなくして、コズモはボート事故で亡くなります。彼の葬儀が終わると、アントニオは家を出なくてはならないとオリビアに話します。家は借家で、コズモには借金があったと弁護士から知らされたのです。アントニオはオリビア宅にしばらく滞在することになり、二人はロンドンに向かいます。
アントニオが同居する
ほどなくして、アントニオはペネロピの家で暮らすことに。「母には同居人が必要」とうるさいナンシーの口を封じる意味でも都合のよい展開です。
ノエルが屋根裏の片づけにやって来ます。絵画を探すつもりなのは明らか。手伝っていたアントニオに「絵やスケッチを見つけたら僕に知らせて」と念を押すと、それはペネロピにも聞こえていました。屋根裏を探しても見つからず、焦るノエル。一方、キッチンで歌を口ずさみながら料理をするペネロピ。
ペネロピは、オリビアをコーンウォール旅行に誘ったものの、仕事が始まったばかりだから無理だと言われました。ノエルを誘っても行かないと言われ、そこにやって来たナンシーを誘うと、忙しいから無理だと言います。そして再び絵画の売却の話を持ち出すノエル。ナンシーは「夫も売るべきと言ってるし、雑誌に掲載の絵画は25万ポンドになっている」と明かします。「あなたも知っていたのね、もちろん」と状況を知るペネロピ。
ペネロピは二人に、絵を売ってどうするのかと尋ねます。ノエルはベンチャーに投資して、ナンシーは子供のプライベートスクールの足しにするのかと少し皮肉めいた質問をすると、ナンシーは「私の子供に興味を持ったことある? あの子たちだって支援が必要だ」と反論します。立ち去るノエルに、ペネロピは「屋根裏を片づけてくれてありがとう。探していたものは見つからなかったけど」と声をかけます。やはり気づいていたのです。
しばらくすると、園芸学生のデイナス(ルーカス・グレゴロヴィッチ)が庭師としてペネロピの家に通い始めます。アントニオとデイナスの若い二人が親しくなるのに、時間はかかりませんでした。
ペネロピの夫
ペネロピは軍にいたときに亡夫アンブローズ(トビー・フィッシャー)と知り合います。妊娠を機に結婚を決めますが、アンブローズは妊娠に動揺し、母にも話せません。彼は、上流階級の母(プルネラ・スケールズ)と同様にスノッブなタイプ。
結婚後、二人がコーンウォールにあるペネロピの父の家を訪ねると、想像していたより質素な家に少しがっかりした様子のアンブローズ。自分は絵画より車に興味があると話し、壁に掛かった「The Shell Seekers」を「価値があるのでは」とコメント。父は「売る気はないが、結婚祝いとしてペネロピに贈る」と、ペネロピを喜ばせます。アンブローズは金の方がよかったのにと思ったことでしょう。
ペネロピはアンブローズの出兵中に出産します。義母の希望でナンシーと名付けるという彼女に、父は「自分のしたいことを大事にすべき」と言葉をかけてくれます。ペネロピは「彼を愛していない。結婚するべきではなかった」と号泣します。
戦争が終わるとアンブローズが戻り、ロンドンでの生活が始まるものの、彼は金の話ばかり。「コーンウォールに住んでもいい」というペネロピに、「ロンドンを離れるなんて考えられない」と猛反対。生活費の話になると絵を売れと繰り返します。
ある日義母が食事に来たとき、義母が近くに家を買ったことや、アンブローズが義父の会社で働き始めることをペネロピは初めて知ります。そんなことから二人の口論は増え、さらに家にやって来たのは借金取り。アンブローズはギャンブルで浪費し借金を重ねていたのです。
酔って帰った彼は「数千ポンド必要だから絵を売ってくれ」と迫り、もちろんペネロピは拒みます。心配した子供たちが寝室から出てきて見つめる中、アンブローズは家を出ていきました。二人は離婚して、しばらくしてから彼は亡くなったといいます。
隠し持っていた絵画
ペネロピが父と縁のあった絵画商はすでに亡くなっていたので、息子のロイ・ブルックナー(ヒュー・サックス)に絵の鑑定を依頼します。
ロイによると、未完成の作品でも高く評価されているということ。ペネロピは自宅のワードローブの後ろの壁の中に絵を隠していたことやその理由を打ち明けます。彼はペネロピの話を真剣に聞き、彼女の希望通りプライベートでの売却の手続きを始めます。注目を集めるような形にすると、あの人たちがうるさいでしょうから・・・。
ペネロピの夫が生きていたころ、彼女は資金を工面するために何枚もの絵を手放しました。絵を搾取されてきた経験から隠し続けてきたのでしょうが、皮肉にもそれが自分の子供たちから隠すことに役立ってしまうとは・・・。
父のアトリエを訪れる
ペネロピは、アントニオとデイナスを連れてコーンウォールのポースケリス(Porthkerris)にやってきます。ペネロピは海で子供のようにはしゃぎます笑。
ここは大切な父が晩年を過ごした場所で、ペネロピが心から愛したリチャード(アラスター・マッケンジー)と出会った思い出の地。彼女はずっと訪れたいと思っていました。父のアトリエだった小屋を訪れると、ペネロピの中にリチャードとの記憶がよみがえります。
ペネロピは幼いナンシーと父の家に滞在していました。ある日、三人で町のアートギャラリーを訪れると、海兵隊員のリチャードが絵を見に来ていました。父が自己紹介すると、絵画に親しんでいるリチャードは「画家のローレンス・スターンさんですか?」と反応し、それをきっかけに父は彼を夕食に招きます。
リチャードは「The Shell Seekers」を見て感動します。父もペネロピもリチャードが気に入り、リチャードがペネロピを食事に誘うと、父は快く応援します。後日、ペネロピはリチャードを父のアトリエに案内します。彼は「The Shell Seekers」のモデルの子どもがペネロピだと気づいており、父の愛情が詰まった絵に理解と敬意を示します。そしてリチャードは「ダグラス・マクティア」の詩集を贈り、彼の好きな詩をペネロピのために朗読します。二人はそこでかけがえのない時間を過ごしたのです。
リチャードは、翌日から出陣でしばらく会えなくなると伝えに来ます。そして「戻ってきたら君と結婚する。愛している」と告げるのです。ペネロピは涙を流しながら彼を見送り、その姿を父が見守っていました。彼を愛していると声を上げて泣くペネロピに、父は知っていると応えます。アンブローズとの関係にはない感情の深さがそこにありました。
しばらくすると、リチャードから手紙が届きます。詩のように美しく、心のこもった内容でした。しかし、ペネロピが幸せな気持ちで読み終えた直後、非情にも彼の上司が現れ、リチャードの戦死を告げるのです・・・。
過去と現在をつなぐ選択
ナンシーとノエルは怒り心頭でした。
なぜなら、ペネロピが絵画を他にも隠し持っていて、「The Shell Seekers」がペネロピの家からなくなり、さらに、それが売却されたのではなくポースケリスの町に寄付されたからです。ペネロピの行動を理解していたのはオリビアだけでした。
ペネロピの父は「The Shell Seekers」を描いたときでさえ、それを売るつもりはありませんでした。彼女は父の思いを尊重したのかもしれません。父が晩年を過ごした美しい町にその絵を戻したかったのかもしれないし、自分の心と絵画を一緒にコーンウォールに残してきたかったのかもしれません。
ナンシーはコーンウォールまでやって来て、ペネロピが相談なしにすべて決めてしまったことについて怒りをまき散らします。ペネロピは、旅行に誘っても誰も来なかったし、絵画は父からの結婚祝いだと反論。「あの絵は私たちにとっては遺産だった!」と言い放つナンシー。立場が違えば主張することも変わるのでしょうけど・・・。
「お母さんは私を愛してなかった。いつもオリビアばかりだった」と吐き捨てて去っていくナンシー。コーンウォールに来れるなら、なぜ最初から一緒に旅行に来なかったのか・・・。
その頃、デイナスは突然スコットランドへ去ってしまいます。彼には軍で負った傷があり、診察を受ける必要があったのです。しかし、手術を受けると麻痺が残る可能性が高く、その場合にアントニオに負担をかけてしまうのではないかと、デイナスは深く心配しました。結婚を望むほどアントニオを愛しているからこそ、彼は去ってしまったのです。
ペネロピは傷ついたアントニオを連れて自宅に戻ります。
ネタバレしないようにここまでで・・・。
おわりに
どこか切ない気持ちが残りますが、人生で何を大切にしたいのかということを考えさせられるストーリーでした。アントニオが詩集を受け継ぐということは、ペネロピの子供たちは、ペネロピが本当に愛した男性のことを知らない、ということになりますね・・・。よきタイミングでオリビアには話すのでしょうか。
ネタバレはしたくないのですが、80年代で25万ポンドなら十分すぎる額だと思います。
リチャード役のアラスター・マッケンジー(Alastair Mackenzie)はスコットランド・ハイランドが舞台のドラマ「The Monarch of the Glen」で主演のアーチー・マクドナルド役、ノエル役のチャールズ・エドワーズは、同ドラマでアーチーの旧友デイビッド役で登場します。アンブローズの母役のプルネラ・スケールズは、シットコム「フォルティ・タワーズ」でバジルの妻シビル役です。




