To the Manor Born(イギリスのシットコム)

To the manor born (イギリスのシットコム)のレビュー記事

「To the Manor Born」は、1979年9月30日から1981年にかけて放送されたイギリスのシットコムです。

貴族階級の女性オードリー・フォーブス=ハミルトンが、夫の死と経済的な事情から、代々受け継がれてきた屋敷を手放すことになり、屋敷の新たな所有者である実業家リチャード・デ・ヴィアとの関係が描かれます。美しいイギリスの田園風景や由緒ある邸宅を舞台にした上品でユーモラスなストーリーです。

シリーズ1の最終話は2,395万人が視聴し、1970年代のイギリス番組としては、アポロ13号の帰還、チェルシー対リーズ・ユナイテッドのFAカップ決勝戦再試合、アン王女の結婚式中継に次ぐ第4位の視聴者数を記録しました。また、BBCが2003年から2004年にかけて実施した「英国ベスト・シットコム」投票では、全100作品中第23位にランクインするなど、今なお根強い人気を誇ります。

そして、25年後の2007年には「クリスマススペシャル」も放送され、ファンを再び楽しませました。

「To the Manor Born」というタイトルは、シェイクスピアの『ハムレット』(第1幕第4場)に由来。原文の「to the manner born(生まれながらにしてその風習に親しんでいる)」をもじり、「manner(風習)」を「manor(荘園)」に置き換えた言葉遊びです。この表現には、主人公オードリーが邸宅グラントリー・マナーを失っても、土地の伝統や格式を守ろうとする姿が重ねられているそうです。

目次

「To the Manor Born」の魅力とあらすじ

ストーリーは荘園領主であったマートン・フォーブス=ハミルトンの葬儀から始まります。未亡人となったオードリー・フォーブス=ハミルトン(ペネロピ・キース)は、悲しむどころか、400年にわたり一族が所有してきたグラントリー・マナー(屋敷)の経営が自分の手に委ねられることに喜びを感じます。

同じ日、スーパーマーケットチェーン「キャベンディッシュ・フーズ」のオーナーである実業家リチャード・デ・ヴィア(ピーター・ボウルズ)は、グラントリー・マナーの敷地内にあるロッジ「オールド・ロッジ」を内見しにロンドンから訪れます。(ロッジとは、田園地帯の大邸宅や広大な敷地内にある小さな建物で、管理人や庭師が住む簡素で機能的な別棟のこと。「番小屋」ともいえる建物)

リチャードはロッジを見て「小さすぎる」と却下しながら、窓から見えるグラントリー・マナーに一目惚れします。彼は、不動産業者を無理やり連れてマナーハウスに勝手に入り内見します。

ちょうどその頃、屋敷では葬儀後の立食パーティのような集まりが開かれており、オードリーとリチャードはそこで初めて出会います。しかし、オードリーは夫が破産していたことを知らされ、屋敷が競売にかけられることに。屋敷はリチャードによって落札されてしまいます。

引っ越しの日、オードリーは皆に別れを告げた後、執事のブラビンジャー(ジョン・ラドリング)と愛犬バーディを連れてロールス・ロイスの運転席に乗りこみます。皆が見送る中、ロールス・ロイスが到着したのは、目と鼻の先にあるロッジでした(つまり100メートルぐらいしか運転していない笑)。

一方、リチャードも母親(ダフネ・ハード)と共にグラントリー・マナーに引っ越してきます。移動中、母は「また引っ越しだわ」と不満を漏らし、息子のことを「ベドリッシュ(Bedrich)」と呼び、イギリス英語ではない外国訛りで話します。リチャードはチェコスロバキア系ポーランド人でした。とはいえ、彼は経営者らしくスーツに身を包み、たたずまいは完全にイギリス紳士です。

こうして、オードリーはグラントリー・マナーに住むリチャードの隣人として新たな生活を始めます。彼女の親友マージョリー(アンジェラ・ソーン)は、紳士的なリチャードに一目惚れしますが、オードリーは彼の成金趣味を嫌い「成金の食料雑貨商」と揶揄します。マージョリーはオードリーに仕事を始めるよう勧めますが、オードリーは「私にはグラントリー・マナーの経営しかできない」と譲りません。

領地管理の経験がないリチャードに対して、オードリーは田舎での暮らしやその伝統、地域の慣習についての豊富な知識を主張し、何かと口を出します。実際のところ、リチャードもたびたび彼女の助けを借りることになります。彼はやり手のビジネスマンでありながら紳士的な振る舞いを忘れず、オードリーを上流階級の女性として丁重に扱います。価値観の違いはあるものの、次第に互いへの尊敬と、ほのかな恋愛感情が芽生えていくのです。

オードリーはときおりロッジから双眼鏡でマナー・ハウスの様子を観察しますが、彼女自身、上品なので不思議とストーカーのようには見えません(上品だから良いというわけではありませんが笑)。

主要なキャスト

DVDケース
ほとんどのDVDはスリーブケースで保管してます

オードリー・フォーブス=ハミルトン

ペネロピ・キース(Penelope Keith)

「The Good Life(1975~ 1978)」で知られる郊外に住むスノッブな女性マーゴ・リードベター役でコメディスターとなりました。「Executive Stress(1986~ 1988)」や「No Job for a Lady(1990~ 1992)」などに出演し、劇場とドラマ版の「Norman Conquests(1977年)」にも出演しています。

「To the Manor Born」のストーリーラインは、元々はラジオ番組が基になっていたとのこと。脚本家のピーター・スペンスは、ペネロピ・キースを念頭に置いてスクリプトを作成したそうです。

すでにシットコム「The Good Life」が成功していた時期で、ペネロピ・キースの次の出演作を探していたところ、ラジオ番組の「To the Manor Born」が彼女の役に最適だと判断され、スペンス氏はBBCで改めて脚本を執筆するように指示されました。彼は「Not the Nine O’Clock News」(ローワン・アトキンソン出演)という新しいコメディ番組に取りかかっていた最中でしたが、引き抜かれる形となりました。

ちなみに、ペネロピ・キースは劇場で「Norman Conquests」を演じていた際、フェリシティ・ケンドールとともに「The Good Life」に抜擢されたという経緯があります。

リチャード・デヴィア


ピーター・ボウルズ(Peter Bowles)
「Rumpole of the Bailey(1978~ 1992)」で弁護士ガスリー・フェザーストーン役を演じ、名声を博しました。その後、「The Bounder(1982~ 1983)」や「Perfect Scoundrels(1990~ 1992)」、「The Irish R.M.(1983~ 1985)」、さらに映画「The Bank Job(2008年)」などにも出演しています。

マージョリー・フロビッシャー


アンジェラ・ソーン(Angela Thorne)
「Three Up, Two Down(1985~ 1989)」の主演を務め、「Farrington of the F.O.(1986~ 1987)」や「Midsomer Murders」などに出演しました。また、「Anyone for Denis?(1982)」ではマーガレット・サッチャー役を演じました。

ミセス・ポロウヴィツカ


ダフネ・ハード(Daphne Heard)
「The Jensen Code(1973年)」、「Jude the Obscure(1971年)」、「Doctor Who」などに出演しました。「To the Manor Born」での演技は、彼女の最も有名なシットコム作品となっています。

ダフネ・ハードはイギリス人女優ですが、作中では東ヨーロッパ訛りで話します。「チェコスロバキアにはこんな諺がある…」というお決まりのセリフのあとに、風変わりなことわざを披露するのが定番の流れです。

ブラビンジャー(執事)


ジョン・ラドリング(John Rudling)
主に舞台俳優として活躍していた彼にとって、「To the Manor Born」で演じたブラビンジャー役は、最もよく知られた出演作とされています。健康上の理由により、シーズン2の冒頭では数エピソードにわたって姿を見せず、劇中では「休暇を取っている」と説明されていました。途中で再登場した際には、多くの視聴者が彼の無事を喜び、安心したといわれています。

ブラビンジャーは忠実で礼儀正しい執事で、常に紳士的な振る舞いを忘れないその姿はとても魅力的です。愛らしさも感じさせる“おじいちゃん執事”としてストーリーに温かみを添えていました。オードリーと共にCM撮影をしたり、シーズン3の最終話では重要な役割を担います(必見です笑)。彼の存在は作品にとって欠かせないものであり、2007年のスペシャルではブラビンジャーの写真がオードリーたちの部屋に飾られていました。

レクター(牧師)


ジェラルド・シム(Gerald Sim)
「Keeping Up Appearances(1990~ 1995)」、「Bergerac(1981~ 1991)」、「Coronation Street」、「Gandhi(1982年)」などに出演しました。

2007年のスペシャルで再登場しました(当時82歳!)。

脚本

主な脚本家はピーター・スペンス。作中に登場するマナーハウスは、ピーター・スペンスの義父の家であり、結婚後、彼はそこにしばらく住んでいました。貴族階級の生活や当時の封建主義的な地所のあり方について独自の知識を得たことがこの経験が「To the Manor Born」の執筆に役立ったそうです。

撮影地

この美しい邸宅は「Cricket St Thomas, Somerset(クリケット・セント・トーマス、サマセット州)」にあります。

70年代の英国カントリー(トラッド)も楽しめる

「To the Manor Born」は、英国シットコムならではのノスタルジックな魅力があふれています。村の商店に並ぶレトロな商品や、道を行き交うクラシックな車など、懐かしい時代の風景が画面を通してしっかりと伝わってきます。度々登場するオードリーの優雅なロールス・ロイスや、格式あるマナーハウスの重厚なインテリア、そしてオールド・ロッジでのオードリーの朝食やディナーの様子からは、当時の上流階級の暮らしぶりが垣間見えます。個人的には、リチャード宅にあるグリーンのチェスターフィールドソファがとても印象的でした。

もちろん、登場人物たちのファッションも大きな見どころです。オードリーは、ロッジでの質素な生活の中でも気品あるスタイルを保ち続けます。控え目な高級感であり、その丁寧な身だしなみが素敵です(見習いたい笑)。そして、パーティなど特別な場では、華やかでゴージャスなドレス姿を披露してくれます。高身長のペネロピ・キースが素敵です。

ファッションだけでなく、小物も素敵なものがいくつか登場しました。彼女がいつも持っていたハンドバッグや、旅行に行くふりをするエピソードでロールス・ロイスに積んだ緑の革の旅行カバンがとても印象的でした。

リチャードのファッションは、都会的で洗練されたスタイルが多いです。高身長のペネロピ・キースよりも背が高いのでスタイルが良くて素敵です。一方で、地元の田舎紳士たちに合わせて、英国カントリーやトラッドスタイルを取り入れる場面も多く見られます。

ツイードのハンティングジャケット(またはノーフォークジャケット)、コーデュロイのパンツ、ワックスジャケット、フラットキャップなど、いわゆる「ジェントルマン・ファーマー」の装いが登場し、当時の英国らしい雰囲気が漂います。個人的には、リチャードやレミントン准将が着ていたハンティングジャケット(またはノーフォークジャケット)の美しさが特に印象に残りました。

25年後の「2007 クリスマススペシャル」

2007年12月25日にBBCで放送されたクリスマス特別番組「To the Manor Born」では、グラントリー・マナーの25年後が描かれました。オリジナルキャストのうち、再登場したのはオードリー、リチャード、マージョリー、そして牧師。久しぶりに顔をそろえた面々がマナーでのディナーに登場します。

リチャードとオードリーは、互いにサプライズを用意して銀婚式を祝おうとしていました。

オードリーは、周辺地域に進出しようとしている「ファーマー・トム」という会社が、地元のビジネスを破産させていることを懸念していました。そして、その会社の所有者がリチャードであることを知り、「なぜ黙っていたのか」と憤慨し、家を飛び出してしまいます。

25年前には、とても素敵な淑女だったオードリーでしたが、現在でもその気品は失われておらず、上品な老婦人として登場します。親友のマージョリーも、想像通りに可愛らしく年をとっていました。オードリーの甥・アダム(アレクサンダー・アームストロング)にときめく様子は、まるで少女のようです。

家出したオードリーが向かった先は、やはり「オールド・ロッジ」。そこにはマージョリーが暮らしていました。オードリーは、銀婚式のパーティーの準備をマージョリーに丸投げしたり、マナーハウスの従業員を引き連れてオールド・ロッジを勝手に大掃除させて、マージョリーを困惑させます。

オードリーを怒らせるつもりは一切なかったリチャードは、亡き母の墓を訪れて「オードリーを取り戻す」と誓います。25年たってもこれほど深く愛されているなんて本当に羨ましいことです。

オードリーたちが、現代社会のシステムと奮闘する様子も見どころです。ファーマー・トムに電話をかけたオードリーが、今や当たり前の「自動音声案内」に戸惑い、話しかけたり文句を言ったりする様子がコミカルです。

また、オードリーとマージョリーは「リサーチのために踊りに行こう」と外出します。彼女たちにとって「踊り」とはマナーハウスでのそれであり、「正装」で臨むもの。そのため、2人ともロングドレスに身を包み、ディスコやクラブへと向かいます。その後、なぜか警察に連行されてしまうというオチもついてきます。

視聴方法など

「To the Manor Born」のDVDは、日本やイギリスのアマゾンで購入することができます。残念ながら日本語字幕や吹き替え版のDVDはないようです。私が持っているDVDはイギリスのアマゾンで購入したもので、英語の字幕も収録されていません。

日本で購入すると、価格が比較的高く、いまだにVHSが検索結果に出たりします(古い笑)。イギリスのアマゾンから直接取り寄せたほうがお得になることが多いです。なお、日本のアマゾンアカウントではイギリスのアマゾンは利用できないため、別途イギリス用のアカウントを作成する必要があります。

作中の会話は階級社会や田舎暮らしに関する文化的な言い回しが含まれていますが、全体的に聞き取りやすい英語だと思います。ペネロピ・キースは、洗練されたフォーマルなトーンで話します。また、執事のブラビンジャーと臨時で雇われたネッドとの言葉遣いを比較するのも面白いと思います。

おわりに

実際に「ペネロピ・キースを念頭にスクリプトを書いた」ということなので、オードリー役はペネロピ・キースにしかできないと思いますし、これは多くのイギリス人が賛同すると思います。今でも多くのファンがいます。

追記:残念ながら、ほとんどの出演者は他界されてしまい寂しい限りです(2024年1月現在)。しかし、イギリスでは昔のドラマやシットコムが再放送されることがよくあり、若い世代の中にも「To the Manor Born」を知っている人がいるそうです。素晴らしい作品が時間を超えて愛され続けているのは素晴らしいことだと思います。

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