Wives and Daughters(妻と娘たち)BBCドラマ

イギリスのテレビドラマ「Wives and Daughters」は、1999年にBBCで放送されました。

エリザベス・ガスケルの1864年の小説「Wives and Daughters: An Everyday Story」を原作としています。この小説は、ガスケルが1865年に亡くなったため未完となりましたが、フレデリック・グリーンウッドによって完結されました。

舞台は1830年代のイギリスのある町です。医師の娘モリー・ギブソンが、父の再婚をきっかけに新たな家族との関係や社会の期待の中で揺れ動く様子が描かれています。

エリザベス・ガスケルは、ジェーン・オースティン、ジョージ・エリオット、チャールズ・ディケンズほど広く知られてはいないものの、あらゆる階層の人々と交流があったことで登場人物の幅が広く、人間の善良さを深く理解し、それを作品に反映していると評価されています。それは、当時の他の作家にはなかった特徴であり、彼女の文章は簡潔で機知に富み、現代的だったとも言われています。

目次

「Wives and Daughters」あらすじ

エリザベス・ガスケルの「北と南」「妻と娘たち」

12歳のモリーは、地元の医者で妻を亡くした父ギブソン氏(ビル・パターソン)に育てられていました。ある日、亡き母の友人であるブラウニング姉妹(バーバラ・フリン、デボラ・フィンドリー)に連れられ、地元の貴族カムナー卿夫妻の邸宅で開かれるパーティーに出かけます。

モリーは途中でめまいを感じ、外の空気を吸おうと庭に出て木の下で眠ってしまいます。そこを屋敷の娘レディ・ハリエット(ロザムンド・パイク)と、その家庭教師カークパトリック夫人(フランチェスカ・アニス)が見つけ、モリーをカークパトリック夫人の部屋で休ませてくれます。

モリーがうとうとしている間、カークパトリック夫人はモリーのために用意されていた軽食をつまんでいます。夫人は「帰る時間になったら起こす」と約束していたのに、すっかり忘れてしまい、モリーの父が馬で迎えに来ることに。
「貴族の人々はどうだった?」と尋ねる父に対し、「皆さん親切だったけど、もう戻りたくないわ」と返事をするモリー。それに対して父は「嫌なら戻らなくていいんだよ」とやさしく返します。二人は、彼らの生活を楽しんで生きていたのです。

この家庭教師のカークパトリック夫人が、のちにモリーの継母となる人物。

ちなみに、カークパトリック夫人、ブラウニング姉妹を演じた女優たちは、それぞれエリザベス・ガスケル原作のドラマ「クランフォード」で、レディ・ラドロー、ジェイミーソン夫人、トムキンソン姉妹のオーガスタを演じています。

ハムリー家での滞在と父の再婚

7年後、モリー(ジャスティン・ワデル)は、心優しく、正直で正義感のある女性に成長します。父の弟子の一人がモリーに想いを寄せ、父に隠れて手紙を渡そうとしていたことが発覚します。そこで父は、モリーをしばらくハムリー家に預けることに。

ハムリー邸は趣のある素敵な屋敷。
ハムリー夫妻(マイケル・ガンボン、ペネロピ・ウィルトン)はモリーを温かく迎え入れ、まるで自分の娘のようにかわいがります。

ハムリー氏扮するマイケル・ガンボンはハリー・ポッターシリーズでおなじみのダンブルドア校長で、「クランフォード」ではホルブルック氏です。ハムリー氏の登場はまるでホルブルック氏のようでした。
ペネロピ・ウィルトンは、イギリスのコメディミニシリーズ「The Norman Conquests」でのアニー役。

夫人によると、息子たちはどちらもケンブリッジ大学に通っており、長男オズボーン(トム・ホランダー)はハンサムでおしゃれ、詩や文学に秀でていると言い、弟ロジャー(アンソニー・ハウエル)は自然科学に関心があり、ハンサムというよりは誠実で優しい性格だと説明します。モリーを庭に案内したハムリー氏も息子たちのことを語ります。彼はオズボーンを気に入っている様子で、ロジャーは鳥や虫の名前に詳しいと話します。
こうした描写から、モリーがどちらに惹かれていくのか、だいたい予想がついてしまいます笑。

ロジャーが帰宅して、オズボーンの学業がうまくいっていないと報告すると、ハムリー氏は憤慨します。

その頃、モリーの父はレディ・カムナー(バーバラ・リー=ハント)を診察したときにカークパトリック夫人(フランチェスカ・アニス)に再会し、彼女に惹かれて再婚を決めます。父はモリーにそのことを伝えるためハムリー邸を訪れますが、「私を追いやって結婚を決めたのね」と感情的になるモリーに対し、父も感情的になってそのまま帰ってしまいます。父もなかなか感情的な人笑。

父はかつてのパーティーで見せたカークパトリック夫人のやさしさを覚えていましたが、モリーは自分のことを忘れられていたため、そうは感じていませんでした。
ロジャーは庭で泣くモリーの話に耳を傾け、彼女の気持ちに寄り添います。自分の研究を見せたり、後日、モリーのためにスズメバチの巣を届けたりして励まします。変わったギフトだ笑。

ほどなくしてモリーは父と仲直りし、カークパトリック夫人を迎えることになります。
カムナー家のスタッフとして来ていたプレストン氏(イアン・グレン)に冷ややかな態度をするカークパトリック夫人。結婚式場へ向かう馬車では、モリーは昔のパーティーで出会ったレディ・ハリエット(ロザムンド・パイク)と乗り合わせます。

レディ・ハリエットは「プレストン氏があまり好きではない」と言い、さらにモリーの亡き母の友人であるブラウニング姉妹のことも馬鹿にする発言をします。それに対しモリーは、「階級の違う人を見下すのはよくないと思います」とはっきり伝えます。レディ・ハリエットはプレストン氏への不信感は変わらないとしながらも、ブラウニング姉妹についての発言は撤回します。彼女は良識のある女性のようです。

こういったエピソードでは継母の存在がストレスになることが多いですが、元家庭教師のこの女性も例外ではなく、あれこれ仕切ろうとします。
「ギブソン氏のことをなんでも教えてほしい」と言いながら、モリーが「父はパンとチーズのようなシンプルな食事が好きです」と伝えると、「私はチーズなんて匂いの強いものは苦手だわ」と即座に返答したり、家の模様替えをするからとモリーが母から受け継いだ家具を勝手に処分したり、ハムリー氏が妻の容体悪化を知らせに自ら馬を走らせてモリーを迎えに来たのに、「私との約束があるから」と言って間に割り込もうとしたり。

それでもモリーは、この家を幸せにするために努力を続けます。

モリーの父がレディ・カムナーを診察して助言した内容は、「食事は軽めにし、ジビエや濃厚なチーズなどは避けること、毎日散歩をして、夜更かしは控えること」でした。現代の健康指導とそれほど変わりませんね。

義姉妹のシンシア

モリーの継母の娘であるシンシア(キーリー・ホーズ)が、フランス留学を終えて家族と一緒に暮らすことになります。
彼女は非常に美しく、帰国の船の中でも、乗客だけでなく船員たちまでがその美貌に目を奪われていました。「シンシアは美しい」と聞かされたモリーは、「きれいなうえに、頭も良くて何でもできる人なのでしょうね」と世の中はそういうものよね、とでもいうように返答します。
到着したシンシアは非常に魅力的なことに加えて気さくで率直な性格でもあり、モリーとすぐに仲良くなります。

当時の常識でもあるのでしょうが、モリーの継母はシンシアをできるだけ裕福な階級の男性と結婚させたいと考えています。文学に造詣があり情熱的なオズボーンを気に入り、二人を引き合わせようとしますが、オズボーンは簡単には乗ってきません。モリーはハムリー家に滞在していた頃から、ロジャーの誠実さと優しさに何となく惹かれて、ロジャーもオズボーンもモリーを実の妹のように考えていました。そして、ロジャーはシンシアに出会ってすぐに恋に落ちてしまいます。

「彼女の美しさは長くは続かない」と語るオズボーンに対し、ロジャーは耳を貸そうとしません。

かつてモリーに手紙を書いた父の弟子の一人も、久しぶりに再会したモリーに一瞬ときめくものの、シンシアを一目見るなり心を奪われてしまいます。どれだけ魅力的なんだ笑

そんな中、継母はギブソン氏が「オズボーンは病気で長くは生きられないかもしれない」と話しているのを偶然聞いてしまいます。そして、ロジャーがハムリー家の跡取りになる可能性があると知ると、急にロジャーとの縁談に乗り気になります。

ロジャーの調査旅行とプロポーズ

ロジャーはケンブリッジを卒業後、専門的な学術探検でアフリカへ2年間の調査旅行に出かけることになります。出発前に彼はシンシアにプロポーズし、シンシアもそれを受け入れます。モリーは当然ながら心を痛めますが、ロジャーの幸せと安全を願うのでした。

ところがシンシアは、婚約していることをロジャーが帰国するまで誰にも話さないよう主張します。
そのため、ハムリー氏やモリーの父も二人の婚約を知らないという不思議な状態に。別の経路からこの話を知ったハムリー氏とモリーの父は、なぜ秘密にする必要があるのかといぶかしがります。シンシアをよく知らないハムリー氏は、「モリーだったら、どんなによかったか」と思わず口にします。

秘密にする理由をモリーの父に問い詰められたシンシアは、明らかに動揺し泣き出します。「男性は女性の願いを無視するの?」と反論するシンシア。
子供っぽくて常識がないような気もしますが・・・。

アフリカに旅立ったロジャーから手紙が届くようになり、彼の安全を案じるモリーとは対照的に、さほど気にしていない様子のシンシア。婚約に反しないからと、パーティで他の男性とダンスを楽しみ、ロンドンの親戚を訪ねては華やかな生活を送ります。

多忙なシンシアに代わってロジャーに手紙を書くモリーは、彼がどこにいるのかいつも地図で追います。シンシアは「虫や鳥、現地の暮らしについての話題は苦手」だといい、彼からの手紙に軽く目を通すだけで、新しいドレスに喜ぶ姿を見せるようになり、モリーはそんな彼女に心を痛めます。

そんなある日モリーは、シンシアと評判のあまり良くないプレストン氏との間に過去に何かがあったことを知ります。

オズボーンの秘密

モリーがハムリー家とかかわるうちに、オズボーンが秘密裏に結婚していたことを知ります。

彼はロジャーには打ち明けていましたが、父であるハムリー氏には話していませんでした。というのも、妻はフランス人でローマ・カトリック教徒、さらに元メイドという出自だったからです。

ハムリー氏は名門や伝統、家名を重んじる保守的な人物で、フランス人やカトリック教徒への偏見を抱いていました。それは当時のイギリス保守層に広く見られた国民感情でもありました。また、妻の社会的地位がハムリー家の地主階級とはかけ離れていたことも理由の一つです。

オズボーンはこの結婚を秘密にしたまま生活費をまかなおうと借金を重ね、期待されていた学業も中断してしまいます。そして、それによってハムリー夫人の体調を悪化させ、結果的に彼女を死に追いやったと、自責の念にもとらわれていました。

二人は離れた場所にあるコテージに暮らし、すでに子供も生まれていました。オズボーンは信頼しているロジャーにだけでなく、妹のように思うモリーにもこの秘密を明かしており、先が長くないと悟った彼はモリーにコテージの住所を託すのです。

やがてオズボーンは、ハムリー家の近くで静かに亡くなります。モリーは深い悲しみに沈むハムリー卿に、オズボーンの妻と子の存在を打ち明けます。子供の存在に喜ぶハムリー氏でしたが、フランス人の母親が子供をハムリー家に引き渡した後は、彼女が一人でフランスに戻るように、弁護士を通じて手配するつもりでいました。

シンシアとプレストン氏

モリーは、シンシアにしつこく近づいてくるプレストン氏との間に何かあったことを知ります。

シンシアは、自分たちの貧しい境遇が根本にあったと打ち明けました。彼女は15歳のとき、プレストン氏から20ポンドを借りてダンス用のドレスを買い、そして20歳になったら結婚する約束をし、それまでは秘密にしてほしいと頼んだといいます。プレストン氏はその約束を守ってきましたが、シンシアはその判断を後悔していると話します。これが「秘密にしてほしい」という理由だったのですね。

しかしプレストン氏は、シンシアとの結婚をまだ望んでおり、シンシアからの手紙もすべて保管していました。モリーはシンシアのために動き、早朝に森でプレストン氏と会います。結婚の約束は無効であり、これまでの手紙を返却するよう要求します。すると意外にも、プレストン氏はモリーの要求通りにすべての手紙を返してくれたのです。

戻ってきた手紙をさっさと燃やすシンシア。ロンドンの親戚を訪ねる準備で少し浮かれており、借りた20ポンドに5%の利子をつけた金額を入れた封筒をプレストン氏に渡してほしいとモリーに頼みます。モリーはもう関わりたくないと嫌がりますが、シンシアの強い願いに押されてしぶしぶ引き受けます。モリーは町の書店でプレストン氏に出くわしたときにその封筒を手渡しました。

ところが、モリーが朝にプレストン氏と森で会っていたことや、本屋で封筒を渡していた様子を目撃した人がいて、町の女性たちの間で噂が広まってしまいます。当時、未婚の女性が婚約者でも親族でもない男性と二人きりで会うのは不適切とされており、そうした行動は名誉を傷つけ、結婚や社交の機会にも大きな影響を及ぼすものでした。

しかし、モリーに好意を持つレディ・ハリエットがプレストン氏から事情を直接聞き取り、それをレディ・カムナーに伝えます。二人は、カムナ―邸で家庭教師をしていたモリーの継母を呼び出し、娘の教育はどうなっているのかとたしなめます。純粋に何も知らなかった継母はめまいを起こしそうなくらいショックを受け、帰宅後シンシアを厳しく叱ります。モリーの父も一連の出来事を知ることになり、シンシアに失望したと言うのです。

通常は、貴族階級の人が、このような一般市民のゴタゴタに関わるのはなかったとされています。レディ・ハリエットは良識ある人物であり、モリーやギブソン医師のような中流階級の人々にも敬意をもって接していることがうかがえます。

レディ・ハリエットはモリーの評判を回復するため、自らモリーの家を訪れ、彼女と一緒に町を歩きたいと申し出ます。町の人々はレディ・ハリエットを見るなり、男性はお辞儀をし、女性はカーテシー(女性が敬意を表すために膝を軽く曲げてお辞儀をする所作)をします。モリーの噂話をしていたグッドイナフ夫人も慌てて立ち止まり頭を下げます。

レディ・ハリエットのような貴族階級の人物がモリーと行動を共にすることは、それ自体が強い信頼の証と受け取られます。階級や評判に敏感な町の人々にとって、「貴族が認めているのだから疑う余地はない」という印象を与えるためです。また、誰と一緒にいるかは女性の評価に直結していたため、社交的に尊敬されているレディ・ハリエットと並んで歩くことが、モリーの評判の回復につながったのです。

その後、シンシアはロジャーに婚約破棄の手紙を書きます。モリーの父とも冷静に話をし、「ロシアで家庭教師として働こうかと思っている」と語ります。(が、本当にロシアに行くとは思えない笑)
どちらかというと、彼女はロンドンで出会ったバリスターのヘンダーソン氏との結婚を意識していたようです。

ロジャーを見送るモリー

オズボーンの死を知らない妻が子供を連れてハムリー邸を訪ねてきます。
かつては彼女をフランスへ戻すつもりだったハムリー氏でしたが、最終的に二人を受け入れたようです。

一方、ロジャーは著名な旅行家で科学者として地元の科学界から高く評価され、カムリー邸でのパーティーにメインゲストとして招かれます。レディ・ハリエットの配慮でモリーも招待され、二人は再会します。

美しいドレスを着たモリーに思わず目を奪われるロジャーは、改めて彼女の内面に惹かれていたことに気づきます。

ガスケルの原作はこのあたりで未完となっていますが、BBCのドラマではその続きが描かれています。

ネタバレしないように結末は書かないでおきます。

視聴方法など

私が持っているDVDはイギリスのアマゾンで購入したもので、英語の字幕がついています。

時代特有の表現、丁寧な会話表現、社交辞令、19世紀イギリス社会に関連する語彙(社会階層、家族の力関係など)といった表現を学ぶのに良いと思います。

おわりに

ロジャーが雨の中、モリーの家の前に立っているのを見つけた継母は、「モリー、家の外に誰かいるわ。もう30分くらいずっと立っているのよ」と慌てたり、それがロジャーだと分かると、「お別れを言いに来たのね。さようなら、さようなら」と優雅に手を振る姿が少しコミカルで可愛らしいです。かつて「クランフォード」で重厚で厳格なレディ・ラドローを演じていた彼女とは、まったく違う一面が見られます。

また、モリーのシンプルなデザインの衣装は清潔感があり、ジャスティン・ワデルのスレンダーな体型によく似合っていて印象的でした。イギリスの時代劇は、衣装や舞台だけでなく、馬の足音や馬車のきしむ音、ドアの開閉音や足音といった細部の演出も魅力のひとつです。

エリザベス・ガスケルの原作にはないものの、ギブソン夫人とレディ・ハリエットの最後のセリフも印象的です。

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