「The Boat that Rocked(パイレーツ・ロック)」は、2009年公開のイギリス映画(アメリカ、ドイツ、フランスとの共同製作)。1960年代の英国海賊ラジオ局の実話を基にしたフィクションです。
退学処分を受けたカールが、ゴッドファーザー(名付け親)のクエンティン運営の海賊ラジオ船「Radio Rock」に送られると、そこで出会うのは個性豊か(過ぎる)DJたち。政府は海賊局を商業主義や道徳の崩壊とみなし、広告禁止や1967年の海洋放送法によって規制します。BGMに1960年代のイギリスおよびアメリカのロックやポップスが多く登場します。曲を聴いているだけでも楽しいです。
キャスト:フィリップ・シーモア・ホフマン、トム・スターリッジ、ビル・ナイ、クリス・オダウド、ニック・フロスト、ウィル・アダムスデール、リース・エヴァンス、キャサリン・パーキンソン、ケネス・ブラナー、タルラ・ライリー、エマ・トンプソンと豪華。
監督・脚本のリチャード・カーティス作品は「フォー・ウェディングス」「ノッティングヒルの恋人」「ブリジット・ジョーンズ」シリーズ、「ラブ・アクチュアリー」「アバウト・タイム」「ブラックアダー」「Mr.ビーン」「The Vicar of Dibley」「Not the Nine O’Clock News」など。
「The Boat That Rocked(パイレーツ・ロック)」あらすじ
1960年代イギリスはロックンロールの黄金時代だというのに、ラジオ放送は事実上BBCのみで(政府の管理下にあった)放送内容はクラシックやトークなど非常に保守的。ポピュラー音楽やロックが流れることは極端に少なく、若者が日常的にロックを聴く手段は限定的でした。
一部のレビューでも「海賊ラジオを聴く以外に音楽を聴く手段がなかった」「BBCはポップミュージックを1日に1時間も放送しなかった。海賊ラジオは本当に影響力があった」というコメントを見かけました。また、この映画に登場するDJは皆、非常に「リアル」だという評価も。
その結果、北海などの公海上にプラットフォームを置き、イギリス本土に向けた「海賊ラジオ局」が頻出することに。これらは、ビートルズ、ローリング・ストーンズ、ザ・フー、ザ・キンクス、トム・ジョーンズなど当時のヒット曲を大量に流し、若者層から圧倒的な支持を集めました。
ストーリーは、海賊ラジオ船「Radio Rock」のアメリカ人DJザ・カウント(フィリップ・シーモア・ホフマン)による番組で始まります。学校や寮、職場、キッチンや風呂場、夜のベッドの中など、あらゆる層のリスナーが放送を心待ちにしており、キンクスの「All Day and All of the Night」がテンションを上げてくれます。DJのザ・カウントもノリノリで、観ているこちらもワクワクしてしまいます笑。
海賊船オーナー・クエンティン(ビル・ナイ)のもとへ退学処分を受けた17歳のカール(トム・スターリッジ)が送られると、クエンティンは、カールを「お気に入りのゴッドサン(名づけ子)」と呼んだかと思えば、「会ったことあるよね?」と聞いてみたり、退学処分の理由がドラッグとたばこだと知ると「よくやった」と褒め、さらにたばこ(かドラッグ)を勧めてくる笑。この頃のカウンターカルチャーですね・・・。さすがにカールは断ります。
個性豊かなDJとスタッフたち
カールは個性豊かなDJたちと共同生活を送ることに。24時間放送なのでDJも多く、人気のラジオ局ということで、有名なDJたちを紹介されて少し感動するカール。皆がフレンドリーでワイワイと暮らす船での生活はとても楽しそうです。
ザ・カウント(The Count)
ロックンロールに強い情熱を注ぐアメリカ人DJで、船内のリーダー的存在。口は悪いけど、仲間思いな一面があります。元トップDJのギャビン・カヴァナが復帰したことで、二人の間にライバル関係が生まれ、サイモンの面目のためにギャビンに宣戦布告。結局は二人とも負傷して仲直りをします。
ザ・カウントは、海賊局ラジオ・キャロラインのアメリカ人DJ「Emperor Rosko」を緩くモデルにしているとのこと。「Emperor(皇帝)」という派手な称号から着想を得て「the Count(伯爵)」なのですね。
ギャビン・カヴァナ
伝説的なDJで、ザ・カウントと決闘をすることに。高いカリスマ性を持ち、女性ファンからの支持が絶大(というけど、DJ姿がねっとりしていて本当にカリスマ?と思ってしまいました笑)。
ギャビン・カヴァナ扮するリス・エヴァンスは「ノッティングヒルの恋人」で、ウィリアム(ヒュー・グラント)の同居人スパイク役。かなり変わっただらしない芸術家という役柄だったのに、「パイレーツ・ロックではまったく異なるキャラクターです。
「シンプル」 サイモン・スワフォード
朝の放送を担当(クリス・オダウド)。とても親切でフレンドリーな性格。エレノアというファンと船上で結婚式を挙げるものの、彼女から残酷な真実を知らされます・・・。「シンプル・サイモン」は海賊局ラジオ・キャロラインの朝のDJを務めていたトニー・ブラックバーンと、アイルランド人DJラリー・ゴーガンを緩くモデルにしているとのこと。
「ドクター」デイブ
性的に奔放で皮肉屋なDJ。カールの童貞喪失を積極的に手助けするくせに、カールがクエンティンの姪マリアンヌと良い関係になりかけると、無邪気に彼女を寝取ってしまいます。彼も女性に人気のDJ。
「ドクター」デイブ演じるニック・フロストは「キンキーブーツ」のドン役、「ショーン・オブ・ザ・デッド」のエド役です。
ジョン・メイフォード
ニュースと天気を担当(ウィル・アダムスデール)。DJというより報道役で、船内の出来事を淡々と伝えます。ニュースよりも天気予報の方が好きらしい笑。真面目で紳士的なキャラクターです。
ミッドナイト・マーク
スタイリッシュな深夜放送を担当するDJ(トム・ウィズダム)。「地球上で最もセクシーな男」と形容されています。寡黙な性格で、放送中でもほとんど話さないらしく、それでも女性リスナーが夢中になるほどの不思議な魅力。マイクの前でため息をつくだけでも番組が成立するらしい笑。
アンガス「ザ・ナット」ナッツフォード
ニュージーランド出身のDJ(リース・ダービー)で、ユーモアを交えたトークが特徴。変わり者で陽気なのに、船内では人気がないらしい笑。苗字に「nuts」が入っていることから、「nuts(頭がおかしいという意味)」と呼ばれ、番組内容も「Nuts」です。
「スムース」ボブ・シルバー
午前3~6時担当のDJ(ラルフ・ブラウン)。とても内気で、DJの時間以外はほとんど部屋にこもっているため、久しぶりに姿を見せたときに彼の存在を知らなかったメンバーが驚きます笑。物静かなので、放送中もささやくように話します。海賊ラジオ船「ラジオ・ロンドン」のジョン・ピールと、ラジオ・テレビの音楽司会者だったボブ・ハリス(ウィスパリング・ボブ)をモデルにしているとのこと。彼のファンは男性が多いです。
ただし、サイモンのスタッグ・ナイトではロンドンに皆と出かけたり、コミュニティルームで皆と一緒に座ったり、一緒に踊ったりすることも。
「Thick」ケビン
「Thick」ケビン(トム・ブルック)は、カールのルームメイトで、船内では雑務を担当。フレンドリーだけど、天然でかなり鈍いタイプ。自分がなぜ「Thick ケビン」と呼ばれているのか理解していません。しかし、「カールの母がカールを船に送った理由は、船にいる父親に会わせるためではないか」と、めずらしく鋭い推理をします。
料理人フェリシティ
料理担当のフェリシティは船内で唯一の女性ですが「レズビアンだから問題ない」といいます。男性メンバーからアプローチを受けても軽くかわし、船が沈没するという危機状態でも「誰も飢えさせない」と彼らと一緒に残る頼もしい存在。フェリシティ扮するキャサリン・パーキンソンは「ガーンジー島の読書会の秘密」のイゾラ役。
ハロルド
ハロルド(アイク・ハミルトン)は、ラジオアシスタント。傷ついたサイモンのために一緒に涙を流し、落ち込んでいるカールに寄り添います。サイモンのスタッグ・ナイトでDJたちが出払っていたとき、彼は見事な代役ぶりを発揮していました(これは削除シーンから)。
海賊放送の取り締まり
当初、海賊ラジオは法律に反していなかったものの、大臣のドーマンディ卿(ケネス・ブラナー)は、海賊ラジオ局の道徳性の低さを理由に1年以内に壊滅させると宣言。まず海賊ラジオ局への広告を違法化することで締め付けを開始。クエンティンは、対策として伝説的DJだったギャヴィンを復帰させます。Radio Rockの人気はさらに高まり、海外からの広告を集めます。
次に政府は海上安全法を推進。国民がフィッシュアンドチップス好きである点を利用し、漁船の遭難信号がラジオ・ロックによってふさがれた例に焦点を当てます。「気に入らないことがあれば法律にして禁止する」というドーマンディ卿。・・・これって現実の世界でもありそうな気がしますが。
彼の部下はRadio Rockのファンを装って船に入り込み内部偵察。エンジンが老朽化しており遠くまでは移動できないだろうと報告。ドーマンディ卿は、Ridio Rockが政府を茶化していることも気に障っている様子。皮肉なことに、彼の秘書の女性もRadio Rockのリスナーでした笑。
船での人間ドラマ
カールは退学処分の罰として船に送られたはずなのに、今や皆と一緒に酒を飲んだりたばこを吸ったりするように。彼の母親(エマ・トンプソン)やクエンティンも気にしていない笑。担当時間ではないDJやスタッフたちは、一緒に座って話したり、ゲームをしたりと仲良く過ごします。BGMで流れるキンクスの「Sunny Afternoon」が、船上でのリラックスした生活や、色々な年齢層のリスナーたちが音楽を楽しんでいる姿がマッチしています。キンクスは「You Really Got Me」もいいですねー。60年代のラジオ局なので当然なのでしょうが、船内にはレコード店のようにレコードが並んでいます。
船では隔週土曜日、各DJが女性1人を招待できるというルール。2人の女性(笑)と部屋に消えていくザ・カウントに対し、コミュニティルームに寂しく残るカール、サイモン、ジョン、フェリシティ、ケヴィン・・・。カールは初めてのことなので仕方ないとしても、その他の彼らが残るのはいつものことらしい笑。(ドクター・デイブに会いに来た彼女役は、ジェマ・アータートン。「聖トリニアンズ」シリーズでクールなケリー役)
カールはクエンティンの姪マリアンヌといい関係になるものの、彼女がドクター・デイヴのファンでもあったため、簡単に誘惑されて寝取られてしまいます。(マリアンヌ役のタルラ・ライリーは「聖トリニアンズ」シリーズのアナベル役)BGMにレナード・コーエンの「So Long, Marianne(さよならマリアンヌ)」が流れ、コミュニティルームで落ち込むカールを、ハロルドとジョンが慰めるのがコミカルで心温まります。
また、DJたちは放送中にイギリスラジオで初めての「Fワード」を試みることに。リスナーから募った企画でもあり、「ただの言葉」として発するという主張だと念を押します。当時のテレビやラジオは保守的で、戦後の道徳観もあり、Fワードは越えてはならない一線。クエンティンが止めるように警告するものの、ちょっとしたアクシデントが起こってしまいます。でもリスナーたちは満足そう笑。
そんな中、サイモンが美しくゴージャスなエレノアと結婚することに。サイモンを訪ねる女性はいなかったというのに・・・。知り合ってたった2週間の関係に、他メンバーたちは疑問を抱くものの、サイモンのためにスタッグ・ナイトを決行。ロンドンに繰り出して学生のようにはしゃぐ姿がとても楽しいです。BGMの「スモール・フェイセス」の「Lazy Sunday Afternoon」とよく合っていると思います。


エレノアの登場のBGMには「タートルズ」の「エレノア」が。上述のマリアンヌといい、曲に合わせてキャラクター名が決まったのかと思ってしまいます笑。船長のクエンティンが式を執り、つつがなく式は終了するものの、サイモンは、エレノアの真の目的は実はギャビンだったという残酷な事実を知ることに・・・。
傷心のサイモンは、それでも翌朝DJの席に戻ります。ロレイン・エリソンの「Stay with Me」をオンエアで流しながらの、彼のリップシンクがとても感情的で見どころです。一緒に涙を流アシスタントのハロルド。そしてマイクがオンになると、サイモンは相変わらずのトークを始め、プロフェッショナルぶりを示すのです。
クリスマスにはカールの母が船を訪れます。多くのメンバーがクリスマスジャンパーを着ているのに、天然のケヴィンだけはイースターバニーの着ぐるみ笑。大勢で囲むクリスマス・ディナーがもう楽しそう。BGMの「ダーレン・ラヴ」の「Christmas (Baby Please Come Home)」は、エネルギッシュなクリスマス・クラシックでいいですね。そして翌日のカールの母の去り際、カールの父が明らかに・・・。
カールが父のDJブースを訪れると、「ダスティ・スプリングフィールド」の「この胸のときめきを(You Don’t Have to Say You Love Me)」が流れます。壮大なイントロが父と対面するという運命的なシーンを表しているようです。そして父は、ジミ・ヘンドリクスの「The Wind Cries Mary」を流します・・・。
移動するRadio Rock
そして1967年1月1日、海上放送違反法が施行されることに。夕方のRidio Rockの船は、スキーター・デイヴィスの「この世の果てまで(The End of the World)」をBGMに、彼らの終わりを思わせるような美しく切ない空気に包まれています。(「The End of the World」は「この世の終わり」とか「世界の終わり」の方が正しい訳なのではと若い頃思っていましたが、今でもそう思います。「この世の果てまで」だとニュアンスが違いますよね。)
それにしても、満足そうな表情を浮かべる大臣が憎たらしいです。
放送が終了になることをジョンが伝え、リスナーたちは悲しみに包まれます。夜、ベッドの中で隠れて聴いていた少年も泣いています。
そして迎える大晦日、最後のトークをするザ・カウント。船の一同はしんみりとしており、リスナーたちも涙を流したり意気消沈したり・・・。そして新年へのカウントダウンとともに、ラジオは静寂に包まれ・・・たと思いきや、再開してしまいます笑。ローリング・ストーンズの「Let’s Spend The Night Together」が流れ、再び盛り上がります。
その頃、マリアンヌがカールのもとへ謝罪にやって来ます。ようやく結ばれた二人をDJたちが実況中継し、全員でカールを祝福。「ヒューストン、打ち上げ成功です」と報告するDJもいました笑。
Ridio Rockは、苦肉の策として船を移動させることに。BGMの「ダムバスターズ・マーチ(Dam Busters’ March)」は、1955年の戦争映画「The Dam Busters」のテーマ曲で、イギリスではクラシックFMでもよく流れる楽曲です。勇壮で力強いメロディが特徴で、イギリスらしさを感じさせる音楽の一つだと思います。
しかし、老朽化した船は爆発。船体はどんどん沈んでしまいます。船の側面に大きな穴が開き、沈没していることをジョンが報じ、救助を呼びかけます。あろうことか予算を理由に救助の要請を却下するドーマンディ卿。イギリスのあらゆる層のリスナーが心配し、泣いたり、絶望を感じたりします。そして流れるプロコル・ハルムの「青い影(A Whiter Shade Of Pale)」がもう切ないです・・・。
ザ・カウントは、一人で最後の放送を続けます。
ネタバレせずにここまでで・・・。
ロックンロールなラストが好きで、何度も観てしまいました。
Good Morning England

フランス版のタイトルは「Good Morning England」。海賊ラジオのDJは、放送時間に関係なく「Good morning ○○」のような呼びかけを多用していたそうです。芸能界はどこも同じなんでしょうか。英語のタイトル「The Boat that Rocked」は、直訳で「揺れた船」ですが「boat rocker」は「秩序や慣習を乱す存在」という表現とのこと。この映画では、文字どおり船なので揺れるのは当然で、同時に文化的な攪乱者としての海賊ラジオを指す二重の意味なのかと思います。

おわりに
「パイレーツ・ロック」は、騒乱や友情、チームスピリットを垣間見ることができて、60年代からの選曲を楽しめる映画だと思います。リチャード・カーティス作品の中では「ブラックアダー」シリーズとともに好きな作品です。
海賊ラジオの黄金時代は終わり新しい音楽局ができると、知名度があり進行技術を持っていた海賊局のDJが何人も採用されたそうです。
DVDの特典映像には削除シーンが収録されています。その中の1つに、スタッグ・ナイトの翌朝、全員でアビーロード・スタジオを訪れているものも。1966年当時は「EMIスタジオ(EMI Recording Studios)」という名称で、ビートルズの1969年アルバム「Abbey Road」の影響で現在の名称になったとのこと。また、削除もされていないのに、なぜか「削除シーン特集」の締めくくりとしてシンプル・サイモンの「ステイ・ウィズ・ミー・ベイビー」がまた収録されています笑。
余談ですが「この胸のときめきを(You Don’t Have to Say You Love Me)」は、「ポール・モーリア(Paul Mauriat)」バージョーンもお勧めです。彼の作品では、一般的には「オリーブの首飾り(El Bimbo)」が有名です。マジックショーでよく流れるあの曲笑。また「青い影(A Whiter Shade Of Pale)」は、プロコル・ハルムが歌うバージョンがもちろん秀逸なのですが、「レイモンド・ルフェーブル(Raymond Lefevre )」バージョンも素敵です。




