The Good Life (イギリスのシットコム)中流住宅地で自給自足

The Good Life (イギリスのシットコム)のレビュー記事

「The Good Life」は、1970年代のイギリスのシットコムです。ロンドン郊外のサービトン(Surbiton)に住む中流階級のトムとバーバラ夫妻が自給自足のライフスタイルを追求する生活を描いています。隣人のジェリーとマーゴ夫妻は、トムとバーバラの型破りな行動に戸惑い、ときには呆れながらユーモラスなやり取りを繰り広げ友情を深めていきます。個人的におすすめしたいハートフルなシットコムです。

このシリーズは1975~1978年にかけて放送されました。当時のイギリスでは非常に人気があり、ピーク時には1話あたり平均1,500万人の視聴者を獲得しました。2004年にBBCが行った「「The 100 Greatest British Sitcoms」では9位にランクインしました。

また、忘れられないエピソードの一つとして、女王陛下とエディンバラ公爵の前で行われた収録があります。夫妻はBBCの番組収録を観覧する機会を得て、「The Good Life」ともう一つの作品の2つが候補に挙がりました。夫妻のお気に入りの番組として報じられていたこともあり、「The Good Life」が選ばれたのは自然なことでした。

「The Good Life」はアメリカでも人気がありましたが、アメリカではすでに同タイトルの番組があったため「Good Neighbors」にタイトルが変更されて放映されました。

目次

「The Good Life」のあらすじ

観ていると幸せになります

トム(リチャード・ブライアーズ)は40歳の誕生日を迎えた朝、「有意義な人生とは?」と考え始めます。妻のバーバラ(フェリシティ・ケンドール)も彼の問いに寄り添いながら、いつものように彼を仕事へ送り出します。

トムを車で迎えに来たのは、隣人であり上司でもあるジェリー(ポール・エディントン)。トムは優秀な製図工ではあるものの、職場では若い後輩から年配扱いされたり、他の上司には名前を間違えられたり。彼はは思い立って仕事をやめてしまいます。

帰宅したトムは、夜の3時になっても考えをめぐらせてノートにさまざまなアイデアを書き出します。心配して様子を見に降りてきたバーバラに、彼は「この家で自給自足の生活を始めよう」と提案します。それこそが「人生に対する真の仕事」であり、世の中のラットレース(rat race、終わりのない競争に追われ続ける生活。仕事や出世競争、努力しても抜け出せない状況など)から抜け出し、その無限のループを断ち切ることができると語るのです。

幸いにも彼らの家は中流階級の住宅街の一角にあり、トムの安定した収入のおかげでローンも完済済みです。広い前庭と裏庭を持ち、暖炉や地下セラーまで備えた立派な住宅。ライフスタイルががらりと変わるようなトムのエキセントリックな提案に、もちろんバーバラは戸惑いを見せます。しかし「夫婦は似るもの」。庭に出て歩きながらトムのアイデアを考え始めます。

「すべて自分たちでまかなうって、服はどうするの?」と尋ねるバーバラに、トムは「生地を織ればいい」と答えます。

「でも私、鶏を殺せないわ」と言うと、トムは「君が向こうを向いているときに僕がやるよ」と返します。

結局、バーバラもトムの考えに賛同します。夜明け前の薄暗い庭で水のオブジェに足を突っ込み、嬉々としてバシャバシャとはしゃぎながら翌日からの自給自足生活に胸を躍らせます。

その騒ぎで目を覚ましたのが、ジェリーの妻・マーゴ(ペネロピ・キース)です(彼女は第1話では声のみの出演)。何の騒ぎかと気を揉みながら夫のジェリーに窓の外を見るように言います。そして2階の窓から「何事だ」と声をかけるジェリー。マーゴはいつでも「ジェリー!?」と呼びかけて夫を動かす、というのがおきまりのパターンです。

ジェリー夫妻は、トムたちと長年にわたる家族ぐるみの付き合いがあり、裕福で保守的な隣人として対照的な存在です。当然のことながら、ジェリー夫妻は、自分たちの上品な住宅街の景観が、隣人による家畜の飼育や農作業によって損なわれていくことに衝撃を受けます。特にマーゴは、トムたちが庭を畑に変えたり、ヤギ・鶏・豚などの動物を飼い始めたり、近所からくず野菜を集めてくるたびに、冷ややかで批判的な態度を隠すことができません。

そんな二家族の価値観のギャップや、それぞれの個性的なキャラクターは実にコミカルです。それでも、両夫妻の友情は次第に深まっていくのです。

登場人物

「The Good Life」は、4人の主要キャストによる息の合った演技が、この番組の成功の鍵であったと言われています。バーバラ役とマーゴ役を決める際には、当時ウエストエンドでアラン・エイクボーン作「The Norman Conquests」の舞台で共演していたフェリシティ・ケンドールとペネロピ・キースが抜擢されました。

当初は、トムとバーバラの掛け合いが中心だったところ、ペネロピ・キースの存在感を活かさないのは実にもったいないという判断から、主演2人・脇役2人という構成ではなく、4人によるカルテット編成となりました。その結果「The Good Life」は高い人気を誇るシットコムとなりました。

トム

トム(リチャード・ブライアーズ)は、エキセントリックで、いつでもジョークを言っています。バーバラとはユーモアのセンスが合いますが、隣人のマーゴには嫌がられることが多いです。

自宅の地下セラーで自家発電機を作ったり、排水システムの設計にも取り組んだりします。以前勤めていた会社の社長からは、フリーランスで設計業務を依頼されることもあるぐらい有能でした。自給自足オンリーがポリシーのところ、バーバラをいいホテルの食事に連れていくために、彼女に内緒でフリーランスの仕事を受けたことも。

マーゴが飽きてしまった彼女のアトリエで陶芸に挑戦した際には、その腕前が見事だったため、近所のアーティストから増産を依頼されるほどでした。(一方で、バーバラが作ったカップとソーサーはガタガタで、紅茶が漏れてしまうほどの出来。トムは「これらを『Dis』と『Aster』と呼ぼう」と提案します(つまり「disaster (災難、失敗作など)」)

「しゃがまずに」じゃがいもの種芋を植えることができるガジェット作成もしました。ただ、それは単にじゃがいもが一個ずつ落ちていくだけの仕組みで、バーバラに「発芽する面が上向きにならない種芋もあるから意味がないわよ」と指摘されます。トムは「そんなときは君が後からついてきてひっくり返せばいいよ」と応じます笑。

リチャード・ブライアーズ(Richard Briers)は、「Ever Decreasing Circles」「The Other One」「Monarch of the Glen」「The Norman Conquests」や、シェイクスピア作品の舞台などに出演しました。

バーバラ

バーバラ(フェリシティ・ケンドール)は、小柄でチャーミングで、愛情にあふれたキャラクターです。マーゴがたびたびスノッブな発言をするときには、笑って受け流したり、「マーゴのああいうところが好きなのよ」とフォローしたりします。ただし、怒りが頂点に達して、なかなかの剣幕で怒ったことが1、2度ありました。

トムのジョークをいつでも楽しみ、彼女自身もトムと似たようなジョークを言うこともあります。

彼女のカントリースタイルのファッションも素敵です。衣類はたびたび修理する必要があるため、ジーンズの片足を切り取り、オレンジ色の別のズボンの足の部分をもってきてつなぎ合わせた服を自作しましたがそれも彼女が着ると可愛いです。

植物に話しかけるとよく育つという情報を得てきたときには、やさしく声をかける豆と罵倒する豆に分けて(かわいそうに笑)、どちらがよく発芽するかを実験しました。バーバラはその豆に「ダグラス」という名前をつけ、トムがそのことにやきもちを焼いたことも。

私の知り合いの60代の男性は、当時は毎週の放送がとても楽しみで、フェリシティ・ケンドールの大ファンだったと話していました。

フェリシティ・ケンドール(Felicity Kendal)は、「ローズマリー・アンド・タイム(Rosemary and Thyme)」(日本でも放送)、「The Camomile Lawn」、「Solo」、「Doctor Who」などに出演しており、多くの舞台作品にも登場しています。

ジェリー

イギリス紳士のジェリー(ポール・エディントン)は、マーゴから常にあれこれと指図されてしぶしぶ動きますが、彼も時折、皮肉で言い返したり、マーゴと口論になることがあります。

ある日マーゴが外出することになり、ジェリーはインディアンテイクアウェイを買って帰宅しますが、マーゴから「匂いが残るからダイニングで食べるように」と注意されます。しかし、マーゴが出て行ったのを確認すると、ジェリーはわざとカレーのふたを開けて匂いを部屋中に広げます。

そしてちょうどそこにはソファの後ろに隠れていたトムがいて、「ジェリィィ?」とマーゴの口調を真似してジェリーを驚かせます笑。とはいえ、リビングでカレーを食べるときには、キッチンから銀のトレイに皿やフォーク、調味料などを載せて運んでくるあたりがジェリーの品のよさを感じさせます。

別の日には、ジェリー、トム、バーバラの3人でダイニングでコーヒーを飲みながらおしゃべりをしていました。マーゴが帰宅する音が聞こえると、ジェリーは「マーゴだ!」と声を上げ、すぐにコーヒーカップの下にコースターをさっと敷しました。それを見てトムとバーバラも慌てて同じ動きをします。すでにカップの下にはソーサーがあったにもかかわらず笑。日頃からマーゴに口うるさく言われているのがよく分かります。

紳士的なジェリーが印象的だったのは、トムたちがバーバラの旧友アイリーンを夕飯に招待したときのこと。モデルのように美しいアイリーンにトムが浮かれてしまい、バーバラを悲しませるのです。ジェリーはマーゴで日頃から鍛えられているせいか笑、「バーバラは自給自足の生活を選ぶことで女性としての特典を多く諦めており、それに気づかないトムは愚かである」とトムに苦言を呈します。完全にバーバラの味方をしたジェリーが素敵でした。

また、口論の末、マーゴが家出したときには、ジェリーはトムたちに「彼女が家にいると家の中が温かいし、帰宅すれば食事も用意されていて、きれいなドレスを着たマーゴが待っていてくれる」と、マーゴのいない寂しさを語ります。そんなジェリーも素敵でした。

ポール・エディントン(Paul Eddington)は、「Yes Minister」「Yes, Prime Minister」でイギリスの首相役を演じています。これらの作品は、傀儡政権や政治風刺など、イギリス独特の皮肉が詰まったシットコムとして高く評価されています。

マーゴ

マーゴ(ペネロピ・キース)は、裕福で、不自由のない生活スタイルを送るのが当然であると考えており、スノッブな発言が多く見られます。

税金を納めるときや車の修理が遅いときなど、堂々と苦情を申し立てます。私たちもこれくらいはっきり意見を述べてもよいのではと思わずにいられません。音楽サークルの活動や、ジェリーの上司の退職に伴う会食の場などでは、巧みに策略的な発言をすることもあります。

彼女は料理は得意ですが、掃除などの家事は家政婦に任せています。家政婦が休暇のときには、掃除機が壊れたとトムたちの家に持ち込みます。バーバラが「ゴミを集めるバッグがいっぱいなのよ」とすぐに原因を見抜いて解決してしまいました。掃除機をそのまま持ってくるのではなく、ショッピングバスケットに入れて引いてくるあたりに彼女の上品さが表れています。レトロな緑色の掃除機も印象的です。

マーゴのファッションとヘアスタイルは見逃せません。1970年代のファッションでありながら、現在でも通用するような洗練されたものが多いと思います。個性的で凝ったデザインの服が多く色使いもカラフルです。パーティ用のドレスはタイムレスで、マーゴの長身ですらっとした体型によく合っています。

家にいるときでさえロングドレスを着用したり、美しい巻き髪にしていたり、上品にまとめたアップスタイルにしたりと常に洗練されており、おしゃれなヘアアクセサリーも登場します。「To the Manor Born」でのペネロピ・キースは、上流階級のオードリー役ですが落ち着いたファッションが多いのに対し、「The Good Life」でのマーゴは、よりゴージャスでバラエティに富んだファッションとヘアスタイルを見せてくれます。

また、マーゴは頻繁に衣装を変えます。これを楽しみにしていた視聴者も多かったことでしょう。ある日、トムとバーバラが取材を受けることになったときには、自分も写真に入り込もうときれいな庭仕事用の服を着て作業しているふりをします。その記者が家の中でインタビューを始めると、彼女は着替えて訪ねてきました。

週末にトムとバーバラの庭と動物の世話を任されたときには、新しくて少しおしゃれな作業着を新調し、ジェリーに「なぜわざわざ新しく買うのか」と指摘されたりもしています。

家政婦がいないときの家事でもおしゃれな作業着と、それに合わせたターバンだったり、どんな場面でも妥協しません。すべてスクリーンショットに収めたくなるほどです。

深夜にトムたちの飼っている豚が出産することになり、ジェリーとマーゴが手伝う場面もあります。トムが「牛乳とブランデーを持ってきてくれ」とマーゴに頼むと、彼女は「レミーマルタン?それともハインVS?」と返し、トムに叱られます(パーティではないのに笑!)。頼まれたものを持ってくるのに時間がかかったと思えば、着替えに手間取っていたからだといいます。豚の赤ちゃんに牛乳を与えるときのマーゴの表情は必見です笑。

当時は喫煙が一般的であったこともあり、マーゴが優雅にタバコをくゆらすシーンも多く登場します。彼女がたばこを取り出すと、ジェリーがスマートに火を点けるしぐさもなかなか素敵です。

ペネロピ・キースは背が高く、気品があり、凛とした存在感を放っており、そこにいるだけでその場の雰囲気が華やかになるように感じます。上品で丁寧な英語を話す彼女がコミカルな演技をすることで、より一層魅力的に映ります。

ペネロピ・キース(Penelope Keith)は、「To the Manor Born」、「The Norman Conquests」、「Executive Stress」、「No Job for a Lady」などに出演しています。

ゲスト出演したキャスト

よく知られたキャストによるゲスト出演です。

アンジェラ・ソーン(Angela Thorne)
自給自足について講演するようバーバラに依頼をしてきたレディ・トラスコット役で登場。

「To the Manor Born」のマージョリーとは異なる、快活でさばさばとしたキャラクターでした。貴族階級の人物でありながら、逃げ出した鶏をバーバラと一緒に追いかけて小屋に戻すのを手伝いました。それを後から知ったマーゴは、レディ・トラスコットに何をさせたのかと驚きますが、レディ・トラスコットは「とても楽しかった」と語ります。

ロバート・リンゼイ(Robert Lindsay)
若いころのロバート・リンゼイが学生役として登場します(レディ・トラスコットの回)。バーバラの講演を聞いていた(はずの)彼に感想を尋ねたところ、意外な感想を述べたためトムが焦ります笑。
ロバート・リンゼイは、「Citizen Smith」、「G.B.H.」、「My Family」など、多数の作品に出演しています。

ジェームズ・コシンズ(James Cossins)
トムたちの前庭で育てていたリーク(西洋ネギ)が盗まれたため、明け方にトムが待ち伏せし犯人をエアガンで撃ってしまい、逆に訴えられてしまいます。そのときの裁判官役がジェームズ・コシンズです。彼は、「フォルティ・タワーズ」で、ホテルの検査官が訪れるエピソードに登場。バジルに検査官であると勘違いされる客を演じています。

脚本

「The Good Life (1975–1978)」は、イギリスのシットコム作家、ジョン・エスモンドとボブ・ラーベイの共作によって執筆されました。「Please Sir! 」、「The Other One」、「Ever Decreasing Circles」、「Brush Strokes」、「Mulberry」などを手掛けています。

興味深い自給自足の生活

トムとバーバラの自給自足の暮らしはとても興味深いものがあります。前庭や裏庭をフル活用して野菜を育て、裏庭で豚や鶏、山羊を飼ったり、収穫した野菜を販売したり、家畜の糞を使って自家発電に挑戦したりと毎日忙しく作業をします。

アロットメント(市民が野菜や果物を育てるために貸し出される小さな区画農地)でも、さらに野菜を育てているようです。中古の攪乳器で山羊のミルクでバターを作ったり、パンなども手作りしています。

物々交換で手に入れたストーブオーブンは薪を燃料に使うタイプのもので、とても味わいがあります。イギリスやヨーロッパの農家やカントリーハウスにあるようなもので、今だと博物館で見るような代物かもしれません。トムたちの家に来たときは錆びだらけでしたが、使えるようにきれいにしました。マーゴが家政婦を連れてきて磨かせたので更にきれいになりました。

ストーブオーブンは上から薪をくべる仕組みで、オーブン部分ではパンが焼けるし、上にやかんや鍋を置いて調理もできるし、部屋を暖めることもできます。夏は暑くなりそうですが(イギリスの夏は涼しいですが)、なかなかチャーミングで、トムとバーバラがその前に椅子を持ってきて座っている姿がよく描かれています。

また、自家製のワインも作っており、トムはそれを「Château Good ’75」と呼んでいます(Goodはトムの苗字)。かなりパンチの効いたワインのようで、トムとバーバラが試飲したときバーバラは驚いた様子を見せ、トムは「目の奥が痛い」と表現しています笑。ジェリーとマーゴも最初の一口目では驚いたものの、トムの家に来たときに度々飲んでいます。来客にもよく振る舞っており、驚く人もいれば、全く平気な人もいます。(自家製のワインのくだりは「Norman Conquests」でも似たような描写が見られます)

トムの陶芸作品が人気を集めたエピソードでは、ジェリーとマーゴからビジネス化を提案されます。トムたちは売上や会計についてアイデアを膨らませますが、「これでは以前のラットレースに戻ってしまう」とはっと我に返ります。いつも「お金がない」と言っているならそこまでこだわらなくても良いのではと思いましたが笑。

牧場の手伝いをして手に入れた羊毛を使い、トムが見つけてきた中古の機織り機で、彼のスーツを仕立てるエピソードもあります。それをポッシュなレストランで披露する場面は見どころの一つです。

トムとバーバラのように楽しく暮らす様子は「自給自足の生活も悪くない」と思わせてくれます。これは、トムのエキセントリックな発想力と行動力、そしてバーバラの理解と深い愛情があってこそ成り立っているのです。興味深い一方で、彼らの大きな家はメンテナンスが必要になることも多々あるかと思います。また、もし子どもが生まれたときや老後を迎えたとき、どう生活を維持していくのかという疑問も浮かんでしまいました。物々交換では年金の支払いなどできないでしょうし・・・。

元職場に依頼されて、トムがフリーランスの仕事をしたときにはかなりの額をもらったようなので、自給自足とフリーランスを兼ねた方が安定してていいのでは、と思いました。まあ、コメディなので・・・。

印象的なエピソード

印象に残ったエピソードをいくつか記しておきます。

バーバラにドレスを贈る

外で土をいじる生活が続くうちに、バーバラは、自分が女性らしいのかと疑問を抱くようになります。そんな中、いつものマーゴとジェリーに加えて、バーバラの友人アイリーンを招いて夕食会を開いたところ、トムはモデルのように美しいアイリーンにすっかり浮かれてしまいます。バーバラもマーゴも美しいドレスを着ていましたがバーバラは普段着でした。

後日、バーバラは1着しか持っていなかったドレスを着てキッチンに立ったものの、トムはまったく関心を示さず、さらにアクシデントでドレスが破けてしまいます。バーバラは気丈に明るくふるまいながらもそのドレスを手直ししますが、トムと口論になってしまいます。

登場人物の紹介でも触れましたが、女心をいまいち理解できていなかったトムを、ジェリーが叱ってくれます。紳士的なジェリーも、バーバラのために状況を解決したトムも素敵だったエピソードでした。

嵐の後の友情

マーゴとジェリーがケニア旅行へ出かけた後、トムとバーバラは庭の収穫を行う予定でした。しかし収穫日の前の晩、トムが腰を痛めて動けなくなります。医者を呼んで診てもらったところ、数日安静にするよう言われてしまいました。

収穫の朝、夜中の嵐の影響で庭は荒れており、小屋から出たヤギや豚が庭中を歩き回っている状況でした。前の晩に近所のパブに飲みに行ったとき、飲んでいた住民たちはトムとバーバラの自給自足生活に好意的だったくせに、いざバーバラが手伝いを頼みに行っても、誰も手を貸してくれないというつれない状況。

夜まで1人で作業をしたバーバラは、疲れ果ててキッチンで眠ってしまいます。杖をついて動いてたトムは、自分なりに工夫してなんとか一人で収穫を始めます。

そこにアフリカの食事やサービスが気に入らなかったマーゴのおかげで(想像できる笑)ジェリーたちが予定より早く帰宅します。庭の状況を見て驚いた彼らは、手伝いを申し出てくれたのです。トムだけでなく、ジェリーとマーゴの収穫の様子もなかなか見どころです笑。

クリスマスが配達されない

トムとバーバラはクリスマスに向けて、いろいろ手作りをしています。トムはホリーや宿り木の枝(Mistletoe:この枝の下で男女はキスをするというロマンチックな習慣があります。もちろんキスしなくてもOKですが笑)、クリスマスツリーを無料で調達し、クリスマスクラッカーを自作していました。

マーゴに呼ばれたので彼女の家に行くと、クリスマスツリーのことで配達員と揉めていました。届いたツリーが「注文したものより15センチ短い」という理由で返品するというのです。しかし、その業者からクリスマスグッズや食料、飲み物も注文していたため、オーダー全体がストップしてしまいました。

そしてクリスマス当日、マーゴたちは誰かを招待することも、自分たちが手土産を持って誰かを訪ねることもできず、さらには自分たちのクリスマスの食料もなくなるという事態に陥ります。
「私たちにはクリスマスが配達されないのよ」と嘆くマーゴ。トムとバーバラはグッド家の手作りのクリスマスパーティに2人を招待します。マーゴが心配そうに「私たちには何も持って行けるものがないわ」と言うと、バーバラは「あなたたち自身を持ってきて」と微笑みます。

食事の後、「トムのところでの食事は本当の食べ物の味がする」とジェリーが満足げに言います。もっともな意見です。そして、トム作のクリスマスクラッカーを4人で引きます。

通常、クラッカーの中には薄い紙でできた王冠、小さいおもちゃ、ジョークや格言などが書かれた小さな紙などが入っています。トムが作ったクリスマス・ハットは新聞紙でできていました。王冠ではなく、ネルソンタイプかウェリントンタイプの形をしていました。(ネルソン提督はトラファルガーの戦いで有名で、ウェリントン公爵はナポレオン戦争での功績があり「長靴」の原型を作った人物)

マーゴは自分のクリスマス・ハットに不満を漏らします。なぜなら彼女の帽子は「デイリー・ミラー」紙(労働党寄り、一般的で広範な読者層)だったため、トムが「ごめん」と言って「テレグラフ」紙(主に中・上流階級やビジネスマンをターゲット)でできた帽子と取り替えます。

ジェリーとバーバラはトムが書いたジョーク(多分、大人向けのジョーク笑)を読んで笑っていますが、マーゴはそのジョークがよくわからない様子。彼女はまだ少し落ち込んでいたのか何をしてもノリが悪いようでした。

トムとマーゴがワインを取りにキッチンに行ったとき、トムは「これが僕たちのクリスマスで、君たちを招待したかったし楽しんでもらいたいとも思っている。これは君のやり方じゃないだろうけど、一緒に楽しみたいなら僕みたいに馬鹿なふりをすることだよ」とそっと忠告しました。マーゴは、家に帰りたくないから努力すると約束します。

ゲームを楽しんだ後、お腹が空いたので、みんなでキッチンでサンドイッチをわいわい作りながら「本当に楽しい」とジェリーが言います。そしてマーゴも「こんな楽しいクリスマスは初めて」と笑顔に。これだけでも感動的ですが、マーゴたちからトムたちに意外なプレゼントが用意されていました。

エリザベス女王の観覧

エリザベス女王陛下とエディンバラ公爵の前で収録が行われたこともあります。夫妻は「The Good Life」ともう1作品のどちらかを観覧する機会があり、「The Good Life」を選んだそうです。女王陛下たちは、ジュビリーロールスロイスでBBCに到着。建物に入ると、役員たちが並んで迎え、フェリシティ・ケンドールの当時5歳の息子が女王陛下に花束を渡しました。

女王陛下たちがスタジオに入ると観客席の全員が起立して迎えます。観客(BBCの幹部やスタッフだったそう)や、カメラスタッフまでもが正装だったのが印象的です。

収録は生放送の部分とあらかじめ録画した部分で構成されました。台詞の言い間違いやその他の理由で撮り直しの回数をできるだけ抑えられるように全員が緊張していたといいます。トム役のリチャード・ブライアーズが台詞を飛ばしてしまうことがあったので、スタッフはそれも心配していたようです。それでも数回の撮り直しで済み、女王陛下たちもそのミスを楽しんでいたとのことです。

ロールスロイスがBBCの敷地に入ってくるのを控室から見ていた出演者たちは「オーマイゴッド! 女王陛下だ! 私たちに会いに来てくれるなんて!」と喜んでいたといいます。

作中では、マーゴが「京都のヤシモトさん」という日本からの客が来る予定だと話します。そのため、トムたちはマーゴに依頼されて、日本の時代劇に登場するような硬くて高い枕を2つ作って持ってきます。

視聴方法など

「The Good Life」は、日本やイギリスのアマゾンで購入することができます。私が持っているDVDはイギリスのアマゾンで購入したもので、英語の字幕が収録されています。日本のアマゾンで購入すると比較的値段が高いようなので、イギリスのアマゾンから直接取り寄せたほうがお得になることが多いです。

自給自足に関する表現、家畜の世話に関する言い回し、近所付き合いや生活全般に関する表現が登場します。

おわりに

1970年代のコメディなので、登場人物の服装や部屋の内装にはノスタルジックな雰囲気がありますが、レトロな食器や家具はかえって新鮮に映ることもあります。前の職場でトムはプラスチック製品の設計をしており、70年代にはすでにプラスチックが日常生活に浸透していた時代でした。

「トム・グッド」と「ジェリー・リードベター」について:作中の台詞では、たびたび「ラットレース(rat race)」というフレーズが登場します。これを聞くと、アメリカのアニメ「トムとジェリー」を連想させます。猫のトムがネズミのジェリーをいつもドタバタと追いかけ回すあの作品です。1940年に登場したアニメであり1970年代には世界的によく知られていたはずです。そのため「トム」と「ジェリー」というネーミングは、ラットレースを示唆するものだったのかもしれません。

また、トムの苗字は「Good(善)」、ジェリーは「Leadbetter(よりよく導く者)」であり、そこにもある程度の意味を持たせているように思われます。

  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次