「In Her Shoes(イン・ハー・シューズ)」は、2005年のアメリカの映画。
原作は、ジェニファー・ウェイナー(Jennifer Weiner)が2002年に刊行した同名の小説「In Her Shoes」で、日本でも2005年に翻訳・刊行されています(「イン・ハー・シューズ」)。
「イン・ハー・シューズ」は、国際線の中で観てとても印象深かった映画です。飛行機の中で観た映画はいつも印象が薄く記憶に残らないことが多いのですが、この映画はもう一度改めて観たいと思い、DVDを手に入れて再度じっくり観直しました。
「In Her Shoes(イン・ハー・シューズ)」あらすじ

フィラデルフィアに住む姉妹、ローズ(トニ・コレット)とマギー(キャメロン・ディアス)は、正反対の性格の二人。
マギーは読字障害を抱え、派手なパーティーガールとして無責任な生活を送りながら父と継母の家に居候。一方、ローズは自己肯定感が低いものの堅実な弁護士で、マギーが問題を起こすたびに面倒を見ています。自由奔放なマギーは読字障害の影響もあるせいか安定した職に就けず、精神的にも経済的にも支えを求めて酒と男性に頼ります。その結果、継母に追い出され、ローズは渋々自分のアパートメントに住まわせることに。キャメロン・ディアスの容貌や声のトーンは、そんな不安定なマギーの人物像を的確に表していると思います。
ローズはマギーの職探しを手伝い、「今は若さと美貌で行けるかもしれないが年を取ればそうはいかない」と忠告します。そして、継母の娘のために部屋を空けるよう告げられたマギーは、腹いせに家中の小銭をポケットに詰め込んでいきます。父の机をあさって発見したのは、自分とローズ宛ての大量の未開封のバースデーカード。それは祖母からのもので何年分も溜まっており、カードの中にはすべて5ドル紙幣が入っていました。
一方、ローズは最近交際を始めた上司のジムとシカゴへ一緒に出張できると喜んでいたものの、当日の朝、ジムではなく、代わりに同僚のサイモン(マーク・フォイアスタイン)が同行することになりがっかりします。帰宅すれば部屋は散らかっており、マギーは新しい仕事先(そしてすでに辞めている)の犬まで連れて帰ってきている始末。さらにマギーのせいで、ローズの車にはホイールクランプが取り付けられて動かせない状態に。ローズは仕事をキャンセルせざるを得ず、もう手に負えないのでマギーに出て行くよう告げてタクシーで仕事に向かいます。
しぶしぶ荷造りをするマギー。スーツケースを持っておらず黒いゴミ袋に荷物を詰めている様子から整理整頓が苦手な性格なのは明らか。そこへ、シカゴに行けなかったことを詫びに来た(と思われる)ジムが訪ねてきて(嫌な予感・・・笑)、マギーの誘惑に乗ってしまいます。
もちろんそこに帰宅するローズ。ローズは激怒し「マギーはジムの名前さえ覚えていないだろう。だって文字を読むことも書くこともできない愚かな女だから!私の人生から出ていけ!」とののしり泣き叫んでマギーを追い出します。これまで面倒をみてきたのに、これはショック・・・。
フロリダと犬の散歩
マギーはニューヨーク行きの切符を買ったものの、父の机で見つけた自分宛てのカードの束を思い出し、行き先を祖母のエラ(シャーリー・マクレーン)の住むフロリダに変更します。エラと再会したマギーは休暇中だと伝え、エラの住居のゲストルームに居候することに。エラは高齢者向けの住宅施設で住み込みのサポートスタッフをしていました。
エラはバースデーカードを毎年送ったけど返事はなかったと言い、マギーは父がカードをずっと隠していたので祖父母のどちらもすでに亡くなっていたと思っていたと話します。
フロリダの青空の下、マギーがプールに向かうと、施設の年配男性たちはスタイル抜群のマギーにくぎ付けになり、プールサイドの席がすぐに埋まります笑。
一方、仕事を辞めたローズは、マギーが置いていった犬を散歩させていると、その犬を知っている人に声をかけられます。そのため最後にマギーが働いていたペットショップに犬を返しに行くと、店は感謝し謝礼を申し出ます(自分の妹が持ち出したのに笑)。ローズはそれよりも犬の散歩代行の顧客を紹介してもらうことにします。
心配して様子をうかがいにやってきた父にローズは「自分は大丈夫だし、一緒に住んでいるマギーも大丈夫だ」と嘘をつきます。しかし、マギーの携帯に電話するとすでに解約されていました。
変化し始める二人
マギーは父やローズの家でしていたように、エラの部屋に入り引き出しを開けてしまいます。そこに帰ってくるエラ。ニューヨークで女優を目指すため資金が必要だというマギーに、エラは高齢者コミュニティの介護付き施設で働けばその資金を出すと提案します。
働き始めたマギーが盲目の元英文学教授(ノーマン・ロイド)の病室に行くと、本の朗読を頼まれるものの、読字障害のせいもあり「忙しいから」と断ります。しかし、次に病室を訪れたときに再び頼まれ、断り切れず本を手にします。
元教授はマギーの読字障害をすぐに見抜き、自分はその専門だから心配することはなく、詩はゆっくり読むものだからと促します。そしてマギーはたどたどしく、アメリカの詩人エリザベス・ビショップの「One Art」を読み始めます。
読み終えてほっとした表情のマギーに、詩について質問を始める教授。マギーは最初は手短に答えるも、教授がさらに深掘りして質問をするので、考察しながら自分なりに回答します。満足した教授は「A+だ(日本でいう5以上)、君は賢いね」と評価。マギーは充実感を覚えます。他の日には、マギーはジェーン・ケニオンの詩「Let Evening Come」も朗読します。
ノーマン・ロイドはプロデューサーや監督として知られ、映画やテレビで80年以上活躍したアメリカの俳優です。アルフレッド・ヒッチコックやチャールズ・チャップリンと親しい関係がありました。
ローズは犬の散歩を通じて体力がついてきたのか、心身ともに健康になっていきます。ローズはシカゴへ一緒に出張した元同僚のサイモンに街中で会い、一緒の時間を過ごすようになり婚約することに。しかし、ローズはマギーのことは話したがらず、サイモンの両親に挨拶に行ったときも同様でした。サイモンが改めて質問しても、一度けんかしてから会っていないとしか言いません。
マギーのビジネス、フロリダに来たローズ
祖母エラの友人レフコウィッツ夫人が、息子の結婚式に着ていける服が見つからないと不満を漏らすと、マギーは買い物代行を申し出ます。夫人はマギーが調達した服をとても気に入り、ほかの年配女性たちからも同様の依頼を受けました。これはマギーの得意分野なのでビジネスにしてみたいけど、計算が苦手だとエラに打ち明けます。するとエラは財務面なら手伝えると申し出ます。ビジネスは軌道に乗り、マギーはすぐに予約でいっぱいになります。
一方、同僚の結婚式に招待されたローズとサイモン。会場でジムに会ったローズは、ジムのせいでマギーの居場所が分からず、婚約したことも伝えられていないこと、サイモンがマギーのことを嫌うだろうから話したくないと感情的に。そしてそこに現れるサイモン・・・。彼は、ローズが本心を明かせないならもう結婚できないと告げます。
エラはマギーのバッグからローズの住所を見つけ、ローズに手紙とフロリダ行きの航空券を送っていました。手紙を受け取り驚いたローズは、自分とマギーに祖母の件を隠していたことについて父を問い詰めます。父は母の精神疾患のこと、エラが薬を飲むよういっても母は応じずに子どもを持つことを選んだことを明かします。そして母の自殺について自分が責められたと語ります。
ローズは祖母に会うことを楽しみにフロリダを訪れますが、マギーが既に住んでいたことを知り苛立ちます。しかし三人で古いアルバムを見ながら、ローズたちの母が母が夜通しお菓子を作り、ローズたちを早朝に起こしてドレスを着せ車で出かけたこと、学校からの電話で父を慌てさせ、その後両親が口論になり父が母を精神病院に入れると忠告していたことが明らかに。
当時、ローズがマギーを部屋に送ったので、マギーは母の精神疾患、口論、そして二日後の母の自殺のことをまったく知らず。マギーはショックを受ただけでなく、エラ、父、ローズがそれそれの立場で苦しんだことを知ります。そして二人は和解し、ローズは婚約を解消したことも打ち明けます。
ある日、マギーが元教授の部屋を訪れると病室は空になっており、教授が亡くなったことを知らされます。教授の孫がやってきて「祖父はマギーのことを話していた」と語ると、マギーは笑顔を見せます。彼女の人生が少しずつ方向を変え始めていることが分かります。
それぞれの人生に進む二人
コミュニティパーティーの日、マギーのスタイリングのおかげなのか、フロアの年配女性たちのファッションが皆素敵に見えます。レフコウィッツ夫人のファッションは、ブルーグレーのゆったりしたスーツに同系色のスカーフとジュエリーが映えてとても品があっておしゃれです。
そこにやってくるサイモン。ローズが持っているカクテルを見て、「お酒を飲んでも大丈夫なの?」となぜが尋ねます。マギーはコニュニティの年配女性たちの助言により、ローズが妊娠したと伝えて呼び出したのです。もちろんローズとサイモンは和解し、サイモンがマギーを嫌うこともなく、結婚式は続行することに。
結婚式の日には、エラとローズの父は長い年月を経て和解します。マギーはプログラムにはない結婚祝いとして、E.E.カミングスの「I carry your heart with me」を朗読したいと申し出ます。ローズは心配そうな表情を見せていましたが、マギーが詩を読み進めるうちに涙目に。
この詩は「あなたの心は常に私の中にある」と語り、愛が自分の存在や世界と深く結びついていることを伝えています。読字障害がある彼女が朗読することで自己表現や理解力の向上、精神的な自立に向けた一歩を踏み出しているとも解釈できるのではないかと思います。家族の絆を再構築し、それぞれの人生を歩み始めていくのです。
ローズとサイモンを見送るマギーは、とても落ち着いていて穏やかな雰囲気なのがとても印象的です。
おわりに
マギーの成長を支えてくれた祖母エラや元教授の存在は大きかったと思います。元教授のレッスンのシーンは特に印象的でした。登場した詩も素敵だったので自分でも入手して読んでみました。
キャメロン・ディアスは声も可愛らしく、はにかんだ後のビッグスマイルがとても魅力的です。スタイルが抜群なのは言うまでもありません。彼女はマギー役の軽薄さと脆さを巧みに演じ分けており、批評家からは「驚くほど説得力のある演技」と評価されたそうです。
友情や人生をテーマにした洋画が好きなため、「イン・ハー・シューズ」は特にお気に入りの映画の一つです。ラブストーリーは何度も観ることはありませんが、家族愛や友情がテーマのものは繰り返し楽しむことが多いです。