「North and South(北と南)」は、2004年にイギリスBBCで放送されたドラマ。
ヴィクトリア時代の小説家エリザベス・ギャスケルによる原作。ギャスケルは他に「Cranford(クランフォード)」「Wives and Daughters(妻たちと娘たち)」などの作品でも知られています。
1850年代のヴィクトリア時代。産業革命が本格化し、北部と南部の社会的対立が顕著になった頃。イギリス南部で牧師の娘として育ったマーガレットが、北部の工業都市の煙と騒音に満ちた環境の中で厳格な綿工場主ジョン・ソーントンと出会います。階級の違いや綿織物産業の隆盛と労働者階級の苦難を知り、ソーントン氏の人間性を理解していく姿が描かれます。
音楽もドラマチックで素晴らしく、また、ソーントン氏を演じるリチャード・アーミティッジは存在感があり、ほとんど笑わないのにとても素敵笑。
出演は、ダニエラ・デンビー=アッシュ、リチャード・アーミティッジ、ティム・ピゴット=スミス、レスリー・マンヴィル、シニード・キューザック、ブレンダン・コイル、アンナ・マクスウェル・マーティン、ブライアン・プロセロー。
画像のオープニングタイトルの背景は、マーガレットと両親、そしてハウスメイドのディクソンが北へ向かう途中の田園風景。エピソード中、マーガレットは何度か電車で移動しますが、そのたびに彼女の心理状態が違うことが見て取れるのが面白いです。(画像は引用目的で使用しています)
North & South(北と南)あらすじ
イギリス南部ヘルストンに住むマーガレット(ダニエラ・デンビー=アッシュ)は、父ヘイル牧師(ティム・ピゴット=スミス)と母マリア(レスリー・マンヴィル)と牧師館に暮らしています。庭には天国のように花が咲き誇り、彼女はヘルストンが世界で一番の場所だといいます(ヘルストンは架空の場所)。
当時の女性ははっきり意見を述べることが一般的ではなく、その中でもマーガレットは率直に意見を言うタイプ。従妹の結婚式で、従妹の義理の弟ヘンリーに結婚について話したところ、それをほのめかしと受け取られプロポーズされます。マーガレットは驚いて断りますが、レノックス氏は悪い人ではないので少し気の毒です。
この頃は結婚や愛情表現に関する暗黙の文化があっただろうし、移動や通信も限られていたため、地域ごとにそのマナーはさまざまだだったと思います。
ヘイル牧師の教会離脱により、一家は北部工業都市ミルトンに引っ越すことに。ヘイル牧師の良心や信仰上の疑念から英国国教会の信条の再確認を拒否したのが原因で、ギャスケル自身がユニテリアンだった影響が指摘されています。牧師職は安定した中産階級の職業なので、辞任は家族の生活基盤を失う大きな決断でした。
ハウスメイドのディクソン(ポーリン・クィーク)とともに北へ向かう電車の中、母マリアとディクソンは「北はひどい場所で、人々も違うだろう」と悲観します。マリア役のレスリー・マンヴィルは「クランフォード」のローズ夫人そのもので、二つのキャラクターもよく似ています。
到着したミルトンは暗くすすけた世界。ショックを隠せないマリアとは対照的に、マーガレットは、、悲観もせず物おじもせず、借りる予定の家を一人で見に行きます。通りでは野菜や肉が販売されており、思わずその匂いに鼻をふさぐマーガレット。ヘルストンの花が咲き乱れる明るい景色とは対照的なのです。
家主のソーントン氏に家賃のことを直接聞きにいくマーガレット。ソーントン氏の経営する綿工場で彼女が見たのは、工場内にずらりと並ぶ綿織機と雪のように舞う綿ぼこりの白い世界でした。彼女は思わずせき込み、従業員の中にも咳をする人がいます。ここでソーントン氏(リチャード・アーミティッジ)が登場。ほとんど笑いません(それがかえってかっこいい笑)。マーガレットと話すこともなく、彼は工場内で喫煙しようとした従業員を殴って解雇します。マーガレットは、ソーントン氏は冷酷で非情な人物だという第一印象を持ちます。
突然南からやって来たヘイル家についてゴシップが流れており、マーガレットと母が懸念を示すと、ヘイル牧師が初めて教会を離れた理由を明らかにします。これからどう生きていくのかと悲観するマリアに、教師としてやっていけるだろうというヘイル牧師。マリアは北の人々が学びや文化に関心を持つとは思えず、「ここには金と煙しかない」と訴えるのです。
ソーントン氏は、ヘイル牧師のプライベートレッスンを受けるため、しばしばヘイル家を訪れます。ソーントン氏と会うたびに批判的な意見を表すマーガレット。家主のソーントン氏に対して喧々としているので一家そろって追い出されるのではとヒヤヒヤしてしまいます笑。
従業員を殴って解雇した件について、ソーントン氏は過去に似た工場がわずか20分で全焼した例があり、その経験から厳しくせざるを得ないこと、さらに自分ももともと裕福な出身ではないことを説明します。立場は違えど友好的に別れようと握手を求めますが、マーガレットは手を差し出しません。
マーガレットはヘイル牧師に、ロンドンではそのような習慣がなく戸惑ったと話します。そして、ソーントン氏の父が投機の失敗で自死し、彼が家族を一から支えたこと、そして債権者が諦めた後も返済を律儀に続けてきたことをヘイル牧師から聞くのです。ソーントン氏はいつでも堅実に事業を行い、投機には安易に手を出しません。また、従業員が健康であれば長く働けるというのが理由ではあるものの、彼らが綿ぼこりを吸い込まないよう設備投資もしています。
マーガレットは工場で働くベッシー(アンナ・マクスウェル・マーティン)とその父ニコラス・ヒギンス(ブレンダン・コイル)と親しくなります。幼いころから工場で働いていたベッシーは綿ぼこりのせいで肺の病気を患っていました。ヒギンス氏も「ソーントン氏が従業員を殴ったのは仕方ない、さもないと皆が大変なことになるから」といいます。ブレンダン・コイルは「ダウントン・アビー」でジョン・ベイツ役。脚本のジュリアン・フェローズは彼のためにこの役を書いたそうです。
ある日、マーガレットはヒギンス氏が他の工場労働者と集会を開き、ストライキを計画していることを知ります。ソーントン氏を含む他の工場主たちもその動きを予期していました。
ソーントン氏の妹は、金があることをよくほのめかす苦労知らずなタイプ。母のソーントン夫人(シニード・キューザック)は、ミルトンという土地やその産業、そして息子をたいそう誇りに思っています。「ミルトン中の女性はみんな息子と結婚したがっている」と誇らしげに話す夫人に、「そんなことはないでしょう」と答えるマーガレット。当然ながら夫人からよく思われません。
マーガレットは、ミルトンを冷たく、衝突が多く、不親切で、神に見放された土地だといいます。「地獄」とは雪のように白いと感じるのです。
第2話のオープニング。まるで吹雪です。これでもこの工場では、綿ボコリ対策の装置があったそうですが・・・

労働者たちの窮状
工場での環境は厳しく、小さい子供でさえ機械の下にたまった綿ボコりをかき集める仕事をしたり、修理が終わった機械ですぐに作業をするよう指示されたりします。病気の子どもを家に送る母は、別の子供を家から連れてくるよう言われます。さもないと母子ともに仕事がなくなるからです。
ヒギンズ氏率いる労働者たちは賃上げを求めるストライキの計画を進め、金曜の夜、労働者たちはいっせいに機械の電源を切り帰宅します。ストライキは長引き、労働者の家族は飢えて苦しむことに。マーガレットは少しでも力になろうと、子供が6人いるバウチャーの家の前に食べるものを届けます。
しかし、ソーントン氏がアイルランドの労働者を雇って工場を再稼働させたことで、労働者たちの反発が高まります。工場の門を破って押し寄せた労働者たちはソーントン氏と対峙。ちょうどその場に居合わせたマーガレットは、彼を止めようと外へ飛び出し、労働者たちをなだめようとします。しかしバウチャーがストライキの約束に反して石を投げ、マーガレットの頭を直撃します。
この出来事の後、ソーントン氏はマーガレットへの思いを告白し結婚を申し込みますが、マーガレットは拒絶します・・・。
別れと誤解が続く
ソーントン氏宅の前での一件をきっかけに、ストライキは終わります。マーガレットがソーントン氏のプロポーズを拒絶したことを知り、ソーントン夫人はマーガレットに対する嫌悪の念をさらに強めます。
北部の生活に馴染めないマーガレットの母の容態は悪化し、長年国外にいるマーガレットの兄のフレデリック(ルパート・エヴァンス)に会いたいと願います。船員であるフレデリックは、他の船員の一部とともにあらぬ罪を着せられて逃亡中であり、懸賞金までかけられていました。危険とは知りつつ、マーガレットは母のためにフレデリックへ手紙を書いてみることに。
残念なことにベッシーが亡くなります。ヘイル牧師は信仰と貧困について語りますが、ヒギンズ氏は信仰よりも労働者の苦しみを訴えます。ヒギンズ氏は、訪ねてきたバウチャーに対し、ストライキの話し合いで暴力を禁じていたのにそれを破ったことを責めます。ほどくして、バウチャーもなくなり、数日後にその妻もなくなり、彼の6人の子供たちは孤児となります。
ロンドンの博覧会(1851年の万国博覧会(Great Exhibition))へ出かけたマーガレット。ソーントン氏も来ていたことを知ります。マーガレットは、ロンドンの社交界の人々が展示された産業を「見世物」として楽しみ、北部の工業化を軽く見る態度、北部の労働者を見下すような発言をするのを感じ取ります。一方で、ソーントン氏の堅実さ、彼の博識ぶりやストライキに対する理解を知ります。彼の妹は、ソーントン氏を社交界に引き合わせるつもりが、彼の真面目で不器用な性格に諦めた様子。
その後、フレデリックが密かに帰郷し、母マリアの願いを叶えますが、マリアは息を引き取ります。悲しみに暮れる中、フレデリックを懸賞金目当てで追う男が街に現れたことを知り、マーガレットたちは彼を葬式前に逃がすことに。夜遅くの駅でフレデリックを抱きしめて見送るマーガレット。そんなときに限ってソーントン氏に目撃されてしまい、また、例の男も近寄ってきます。フレデリックともみあいになった男は、階段から落下して去っていきます。
後日、警察から男が死亡したとの知らせが届き、駅でマーガレットを見かけたという証言も出てきます。判事の職にも就くソーントン氏はこの事件を知り、捜査は打ち切られます。
マーガレットは、ソーントン氏にお礼を伝えるものの、一緒にいた男性については説明できないとつけ加えます。兄の身を危険にさらせないので仕方がありませんが、ここまでしてくれたソーントン氏が少し不憫です・・・。彼は、ヘイル牧師が友人であるためにした配慮であり、マーガレットのためではないと厳しい表情で立ち去ります。(ソーントン氏は工場長として紡績工場を管理しつつ、必要に応じて判事として裁判所での職務も行っていたのです)。
綿工場の危機
ヒギンズ氏はバウチャーの孤児たちを引き取ることになり、子供たちのためにも職探しを急ぎます。ソーントン氏との面会を断られたと聞いたマーガレットは、「彼は話を聞いてくれる人だから、もう一度試して」と促します。案の定、ヒギンズ氏は拒絶されますが、後日、ソーントン氏がヒギンズ氏の家を訪ねると、彼がバウチャーの孤児たちを引き取って世話をしていることを知ります。そして再雇用を決め、二人の間には次第に信頼関係が生まれます。
やがて二人は工場での労働環境や労働者の食事について話し合うようになり、ソーントン氏は工場の裏に食堂を設けます。労働者が空腹で作業をすることがないようにという配慮です。ヒギンズ氏の娘(ベッシーの妹)が調理を担当し、その料理の腕前にソーントン氏は感心します。彼は決して冷酷な人物ではないのです。
一方、その母のソーントン夫人は、生前のマーガレットの母から「必要なときは娘に助言してほしい」と頼まれていたため、マーガレットに苦言を呈します。それは、マーガレットが夜に外出していた件(兄を見送ったとき)についてでした。マーガレットには正当な理由があり、聞き入れられないという態度。若い女性が夜遅くに男性と行動することを懸念する夫人の気持ちも、マーガレットの立場も理解できますが、夫人からすれば「南から来た若い娘が何を生意気な」と思えたことでしょう。
マーガレットはようやくヘイル牧師に、ソーントン氏の求婚を断ったことを打ち明けます。牧師はマリアの死以来、元気を失っている様子。北の人々の厳しい生活や信仰心の違いを目の当たりにしたことも影響しているようでした。彼は旧友ベル氏(ブライアン・プロセロー)を訪ねるためにオックスフォードへ旅立ち、自分が亡くなったときはマーガレットを気にかけてほしいと頼みます。そしてその旅の最中に亡くなってしまいます。
両親を失ったマーガレットはミルトンを離れ、叔母と従姉が暮らすロンドンに滞在します。やがてベル氏が訪ねてきて、二人でヘルストンを訪れますが、そこはかつてマーガレットが「世界で一番美しい」と感じていた場所ではありませんでした。花も咲き乱れていませんでした。
一方、ソーントン氏の綿工場は倒産寸前に陥ります。ワトソン氏と結婚した妹のファニーは、ワトソン氏のように兄も投機をすべきだといら立ちます。しかし、投機で父やすべてを失ったソーントン氏は、従来通り堅実に事業を行うことを主張しますが、後日、ワトソン氏の投機は何十倍ものリターンが返ってきたことが判明。ソーントン氏がその話に乗っていたら、工場の倒産を避けられただろうという状況だったのです・・・。
ネタバレせずにここまでで・・・。
おわりに
二人の間の重なる誤解や、北部工業都市ミルトンでの繁栄と労働者の苦境、北部と南部のマナーの違い、階級の対立など、とても興味深い内容です。ただ、マーガレットのその後の様子についてももっと知れたらよかったのにと思いました。フレデリックをかばったディクソンも呼び戻して再雇用してほしいところです笑。
エリザベス・ギャスケルの「北と南」を面白いと感じる人は「クランフォード」も楽しめると思います。こちらはカーター氏が必見です笑。
それにしても、リチャード・アーミティッジのソーントン氏役がとても素敵。「The Vicar of Dibley」ではハンサムな隣人役、「Oceans8」ではチャラい美術商の役でしたが、笑わない方がかっこいいと思ってしまいました笑。




