The Lost King(ロスト・キング 500年越しの運命)リチャード三世の遺骨を探す

「The Lost King(ロスト・キング 500年越しの運命)」は、2022年公開のイギリス映画。

リチャード3世の遺骨を捜索した女性フィリッパ・ラングレーの取り組みや、王の遺骨がイギリス・レスター市の駐車場の地下に眠っていたという衝撃的な事実、さらに発見後のレスター大学の主張などを描いた実話に基づく映画です。原作は、フィリッパ・ラングレーとマイケル・ジョーンズによる2013年の著書「The King’s Grave: The Search for Richard III」。

キャストは、サリー・ホーキンス、スティーブ・クーガン、ハリー・ロイド、マーク・アディ、ジェームズ・フリート、リー・イングルビーなど。

監督のスティーブン・フリアーズは「危険な関係」「クィーン」「あなたを抱きしめる日まで」「英国スキャンダル」などで知られています。脚本はスティーブ・クーガンとジェフ・ポープ:スティーブ・クーガンはフィリッパの夫ジョン役としても出演。イギリスのシットコム「Alan Partridge」シリーズでよく知られ、「あなたを抱きしめる日まで」では共同脚本・製作・主演を務めました。

オープニングタイトルの背景は、古地図風に描かれた「レスター市中心部の地図」で、リチャード3世が埋葬されたとされる「グレイフライアーズ修道院」の跡地や、その周辺の通りを示した図案に近い構成。映画のテーマ「失われた王の墓の探索」を象徴していると思います。(画像は引用目的で使用しています)

サリー・ホーキンス、スティーブ・クーガン、ハリー・ロイド、マーク・アディ、リー・イングルビー、ジェームズ・フリート
目次

The Lost King(ロスト・キング)あらすじ

エジンバラ在住の、筋萎縮性脳脊髄炎(ME)を患うフィリッパ・ラングリー(サリー・ホーキンス)は、職場で年齢や体力の問題を示唆され、昇進が叶わず。不満を抱えて帰宅すると、元夫のジョン(スティーヴ・クーガン)が夕食の支度をしています。くれていた元夫のジョンがいます。元夫なのに優しいですねー。夕方、フィリッパは子どもを連れて劇場で「リチャード三世」を観にいく予定でした。

幕間の子どもの友人の親との会話で、彼らがシェイクスピアの描写どおり、リチャード三世が「せむし」で「子ども殺し」の「王位簒奪者」という否定的な人物像を持っていることに疑問を抱くフィリッパ。シェイクスピア劇が史実から100年以上後に書かれている点から、実在のリチャード三世の人物像よりも、強く脚色されている可能性があるのではないかと考え始めます。彼女は図書館で大量の資料を借り、古書や古地図などを調べるうちに、広く知られているリチャード三世の「悪者像」は、誇張や後世の政治的操作によって作られたものではないかという思いを強めていきます。それにしてもエジンバラ城や市内の景色が美しいです。

舞台でリチャード三世を演じていた役者(ハリー・ロイド)は、その後、フィリッパの「リチャード三世の幻影」として現れます。(ハリー・ロイドはチャールズ・ディケンズの玄孫にあたるそうです)彼は庭のベンチに座っていたり、家の中でフィリッパの話を聞いたり、電車に一緒に乗ったりします笑。

フィリッパはリチャード三世ソサイエティ(エジンバラ支部)に参加。メンバーはチューダー朝による歴史操作を問題視しており、その考えに共感したフィリッパは入会を決めます。そこで知ったのは、リチャード三世の墓は現存せず、埋葬地が分かっていないこと。
フィリッパは仕事へ行かなくなり、知人との連絡も絶ち、独自の調査に没頭していきます。

リチャード三世に詳しい人々とビデオ通話で意見を交わす中、重要人物は教会内の特定の場所に埋葬されることが多いという理由から、墓は聖歌隊席の下ではないかという見解に行き当たります。画面越しのグラハム・ネイスミス氏はリチャード三世をリスペクトしており、髪型もそっくり笑。

彼の話によると、ボズワースの戦いで敗れたリチャード三世の遺体は公開展示された後、レスターにある小さなグレイフライアーズ修道院に修道士たちによって運ばれ、急いで埋葬されました。その後のヘンリー八世による宗教改革により(修道院解散)、当時レスター市長だったロバート・ヘリックの邸宅になったということ。敷地内にリチャード三世を埋葬したという記録があり、その地図が市の公文書館のどこかに保管されているといいます。

プランタジネット朝最後の国王リチャード三世が敗れたボズワース。
近くにレスター、ノッティンガム、ダービー、バーミンガム、コヴェントリーがあります。

専門家に嘲笑され資金調達

ジョンはフィリッパが無断欠勤していることを知り苦言を呈します。しかし疑問を抱きつつも彼女の話を聞いたり、フィリッパに頼まれれば自分のフラット(アパートメント)を解約して家に戻ってきたりとかなり協力的。

フィリッパは講演にを聴くためにレスターへ赴くと、そこではリチャード三世が悪者として語られます。フィリッパが異論を述べると、講師は研究者は証拠に基づいて調査をしているので、フィリッパのようなファンクラブからの意見は聞く価値がないと嘲笑します。

フィリッパは、講演に来ていた歴史研究者のアッシュダウン=ヒルに話しかけ、彼がリチャード三世の姉妹の子孫のDNA特定を進めていることを知ります。フィリッパが修道院跡地の特定のための助言を求めると、修道院跡地のような神聖な場所は、何かが建てられることが少ないため、空き地として残った可能性があると教えられます。そしてレスターの街を歩くフィリッパは、とある駐車場で強く惹かれる感覚を持ちます。

フィリッパと面会した考古学者リチャード・バックリー氏は、当初は彼女の話だけを聞いて断るつもりでした。フィリッパはおかしなことを言っていると思っていたはず。しかし、彼の部署は大学からの資金が打ち切られ、外部案件を受ける必要が出てきたため、再度フィリッパと会うことに。二度目の会合で、彼らは古い地図(ヘリック地図)と現代地図を重ねる作業を行い、フィリッパが訪れた駐車場が修道院跡地である能性が高いと分かります。バックリー氏は「教会跡を探す」という名目であれば協力できるというので、フィリッパは資金を集めることに。

レスター市議会との会合では、大学側の担当者は費用の多さや不確実性を強く懸念し、フィリッパを「素人で感情的」と大学の評判を気にして否定的な態度を取ります。フィリッパはDNA照合が可能であると説明して、計画は承認されて満額の資金提供が決まることに。会合にいた女性担当者は「感情で話すと攻撃材料にされる」と助言します。大学側の男性たちは表向きは協力に回りますが、裏では彼女の計画を嘲笑しています。たいていはそうなりますよね・・・。

その後、現場でのレーダー調査で何も検出されなかったため、計画が頓挫する懸念が強まってしまいます。フィリッパは、リカーディアン(リチャード三世協会)に訴えてクラウドファンディングを開始。多くの国から寄付が集まり目標額に到達するのです。しかも夫のジョンは車を売却し匿名で寄付していました。

大学の主張

しかし発掘が始まると、大学側が自分たちを主導者としてメディアに紹介し始めたため、フィリッパは反発します。当然ですよね・・・。

発掘作業で、まず足だけの遺骨が見つかります。バックリー氏率いる学術チームは重要性が低いと判断。さらに壁跡の影が見つかり、教会位置の推定も進みます。バックリー氏たちは別の場所に重点を置く判断をしますが、フィリッパは最初に見つかった遺骨を重要視します。バックリー氏は予算不足を理由に追加掘削を拒否しますが、フィリッパは残額を自費で支出するので最初に見つかった遺骨の完全な発掘を要求します。

バックリー氏は渋々承諾し、部下に最初の遺骨の掘り出しを指示して、なんと帰宅してしまいます。

ネタバレせずにここまでで・・・。

おわりに

ラストでのリチャード三世は、自分が悪人として描かれてきたことや大学側がとった主張について特に気にしていない様子。500年も経つと取るに足らない些細なことなのかもしれません。

Richard III: The King in the Carpark + Richard III: The Unseen Story」というDVDには、リチャード三世の発見に関するオリジナルのドキュメンタリーが収録されています。

2015年、フィリッパ・ラングレーは、遺骨の発掘と身元確認における功績を称えられ、エリザベス女王から大英帝国勲章(MBE)が授与されました。また同年、リチャード三世の遺骨はレスター大聖堂に「再埋葬式(Service of Reinterment)」が執り行われ、多くの来賓、聖職者、関係者が出席しました。

再埋葬式には、Plantagenet Allianceというリチャード三世の遠縁の子孫を中心とした団体が、埋葬場所として「ヨーク大聖堂(York Minster)」で行われるべきだと主張したそうです。リチャード三世は「Richard of York(ヨークのリチャード)」として知られ、北部イングランドとヨークにゆかりがあることが理由です。しかしバックリー氏が所属していたレスター大学考古学サービスによる発掘許可証に基づき、遺骨の再埋葬先はレスター大聖堂(Leicester Cathedral)に定められました。

また、レスター大学のリチャード・テイラー氏は、映画で表現されたようなキャラクターではないとして名誉棄損で裁判を起こし、和解として多額の謝罪金を受け取りました。スティーブ・クーガンは、この件について公開で討論しても構わないと述べています。

私は原作を読んでいないため何とも言えませんが、制作側はリサーチを行い、フィリッパ本人からも話を聞いたはず。彼女の研究に懐疑的だったのに、遺体発見となると権力者たちが権力を握り、すべての功績を自分のものにしようとする。フィリッパは発見者として認められず、プレゼンテーションや授賞式にも一切参加できず・・・。当時のさまざまなテレビ映像から、彼女が背景に追いやられ他の人々が前に出て発言していたという声もあることから、あながち事実なのではと思ってしまいます。組織とはそういうものなのでは。

バックリー氏を演じたマーク・アディは、イギリス映画「フルモンティ」やイギリスのシットコム「The Thin Blue Line」に出演しています。アッシュダウン=ヒルを演じたジェームス・フリートは、「The Vicar of Dibley」のヒューゴ役です。

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