「Ladies in Lavender(ラヴェンダーの咲く庭で)」は、チャールズ・ダンスの脚本・監督による2004年のイギリス映画。ウィリアム・J・ロックの1908年の短編小説を原作としています。
出演はイギリスの名女優ジュディ・デンチとマギー・スミス。テーマの一つである「老いらくの恋」を切なく愛らしく描いています。
ストーリーも素敵ですが、劇中のバイオリン演奏も注目です。演奏はすべて世界的ヴァイオリニストのジョシュア・ベル(Joshua Bell)が担当。テーマ曲「Ladies in Lavender」はナイジェル・ヘス(Nigel Hess)作曲です。YouTubeで「Ladies in Lavender Joshua Bell」と検索すると、関連動画が多数見つかりますので、ぜひ聴いてみてください。
オープニングタイトルの背景には、美しいコーンウォールの海岸と、そこで穏やかに暮らす姉妹の散歩風景が映し出されます。これは物語のラストで登場する印象的なシーンでもあります。(画像は引用目的で使用しています。)
「Ladies in Lavender」のあらすじと感想
1930年代。コーンウォールの美しい海岸近くに暮らす初老の姉妹、ジャネット(マギー・スミス)とアーシュラ(ジュディ・デンチ)。海の美しさはもちろん、彼女たちの家や庭も趣がありとても素敵です(月明かりに照らされた海辺の家も幻想的)。海辺を毎日散歩できる暮らしは心地よく健康的です。
ある嵐の翌朝、アーシュラが浜辺に誰かが打ち上げられているのを発見します。ジャネットと二人で駆け寄ってみると、倒れていた青年(ダニエル・ブリュール)はかすかに息をしています。地元の漁師ペンドレッド氏がストレッチャーを持って駆けつけますが、昨夜の船の遭難に関するニュースは耳にしていないといいます。姉妹とハウスキーパーのドーカスは、しばらく彼の世話をすることにしました。
この青年の存在は姉妹の穏やかな日常を乱すことに。というのも、アーシュラがこの青年に恋心を抱いてしまうのです。
濃いキャラクターのドーカスを演じるミリアム・マーゴリーズは、非常に芸達者な女優です。イギリスのシットコム「ブラックアダー」では、狂気的なスペイン王女、厳格なピューリタンの叔母、そして滑稽で大げさなビクトリア女王を演じました。どのキャラクターも際立っており、彼女はそれぞれを表情豊かに演じてしまうのが素晴らしいです。
ポーランド人の音楽家?
訪問したミード医師によると、青年はしばらくの安静が必要だといいます。医師たちが部屋から出ると、アーシュラは部屋に残り彼を見つめます。もう心惹かれていたようです笑。
青年は英語を理解しなかったので、フランス語やドイツ語でたどたどしく話しかけると、ドイツ語は知っている様子。ジャネットが辞書を頼りに、彼は「ポーランド出身」で名前は「アンドレア」だと分かります。
アーシュラはアンドレアに簡単な英単語を教え始めます。私はジュディ・デンチの声や話し方が好きなので、彼女に英語を教えてもらえるなんて・・・幸運ですね笑。
ジャネットは、アーシュラが甲斐甲斐しくアンドレアの世話をしていることに気づきます。「あなたの行動は普段と違う」と指摘すると、アーシュラは少しいら立ちます。
ある日、ジャネットのピアノの演奏にアンドレアは不満を述べます。彼は音楽は好きだけど、ピアノよりバイオリンの方がいいというのです。そこで、バイオリンを持っている村のアダムを呼ぶことに。アダムが「The Carnival of Venice(ヴェネツィアのカーニバル)」をぎこちなく弾きます。その間、苦笑いしながらもじもじしていたアンドレアは、バイオリンを借りて同じ曲を装飾音をつけて見事に演奏しました。
さっきと同じバイオリンなの?と思ってしまうほどです(が、もしからしたらアダムバージョンもジョシュア・ベルが演奏しているかもしれない笑)。
彼が次に「Ladies in Lavender」を奏でると、その美しい演奏にアーシュラの目はウルウル(もう虜笑)。演奏はジョシュア・ベルなので素晴らしいのはもちろんですが、本当にアンドレアが弾いているのかのようです。
すると外でその演奏を聞いていた美しい女性オルガがアンドレアを気に入ります。画家の彼女はコーンウォールの景色や働く人々を描いていました。
ドーカスが、アンドレアは彼女の「パスティ(pasty)」が好きかしらと尋ねると、アーシュラは「好きみたいよ」と答えます。コーンウォールなので、おそらくコーニッシュパスティのことかと。これはとても美味しいです。
また、ジャネットに頼まれてドーカスはイワシを買いに歩き回ります。その日のメニューは「スターゲイジーパイ(Stargazy pie)」。これはイワシの頭がパイから飛び出している料理で、一部の日本人はその見た目を笑っていますが、れっきとした郷土料理です。私も食べたことがありますけど普通に美味しいですよ。
ドーカスは、動けるようになったアンドレアにジャガイモの皮むきを手伝わせます。彼は、皮と中身を入れる袋を間違えてドーカスに叱られたり、「ジャガイモはspudsとも言うんだよ」と教えられたりします。アンドレアはポーランド語で「あなたはジャガイモみたい・・・というか、ジャガイモの袋みたいだ」と、なかなかひどい冗談を言います笑。
芸術家のオルガ
アンドレアは、自分がヴァイオリニストだったことや、アメリカ行きの船が難破したことを徐々に思い出します。アダムから借りたバイオリンを持って、彼は村の収穫祭へ出かけます。ほろ酔い気分でステージで演奏を始めると会場は盛り上がります。その場にいた画家のオルガがドイツ語で話しかけます。
ある日、アンドレアが庭で「タイスの瞑想曲」を披露し、姉妹とドーカスが聞き入っていると、オルガが現れて自己紹介をします。しかし姉妹の態度はよそよそしい・・・。オルガがアンドレアに別れのキスをして立ち去ると、彼女を目で追うアンドレア。そのときのアーシュラの表情が険しいのです・・・。
オルガは姉妹に手紙を送ります。彼女の兄は有名なヴァイオリニストで、アンドレアの才能が際立っているので彼について知りたいといいます。ジャネットがアンドレアにオルガの兄の名前を言及してみると、彼は「神のような存在で巨匠」と答えます。アンドレアは海の向こうのアメリカの方角を見つめながら、自分の人生はあの方角にあると語ります。
残念なことに、姉妹はオルガの手紙のことをアンドレアに話さないのです。それどころか、ジャネットはその手紙を燃やしてしまいます。アンドレアがただの若者ではなく天才で、住む世界も異なることはうすうす分かっていたでしょうに・・・。
一方、アンドレアは海岸へ行って、漁師たちにアメリカ行きの船があるか尋ねて回ります。しかし浜辺のボートは漁をするためのものだと笑われます。彼を見つけたオルガが自分のコテージに誘います。アンドレアはそこで手紙の件を知り苛立ちを見せます。しかしオルガは気にすることではないし、それよりも彼の絵を描きたいと申し出ます。
アンドレアのベットの横に立ち、彼の寝顔を見つめるアーシュラ。我に返って自室に戻ったものの、アンドレアは気づいています・・・。ジャネットは亡き夫との楽しい経験がある一方、時代のせいもあり、恋愛経験がほとんどなく年を重ねたアーシュラは気持ちをうまくコントロールできないようです。
アンドレアはある日、どうしてオルガの兄の件を黙っていたのかと姉妹に詰め寄ります。アーシュラが一人海岸に座って反省していると、アンドレアが謝りにきます。アーシュラは「あなたのせいじゃない」と応えますが・・・その通りですよね。アーシュラは手放さないといけない・・・。
兄からの返信
第二次世界大戦の気配が強まる中、ドイツ軍への不信感も高まっていました。オルガに好意を寄せていたミード医師は、彼女の家を訪れるアンドレアに、嫉妬心からか、アンドレアがドイツ軍のスパイではないかと通報します。それを聞いたアーシュラは「オルガこそドイツ語を話すじゃないか」と指摘します。
オルガの兄から重要な手紙が届いたので、彼女のコテージに来るよう言われたアンドレア。彼女の家に着くと、彼女は荷造りを終えていました。彼女の兄が短い滞在時間でロンドンに来る予定なので、すぐに一緒に出発しよう、というのです。アンドレアは姉妹に何も伝えていないことを心配しますが、オルガは「手紙で知らせればいいこと」だし、そんなことよりもとても重要だと告げるのです。
夕食に戻らなかったアンドレア。ペンドレッド氏に電話をしてみると、彼はオルガとロンドン行きの列車に乗ったことを知らされます。少女のように泣くアーシュラと、彼女をただ抱きしめるしかないジャネット。彼が去った後の姉妹は心の整理がつかないようです。
しばらくしてロンドンから小包が届きます。中にはアンドレアからの手紙とオルガが描いた彼の絵が入っていました。
ネタバレせずにここまでにしておきますね・・・。
おわりに
個人的な感想ですが、オルガとアンドレアはこのような形で去るのが正解だったのかなと思います。さもなければアーシュラの感情や行動がさらに過剰になっていたかもしれないし、ミード医師のこともあり、オルガは田舎の狭苦しい人間関係に辟易していたのではと察します。オルガは、アンドレアの才能が正しい方向へ進むよう手助けしただけだし、本来アメリカ行きを目指していたアンドレアが、偶然たどり着いた場所に長く留まらなければならない理由もないのです。
それにしても、マギー・スミス、ジュディ・デンチ、ミリアム・マーゴリーズの演技はとても良かったと思います。




