ハロウィンの月です。ハロウィンといえばカボチャが有名ですが、イギリスではリンゴも関わっています。「リンゴ占い(apple bobbing)」や甘い「トフィーアップル(toffee apple)」は、子どもたちにも人気の伝統です。
また、よく知られていることわざ「An apple a day keeps the doctor away(1日1個のリンゴで医者いらず)」はイギリスが由来だそうです。シェイクスピアの作品「夏の夜の夢」や「ヘンリー四世」などにもリンゴが登場。イギリスの風土に合ったリンゴは、文化や伝統と深く結びついているのです。
イギリスのリンゴは小さい?
イギリスのリンゴは日本のものと比べてサイズが小さい印象ですが、同じくらいかそれよりも大きいこともあります。ただ、実家に帰省したとき、台所のテーブルに大きなリンゴが置かれていて(品種改良されたもの?)そのの大きさに主人と子供たちが驚いていました。
日本にいたときはあまりリンゴを食べなかったものの、イギリスに来てからはよく食べるようになりました。イギリスでは子供も大人もリンゴを食べます。バッグにそのまま入れて持ち歩いたり、歩きながら丸かじりする人も多く見かけます。皮ごと食べるのが一般的で、丁寧に皮をむいて食べる人は少ないです。子供たちは弁当と一緒にリンゴを持って行ったり、学校で配布されたりもします。
そういえば海外の映画でよく見かけた「リンゴを服で拭いてから食べる仕草」。あれはリンゴを磨いてツヤツヤにしていると思っていましたが、洗っていないリンゴなので服で拭いているのでしょう笑。
スーパーマーケットで購入できるリンゴ
スーパーマーケットで購入できる一般的なリンゴは以下のようなものがあります。
Gala(ガラ):甘くジューシーで子どもにも人気。
Braeburn(ブレイバーン):甘みと酸味のバランスが良く、シャキッとした食感。
Granny Smith(グラニースミス):酸味が強く、サラダやデザートに適している。
Pink Lady(ピンクレディ):甘みと酸味のバランスが良い品種。
Golden Delicious(ゴールデンデリシャス):甘く柔らかい食感。
Cox’s Orange Pippin(コックスオレンジピピン):イギリス原産、芳香と甘酸っぱさが特徴。
Egremont Russet(エグレモントラスセット):ナッツのような風味としっかりした食感。
Bramley(ブラムリー):クッキング・アップル(Cooking Apple、料理用リンゴ)。酸味が強く加熱するとホクホクになり、アップルパイやアップルクランブルに最適。
クッキング・アップルは他にも種類がありますが、たいてい置いてあるのは「Bramley」です。料理用リンゴとして日本でいう紅玉に相当する用途を持ち、アップルパイやアップル・クランブル等に適しています。クッキング・アップルも含めてリンゴ全般が手ごろな価格で販売されています。スーパーによっては不揃いのリンゴが大袋に入って格安で手に入ることも。
「コックス・オレンジ・ピピン」は、19世紀にイギリスの果実栽培家リチャード・コックスによって開発された品種で、イギリスの気候や風土に適しており現代まで親しまれています。我が家ではクッキング・アップルを使ってアップルパイ、それからポークやチキンなどに合わせるアップルソースをよく作ります。
海外ではローストした肉にフルーツのソースを添えることがよくあり、アップルソースはその代表格。リンゴの酸味が脂身を軽やかにし、甘みが肉の旨みを引き立て、消化も助けてくれます。イギリスのソーセージ「ポーク&アップルソーセージ」には、刻んだリンゴやピューレが加えられ、酸味と甘みが絶妙に調和して美味しいです。
リンゴを使ったイギリスのデザート・スナック
リンゴは紀元前から存在し(野生種として)イギリスの気候に非常によく合う果物です。そのためリンゴを使った伝統的なレシピが豊富に存在します。以下はイギリスならではのデザートやスナックの一例です(いくつかイメージ画像が含まれます)。
アップルパイ (Apple Pie) 甘く煮たリンゴをパイ生地で包んで焼いたデザート。シナモンやナツメグで風味付けされることが多くカスタードやクリームが添えられる。14世紀のイギリスで、王リチャード2世の厨房で初めてレシピが記録されたとされる。 | ![]() |
トフィーアップル (Toffee Apple) りんご飴。リンゴにキャラメル状のトフィーをコーティングしたお菓子。19世紀後半の英国で発明され、ガイ・フォークス・ナイトや秋祭りの屋台菓子として普及したとのこと。 | ![]() |
アップルクランブル (Apple Crumble) 煮たリンゴの上に、小麦粉・バター・砂糖のサクサクしたクランブル生地をのせて焼く温かいデザート。カスタード添えが定番。第二次世界大戦中、英国家庭で節約食として生まれた。(画像:https://realfood.tesco.com/recipes/apple-crumble-with-custard.htmlより) | ![]() |
ベイクドアップル (Baked Apple) 焼きリンゴ。芯を抜いたリンゴに砂糖、レーズン、ナッツを詰め、オーブンで柔らかく焼く素朴なデザート。17世紀のイギリスの料理書『The Accomplisht Cook』に初めてレシピが記載とのこと。(画像:https://realfood.tesco.com/recipes/spiced-baked-apples-and-toffee-sauce.htmlより) | ![]() |
アップルターンオーバー (Apple Turnover) 刻んだリンゴのフィリングをパフペストリーで三角に折り畳んで焼いたお菓子。携帯しやすい。シナモン風味が一般的。18世紀中頃のイギリスの料理書に登場し、19世紀には「アップルターンオーバー」という名称が使われるように。 | ![]() |
イブズプディング (Eve’s Pudding) 下層に煮込んだリンゴ、上層にスポンジ生地をのせて焼くレイヤー型プディング。ヴィクトリア朝(19世紀)の英国で生まれた伝統デザート。リンゴを禁断の果実として象徴するという宗教的な意味もあるらしい。(画像:https://www.marksandspencer.com/より) | ![]() |
アップルシャーロット (Apple Charlotte) 伝統的には、バターを塗ったパンのスライスで煮込んだリンゴを包みオーブンで焼き、カスタードソースを添える。18世紀の英国王ジョージ3世の妻シャーロット女王にちなんでいる。(画像:https://www.bbc.co.uk/food/recipes/applecharlotte_88965より) | ![]() |
アップルフール (Apple Fool) マッシュしたリンゴをホイップクリームやカスタードと混ぜた冷製デザート。滑らかでフルーティー。収穫期の余りリンゴを活かしたデザートとして17世紀に誕生。 | ![]() |
アップルフリッター (Apple Fritter) リンゴのスライスを甘いバッターで揚げ、粉砂糖をまぶしたドーナツ風スナック。中世イングランドの市場や祭りで発展した揚げ菓子。 | ![]() |
アップルダンプリング (Apple Dumpling) リンゴを丸ごとペストリー生地で包み、蒸したり焼いたりするボリュームあるデザート。18世紀の英国農村起源。リンゴの丸ごと使用が収穫祭の象徴で、家庭の温かな食事としても定着。(画像:https://www.sainsburysmagazine.co.uk/recipes/desserts/devon-apple-dumplingsより) | ![]() |
アップルベティ (Apple Betty) リンゴのスライスとパンくず・バター・砂糖の層を交互に重ねて焼いたクランブル風デザート。パンくずのサクサク感が特徴。19世紀の英国で発展した節約型プディング。(画像:https://realfood.tesco.com/recipes/apple-brown-betty.htmlより) | ![]() |
また、地域特有のリンゴを使ったお菓子もあります。
・ドーセットアップルケーキ(Dorset Apple Cake)
刻んだリンゴを混ぜ込んだしっとりしたスポンジケーキにデメララ砂糖がトッピングされています。19世紀のドーセット地方(南西部イングランド)で生まれた地域菓子。
・ケントアップルケーキ(Kent Apple Cake)
ケント産リンゴ(Cox’sなど)を加えたスパイシーなスポンジケーキ。ナツメグやシナモンの風味が強いのが特徴。
・サフォークアップルプディング(Suffolk Apple Pudding)
煮込んだリンゴをスエット生地やスポンジで覆って蒸す濃厚なプディング。温かいカスタードを添える。18世紀のサフォーク地方(東部イングランド)の農村で生まれた蒸しデザート。
・ヘレフォードアップルダンプリング(Hereford Apple Dumpling)
ヘレフォード産リンゴを丸ごとペストリーで包み、焼いた素朴なダンプリング。18世紀のヘレフォード地方(西ミッドランズ)で生まれた農家菓子。ヘレフォードはリンゴとシードルで有名。
また、定番のスコーン(Scones)やブレッドプディング(Bread Pudding)にリンゴを入れたり、シナモン風味のリンゴケーキを家庭でおやつとして作ることも。
庭でもよく育つイギリスのリンゴ
イギリスの気候や風土に適しているため、庭のある家ではリンゴの木を持つ家庭も一定数あります。手入れもそれほど手間がかからず、涼しい気候のため害虫が少なく、まさにオーガニックな状態です。
秋になると、リンゴのある家では自宅で使い切れないほど収穫できることもあるようです(リンゴの木の本数にもよりますが)。知り合いの日本人のお宅の庭にもリンゴの木が2~3本あり「よかったらどうぞ」とおすそ分けしていました。しかしさらに収穫したリンゴが使い切れず、その翌週、翌々週もバスケット一杯にコミュニティに持ってきていました。
私が現在住んでいる地域でも、やはり庭にリンゴの木がある家がいくつかあるようです。あるお宅の家の前の歩道には「Help yourself」というサインとともにリンゴが積まれ、ご近所さんや通りかかった人々に「自由に持って行ってください」とおすそ分けをしていました。(「Windfalls」と書かれている場合もあります)
おわりに
リンゴ以外にも、イギリスの気候に合う庭でもよく育ち、あまり手入れをしなくてもよい果物には次のようなものがあります。
・ブラックベリー(Blackberry、非常に丈夫で、ほとんど放置でも実をつける)
・ラズベリー(Raspberry、寒冷地でもよく育ち、病害虫にも強い品種が多くある)
・グースベリー(Gooseberry、涼しい気候を好み、日陰でも実をつけます。害虫対策が必要、でも全体的に手間は少なめ)
・レッドカラント/ブラックカラント(Redcurrant / Blackcurrant、耐寒性が高く、剪定以外の手入れはほとんど不要)
・プラム(Plum、イギリス原産の品種は気候によく合い、比較的管理が簡単)
・ルバーブ(Rhubarb、果物ではありませんがデザートに使われます。寒冷地にも強く、毎年自然に芽を出す)
また、自生しているビルベリー(Bilberry、ブルーベリーよりも小粒)もよく見かけます。イギリスでは、特にスコットランド、ウェールズ、湖水地方、ヨークシャー・ムーアなど、ヒースランド(荒野地帯)や森林の酸性土壌に自生しているとのこと。食べてみると、味も食感もほとんどブルーベリーです。