2014年9月から、イングランドでレセプションとイヤー1の子供たちに、無料の学校給食(スクールランチ(School lunch)、スクールディナー(School dinner)などと呼ばれる)が始まりました。
子供たちは「温かくて」「栄養たっぷり」、しかも「野菜をたくさん食べられる」食事が提供されるとしています。これにより「学業にも良い影響が出るはず」とのことです。
日本人の感覚だと「『温かくて』『栄養あり』で『野菜たっぷり』の給食? それって当たり前じゃないの?!」って、思うかもしれませんね。
イギリスセレブシェフによるキャンペーン
もちろんイギリスにも給食がありますが、希望者が毎週お金を払って利用するシステム。低所得家庭の子供(申請要)は、無料で利用できます。お弁当持参もOKです。
今回はレセプションとイヤー1(日本でいう幼稚園くらい)の給食が無料になり、多くの児童が利用できるようになりました。
この背景には、
・イギリスの少女が「給食の質がひどい!」とブログで訴えたこと(後述)
・セレブシェフ、ジェイミー・オリバーのキャンペーン
が大きく影響しているようです。
ジェイミー・オリバーとは
ジェイミー・オリバーは、1998年の料理番組「Naked Chef(裸のシェフ)」で人気になったシェフ。
裸で料理をしていたというわけではなくて笑、自然体で、シンプルで美味しい料理を作ろうとするそのスタイルからそう呼ばれるように。リラックスした話し方、量は目分量、野菜は手でちぎり、キッチンや庭にあるハーブをぶちっとちぎってささっと洗う。たまに洗わないことも笑。若い頃のジェイミーはめっちゃ格好良かったんですよ・・・(遠い目)。イケメンで、オシャレなスクーターに彼女(今の奥さん)と二人乗りしたり、バンドで演奏したりしてました。
給食の内容がガラッと変化した??
ジェイミー・オリバーは、9歳の少女がブログに載せた「貧相すぎる給食」の写真に影響されて学校給食の質を上げるキャンペーンを始めました。(参考記事:イギリス、9歳の少女が給食の献立をブログで訴える)」

彼のネームバリューも手伝って、キャンペーンは成功したようです。(その後アメリカでも同じキャンペーンをしたようですが、こちらはうまく行かなかったみたいです。食生活がだいぶ違いますから・・・)
面白いことに、1950年代とその40年後の1990年代の学校給食を比較してみると、1990年代の方が糖質・脂質が多く質は低いそうです。食生活は豊かになっているはずなのに・・・興味深いですよね。
ジェイミー・オリバーのキャンペーンでは、「ジャンクフードや加工食品を学校給食からなくすこと」を徹底し、新鮮な野菜や果物を推奨するもの。日本人からするとそんなのは当たり前な話ではありますが。日本の給食は昭和の頃から栄養のある「給食」や「お弁当」なんて普通にやってきたことです。毎月、栄養素の内訳付きの献立表も配られてますよね。
キャンペーン後、英国政府とブレア首相は「給食を改善する」と公約しました。同時期に「学校給食改善」を要請する20万人以上の署名も政府に届けられています。ただ、テレビ番組の特集では、野菜や果物に慣れてない一部の子供たちが、栄養のある給食を目の前に泣いてしまったり、残してしまったり・・・ということがあったようです。学校給食の質うんぬんよりも、家庭での食の質も見直さないといけないような気もします。
一部の家庭では子供たちが好きなものしか食べなくても多めに見ることがあり、そのような場合、親も似たような感じだったりします。また、給食でも、自分の食べたいものを選べることもあるので、栄養があるからといっていきなり食べ慣れないものを出されても子供たちは戸惑うかもしれません。新しく入学してくる子供たちなら「給食とはこういうもの」と入り口の時点で受け入れるのかもしれませんが・・・。
豆のコスチュームを着て食べさせようと頑張るジェイミー笑、頑なに食べようとしない子供・・・。

学校でも調理方法やメニューの決め方がガラッと変わります。それに適応できなくて、パックランチ(弁当)を持ってくる子供が増えた例もあったようです。
また、ジェイミーが後に再訪した学校では、健康的なメニューはあまり人気がなかったため、ジャンクフードのようなメニューという前の習慣に戻りそうになっていたところも。給食の取りまとめをする責任者は、調理方法が変わったせいで仕事が増えてしまっているのに加えて、以前のジャンクフードなメニューで得ていた収入が1万ポンド以上の赤字に変わってしまった不平を漏らしているそうです。「ジャンクフードで得ていた収入」というのもなんか切ないですよね・・・。
それにもめげず、ジェイミーは別の地域で、
・調理するためのキッチンを建設したり、
・地元のカフェ、レストラン、ホテル、タクシーといった業者と提携して温かい食事を学校へ運ぶ工夫をしたり、
・コストを抑えるために地元のサプライヤーから食材を調達したり、
といった工夫を続けました。
2009年には、健康的な給食を食べることで、子どもたちの学校での成績が向上した例が報告されています。彼の活動は実を結んだようです。

賛否両論とイギリス人の習慣
給食無償化について政府や栄養の専門家は「弁当持参の子の栄養は偏りがち。温かくて栄養のある給食で学力もアップする」とキャンペーンに肯定的。
他の関係者も、「小さい頃に栄養をしっかり摂れば、早く良い結果が出る」「政治家が栄養の大切さに気づいたのは素晴らしい。低所得家庭にもいい話」と喜んでいるようです。
BBCに寄せられたコメント
でも、BBCに寄せられたコメントの中には、批判的なものもチラホラある印象でした。
「うちは健康的な弁当作ってるのに、学校のメニューが不明で不満」
「チップス(フライドポテトのこと)しか食べない子にヘルシーな給食を出しても食べないのでは?」
「どうせ次の選挙で政権が入れ変わったら、無料給食は中止になるのでは?」
等々・・・。
(追記:2025年)この無料給食は、イングランドではレセプションからイヤー2まで提供。2026年からは低所得家庭の子供に拡大予定、スコットランドとウェールズは全小学生対象、北アイルランドは検討中とのこと。
おわりに
他の記事でも触れましたが(「イギリス、9歳の少女が給食の献立をブログで訴える」)、私の子どもはお弁当持参です。理由は、子どもたちが「スクールランチをもらうのに並ぶのが面倒」と言っていることと、特に「スクールランチが食べたい」と希望しているわけでもないからです。
BBCのコメントにもあったように、その方が私の方で中身をコントロールできるという点もあります。日本のように「キャラ弁」のように頑張ったお弁当にする必要がないので楽です。