「イギリス料理」と言えばフィッシュ&チップスやサンデーローストを思い浮かべる人が多いでしょうが、イギリス国民にとってもう一つ人気の料理があります。それはカレー。イギリスではカレーが単なる料理を超えた「国民食」として親しまれており、一部の国民は週に一度はカレーを食べるという統計もあるほど。
「イギリスの料理はまずい」というのが世界の定説らしいですが(美味しいものもたくさんありますけどね)、とある日本の記事で「イギリスのカレーは美味しいのでぜひ食べておくべき」と書かれていました。記事内では「イギリスカレー」と呼んでいましたが「イギリスカレーなんてあったっけ?」と思ってしまいました。「イギリス食パン」のようなものなのでしょうか。
イギリスのカレーは美味しくて国民食なわけ
「イギリスカレー」とは、イギリスにあるインド、パキスタン、バングラデシュ系のレストランで提供されるカレーを指しているかと思います。日本のカレーとは少し異なり、肉や野菜、魚などをスパイスとソースで調理し、ナンやポッパドムと一緒に提供されたりします。
もしくはイギリスで独自に派生したカレー(チキンティッカマサラ、コロネーションチキン、ケジャリー、バルティ、マリガトーニなど)を指しているのかもしれませんが、基本的にはインド、パキスタン、バングラデシュ系のカレーのきとを指しているのかと思います。日本で言うなら「スパイスカレー」に近いといえるでしょう。ただし、これらのカレーは地域、宗教、家庭ごとに数百種類以上のレシピが存在し、スパイスの配合や具材、調理法が異なるため、「スパイスカレー」という一言では片付けられないと思います。
その歴史としては大英帝国時代にさかのぼります。植民地時代の交易や人的交流により、インド系料理人がイギリスに渡り初期のカレー文化を形成しました。インド、パキスタン、バングラデシュからの移民は20世紀(特に1940年代以降)に増加し、それ以降、レストランが開業され、カレー文化が全国に広がりました。バングラデシュ系は1970年代以降、カレーハウスを急増させたとのこと。
これらのレストランでは、自国からシェフや給仕係を雇うこともあるようです。そのため「イギリスカレー」というものはイギリス人が作っているわけではないし、「イギリスカレー」という特別な料理があるわけでもなく、インド、パキスタン、バングラデシュ系のレストランで作られるカレーが正統派で美味しいというだけなのかと思います。
料理が趣味の主人が職場のパキスタン人にカレーのレシピ本を見せると、「これでもいいけれど、うちではこう作る」と、レシピも見ずにささっと作ってくれたカレーはとても美味しかったそうです。主人はその友人たちから作り方やコツを聞いて何度も作っており、かなり美味しい域に達していますが、主人がそれらを「イギリスカレー」と呼んだことは一度もありません。料理名そのもので呼んだり、「パキスタン系のカレー」などと呼んでいます。
インドに駐留していたイギリスの商人や兵士たちは、インド料理の豊かで香り高い味を楽しみ、帰国しても同じように味わいたいと思ったのは自然なことです。現地の料理を自国向けに簡便化するために「カレー粉」が作られ、イギリスや欧米に広まったそうです。インドでは伝統的に家庭ごとや料理ごとにスパイスを調合して使うため、「カレー粉」という形では存在していませんでした。「カレー粉」なるスパイスをあらかじめ調合したものが作られ、19世紀にイギリス人によって商品化されました。
そのカレー粉が日本に輸入され、日本ではカレールウに発展。とはいえ、伝統的なインドカレーは辛さが強い場合が多く、イギリス人の好みに合わせて独自に誕生したカレーもあります(チキンティッカマサラ、コロネーションチキン、バルティ、マリガトーニ、ケジャリーなど)。
カレーのレストランが多い地域
イギリスでカレーのレストランを利用したい場合、評判の良い店なら大抵美味しいです。もしくはガイドブックに掲載されている店に入ればよいかと思います。ロンドン観光をしているならロンドンの店で十分だと思います。
カレーのレストランが多い地域としてロンドン、バーミンガム、ニューカッスルはインド料理店が集中する地域として知られています。特にブラッドフォードはインド・パキスタン系住民が多く、カレー文化が盛んで「カレーの首都(Curry capital)」と呼ばれることもあります。家族経営の店も多く、自分の国から家族やスタッフを呼んで切り盛りしている店も多いです。
ブラッドフォードのパキスタン系レストランに行ったときには、ロイヤルファミリーのイベントで料理を提供したときの写真が入り口に掲載されていました。
またイギリスでは年に一度、「British Curry Awards」という、カレー愛好家にとって待望のイベントが開催されます(2005年から毎年開催)。このイベントではイギリス全土のインド料理レストランやシェフが一堂に会し、その年の最高のカレーを競い合う場となります。2022年の例では、それぞれの地域の「最優秀レストラン」、「最優秀テイクアウト」、「最優秀シェフ」、「エディターズチョイス賞」、「ベストオブザベスト賞」などが授与されました。。カレー業界での技能不足、移民政策、健康・衛生基準、環境の持続可能性といったことが認識される目的もあるということです。
フィッシュアンドチップスにもカレー?
イギリスといえば「フィッシュアンドチップス」がよく知られていますが、フィッシュアンドチップスのソースには「カレーソース」もあります(イギリス北部に多いようです)。カレーソースはマイルドで濃厚なものが多く、ポピュラーな選択肢です。カレー作りにはまっている私の主人は、フィッシュアンドチップスを購入するときにはいつもカレーソースも一緒に注文します(そして飲み物は熱々の紅茶笑)。
スーパーで買えるカレー・カレーの材料
イギリスのスーパーでは、チルドの「Indian」ディナーセット(チキンティッカマサラやバターチキンなどのカレー、バスマティライス、ナン、サイドディッシュ(ダール、オニオンバージなど)が含まれます)、瓶詰め、缶詰、冷凍食品のカレーの種類が豊富です。
たいていのスーパーにはアジア系食品の棚があり、インド、パキスタン、バングラデシュ系のカレーを作るための大体の食品や米が揃います。バスマティライスは大袋でいくつかの種類があり、スパイス類も豊富です。バスマティライスはビリヤニ(インド、パキスタン、バングラデシュ系のピラフ)にも使われます。
日本のカレーには日本米が合いますが、「インド、パキスタン、バングラデシュ系のカレー」にはバスマティライス(あるいはLong grain white rice)が相性が良いと思います。パキスタン系のレストランで「お米はスーパーで購入できるものを使っている」と聞いたことがあります。品種やブランドはあまり関係ないみたいです。
バスマティライスは鍋でゆでて火が通ったらざるにあげてお湯を捨てるだけの簡単さですが、私はいつも炊飯器か圧力鍋で炊いています。スーパーでは他にもナンやポッパドムなども手軽に購入できます。自分の料理用や話のタネとして、カレーや材料をお土産に買っていくのも面白いかもしれません。イギリスのアマゾンではスパイスのギフトセットも販売されています。
テレビの料理番組やBBCのレシピでもカレーを扱ったものが多く、イギリスの一般家庭でカレーを作る人も一定数いるようです。国民食と言っても差し支えないでしょう。
日本のカレールウ
イギリスのスーパーでは、日本のカレールーを取り扱っているところも最近多くなってきました。とはいえ、種類は限られており、サイズも小さいです。イギリスのアマゾンでも日本のカレールーを購入できますが、こちらも種類は限られています。それでも手軽で美味しくカレーが作れるため、英語でのコメントも最近増えているようです。
私は、日本のカレールーは、ロンドンのらいすわいんのような日本食材店で1キロサイズをよく購入しています。使いやすい大きさに切って冷凍しておくと便利です。
おわりに
最近では、スーパーのチルドセクションや「Wasabi」のような英国の日本食チェーン(Wasabiは韓国系企業)がカツカレーを提供しています。ベジタリアン用であればサツマイモのフライが入っています。ただし、日本伝統的な「カツカレー」を期待しないほうがよいかと・・・。なぜなら、カツの質も違えば、カレーの風味や濃度、ご飯の質も違うことが多いからです。
イギリスで1970年代に大人気だったシットコム「The Good Life」では、ジェリーがインディアンカレーのテイクアウェイを仕事帰りに買ってきたシーンがあります。その頃からイギリスにはテイクアウェイがあったのですね。