日本のテレビ番組でも紹介されていたことがあるようです。「イギリス人は皿洗いのとき、洗剤の泡を流さない・・・」って。
「は?泡を流さないってどういうこと?」
「どうやったらそんなことになる?」
って思いますよね。
日本人にとって、食器を洗ったら「よくすすぐ」のが当たり前です。だから、イギリスで実際に「イギリス人の皿洗い」を見て驚く人が多いです。
私も衝撃を受けましたし、何かの間違いかと思ったくらいです。
そして、同じ時期にホームステイでイギリスに来ていた人たちにこの話をしたら、
「だよね?そうだよね?!」
と、大いに盛り上がったことを覚えています。
イギリスでは食器洗いの洗剤を流さない・・・
全員がそうだというわけではないと思います。でも、おそらく一定数のイギリスの人々は、皿を洗って「泡がついたまま、すすぎません」・・・。これは「ズボラ」というわけではなく、洗剤風味が人気というわけでもなく笑、こういう「文化」と言った方がいいのかも。
で、以下がその洗い方です。
イギリスの「すすがない」お皿の洗い方は・・・
1. シンクに栓をして、または洗い桶に洗剤を適当に回し入れます。
(潜在ボトルには「1回し入れたら十分です」と書かれていることも)
2. そこに水やお湯をざーっと流し入れ、
3. その中で食器をスポンジとか「Dishcloth(ディッシュクロス:食器を洗う布(台ふきんのような素材)」で洗います。
4. 食器に食べ物がついていないのを確認したら、その食器を、シンクの隣の水切りにのせます。
5. 完了!
・・・・・・はい、そうです。
泡がついたままなんですね。泡というのは「洗剤」ですよね・・・。で、洗剤の泡には「汚れ」が混じっていることもあります・・・よね。
イギリスにきてびっくりしたことの一つ
ウン十年前にイギリスのお宅でホームステイをしたことがあります。それ以前にもイギリスに来たことはありましたが、そのときはホテルやロンドン在住の日本人の家に泊まったので、「イギリス式の皿洗い」なるものを目にしたことはありませんでした。
ホームステイ初日の夕飯後、皿洗いを手伝おうとしたら、「長いフライトで疲れているでしょう?お皿はそこに置いておいて」と言われました。とはいえ、食べるだけ食べてすぐに部屋に戻るのも気が引けたので、皿洗いをするホストと少しおしゃべりをしました。
そこで「おや?」と思ったのが、ホストファミリーが泡がついたままの食器を次々と水切りに重ねていくのです。
「一度横に置いて、その後、すすぐスタイル?」などと思考をめぐらしていたら、ホストファミリーの娘さんが、泡がついたままの食器を布巾でどんどん拭いていくのです・・・。
「え・・・す、すすがないんですか・・・?!」
と思わず声を上げてしまいました。
(文字通りうろたえていました笑)
ホストは「何の質問かしら?あなたは皿を洗ったことないのかしら?」とでも言いたげな口調で、
「え?!・・・洗い桶の中ですすいだわよ?」
と返してきました。このホストのやり方なのか?何か意味があってやっているのか?
「あーはい、なるほど・・・」と返事をして部屋に戻りました。
「ちょ・・・皿?・・・泡?」
いや、すすぎ忘れだと思いたい・・・。その夜は少し混乱したまま寝ることに・・・笑。
これがイギリスのやり方かーっ
翌日、他の日本人に会ったときにこの話をしたら、
「そうでしょーっ、びっくりだよね!?」
と盛り上がりました。その日の夕飯の後、私は皿洗いを手伝うことになったのでこんな風に言ってみました。
「ええと・・・日本では洗剤はあまり体に良くないといわれています。だから流し水でよくすすぐのですが・・・。」
そうしたら、
「あらそうなの?でも『Fairy』はいい洗剤よ~」
と論点がずれ始め、しまいには、
「○○(私の名前)は洗剤を入れ過ぎなのよ~、フフフ」
と、かるく指摘されてしまいました。とっても、とっても、納得が行きませんでした笑。
ホームステイの期間中、この洗い方だけは、どうしても、どうしても、受け入れることができませんでした。だから、ホストファミリーが見ていないとき、泡をきれいに流したり、食器を使う前に軽くすすいだりしました。
ちなみに「Fairy」は、私も好きです。
洗濯用の洗剤や柔軟仕上げ剤は石鹸のような香りがして爽やかです。
慣れとは怖いもので・・・
当時、同じようにホームステイをしていた日本人が何人かいました。その中の1人「Aさん」のステイ先のお宅で開かれたBBQに招待されたことがあります。
イギリスに来たばかりの頃、Aさんは、「皿をすすがないなんてありえないわ!」と言い切っていました。
ああそれなのに、BBQの日。
皿洗いをしていた彼女は「イギリス式で洗ってみました~」と、泡がついたお皿を片付けていました。
「うわ~、お前もか~」と心の中で叫んでしまいました。
もうそれが文化だから仕方ない
もうこれは文化だから仕方がないのだと思います。生活の一部なのです。
ちなみに、私の夫も出会った当初は泡を残していました。
「それだけは(他にもあるけど笑)どうしても我慢できないからやめてほしい」と、お願いしたことがあります。
たいていはすすいでくれているのですが、急いでいたり、量が多かったりすると忘れることもあるようです。今は食洗機があるので、熱いお湯ですべてきれいさっぱりにしてくれます。だから我が家では泡の心配はありません。
イギリス人が洗剤をすすがない理由は?
もしかしたら、イギリスの洗剤は体にやさしい成分で作られているかも?と思ったこともありましたが、いたって普通の食器用洗剤です。「口に入れても安全・無害」というわけではありません。
「Fairy(フェアリー)」というブランドだから大丈夫という問題でもない。
じゃあ、なんですすがないの?
これには、いくつかの説があるようです。
・水の節約が求められていた時代の名残り
・水質があまり良くないため、洗剤で殺菌する目的があった
・体に入っても大丈夫だと信じている
・それが正しい洗い方だと、代々思い込んでいる
・水を節約していたころからの名残り
たとえば、洋画のお風呂のシーンがあります。たいてい、おしゃれなバスタブ、泡泡のお湯、バスローブが登場するかと思います。
欧米では、泡風呂にドボンと入り、そのお湯の中で体を洗います。
お風呂から上がるときには泡を落としません。
そのままタオルでぬぐったり、泡を落とさずにバスローブを羽織ったりします。
バスローブはタオルも兼ねているという感覚です。
ちなみに、湯船の湯はシェアしません(すでにお湯の中で体を洗っているので当然かと・・・)
ヨーロッパは乾燥しているため、泡を残すことで肌をしっとりさせたり、いい匂いを持続させたり、といった効果を期待しているところもあるようです。
お風呂についてそのような考え方なので、お皿についた泡には、
「お皿を殺菌する効果」とか「何かしらいい効果(笑)」があると信じているのかもしれません。
テレビのせいもある?
また、テレビが原因という説もあります。
テレビ番組なのか、洗剤のCMなのかは不明ですが、皿洗いのシーンで、泡がついたまま水切りに食器を置く様子が流れていたそうです。さわやかに、楽しく、清潔なイメージで食器を洗うのですが、そこで、泡をつけたままの食器を水切りに置いていたので、それが国民の脳裏に焼きついたのかもしれません。
一時期、洗剤メーカーが「洗剤はきちんと洗い流しましょう」というキャンペーンを行ったことがあるそうですが、一度定着した習慣はなかなか変わらず、あまり広がらなかったようです。
「The Good Life」という1970年代のイギリスのシットコムを観ていたとき、妻のバーバラが泡がついたままの皿を水切りに置いたので、まあこの頃もそうだったんだろうなと思いましたが・・・。
きれいにすすぎたいイギリス人もいる
とはいえ、「きちんとすすがないと気持ちが悪い」と感じているイギリス人も、一定数いるようです。最近では、食洗機を使う家庭も増えています。
ただ、食洗機では「リンスエイド」を使う人も多くいます。これは、食器に水滴の跡が残るのを防ぎ、乾きを早くし、透明なグラスをきれいに仕上げるためのものだとされています。イギリスでは水質が「硬水(hard water)」の地域が多いことが、その理由です。
ただ、リンスエイドの主な成分は界面活性剤なので、泡が残ったままの状態とそれほど大きく違わないような気もします。
国内でも意見が分かれている
イギリスの新聞ガーディアン「The Guardian」のサイトに、読者(イギリス人ではない)が、この問題に対する疑問を投稿していました。
それに対し、たくさんのイギリス人からの回答が寄せられました。
質問:汚れた洗剤水の中で洗っただけのお皿を使う、というイギリスの習慣が信じられません。
泡がついたままお風呂をでるような感覚なのでしょうか?
賛成派(英国式を擁護)
- 熱めのお湯を使ってまとめて洗うことで、水道代・光熱費を抑えられる。
- 祖母や母から受け継がれてきた合理的な生活習慣。
- 熱いお湯で殺菌効果があり、すすがなくても衛生的だ。
- 泡は乾かせば無害であり、自然乾燥で清潔になる。
- 洗う順番を工夫すれば汚れがうつらない(例:グラス→皿→鍋)。
- 洗剤の成分が安全で、少量残っても健康上の問題はない。
- 過剰な水使用はエコでない。
- ティータオルで拭けば問題なし。
- 日常の汚れはこの程度で十分。
- 海外からの批判は文化的な違いだ。
反対派(批判・否定)
- 石鹸カスを残したまま乾かすのは非衛生的で、人体に悪影響の可能性がある。
- 一つの桶で全てを洗うのは汚れを広げている。
- 風呂で石けんを流さないのと同じで不快。
- 見た目に泡が残っているのが嫌。
- 国際的にはすすぎが常識と考える層が多く、イギリス式は時代遅れだ。
- 衛生基準が低いように映るため、訪問者が驚くという体験談も多い。
- 食洗機が普及している現代では不要な手間と不潔さ。
- 汚れた水に手を突っ込むのが苦痛。
- 料理に油を多く使う国では通用しない。
- 石鹸の残留が味に影響するという実体験を語る人もいる。
中立・折衷派
- 文化的な違いとして受け入れるべきで、単純な優劣ではない。
- 状況によって洗い方を変えればよい(例:多忙時・来客時など)。
- 食洗機と手洗いを併用している家庭も多い。
- 「すすぎ」は気になる食器だけにすればいい。
- 桶方式でも衛生を保てる方法はある。
- 汚れの軽いものは桶で、重いものは流水ですすぐなど使い分けの提案。
- 日本や他国でも独自の洗い方があるので、自国だけを非難すべきでない。
- 洗剤の質や規制が違う可能性もあるので一概には言えない。
- 生活スタイル・家の構造(シンクの深さなど)も影響している。
- 何が「清潔」かの基準が国や人で違う。
おわりに
考え方の違いと言ってしまえばそれまでですが、イギリス人はそこまで神経質ではないようです。手を洗うことの大切さはもちろん理解していますし、ハンドウォッシュの種類も多く揃っています。
ただ、外から帰っても全員が必ず手を洗うわけではないようですし、レストランでおしぼりが出てくることはほとんどありません。
それでもイギリス人はピンピンしています。日本人よりもタフだと言っていいかもしれません・・・。