The Guernsey Literary and Potato Peel Pie Society(ガーンジー島の読書会の秘密)

ガーンジー島の読書会の秘密」(原題:The Guernsey Literary and Potato Peel Pie Society)は、2018年公開の映画です。メアリー・アン・シェイファーとアニー・バローズの2008年同名小説が原作です。

舞台は第二次世界大戦後の1946年。ロンドンに住む若い作家ジュリエット・アシュトンが、ナチス・ドイツ占領下の英領ガーンジー島の住民と手紙を交わしたことをきっかけに、彼らの隠された過去や人生の断片、「読書会」の秘密に迫っていきます。

目次

あらすじ

1941年、第二次世界大戦中のドイツ占領下にあったガーンジー島で、4人の島民が夜間外出禁止令に違反しているとして兵士に止められます。緊張が走る中、集まりの目的を尋ねられ、とっさに「読書クラブです」と答え、「ガーンジー島の読書とポテトピールパイの会(The Guernsey Literary and Potato Peel Pie Society)」と名乗ります。

それから5年後の1946年、戦争が終わり復興が進むロンドン。

若い作家ジュリエット・アシュトン(リリー・ジェームズ)は、自身の最新書籍のプロモーションを行うために書店「Foyles」に入っていきます。同行するのは出版社のシドニー・スターク(マシュー・グード)で、彼女の古くからの友人。「Foyles」はロンドンにある老舗の書店で、1940年代の姿を見ることができるのはいいですね。

ジュリエットは戦争で両親を失い、自宅マンションも爆撃で半壊するという衝撃的な体験をしました。その記憶は今も心の中に生々しく残っており、今も彼女を苦しめています。

彼女には裕福なアメリカ人恋人マーク(グレン・パウエル)がおり、ニューヨークで一緒に暮らそうと誘われています。二人が社交ダンスホールで待ち合わせし、フォーマルな服装で踊る姿が印象的です。ジュリエットの美しいドレスが素敵です。

帰宅すると、家主のバーンズ夫人(バーニス・ステガース)が奥から出てきます。ジュリエットは届いた花をバーンズ夫人に譲り、郵便物だけを受け取って部屋に上がっていきます。バーンズ夫人は「もう10時を過ぎているのでタイプライターはやめてほしい。銃声よりひどい音だから」と注意します。

今回の仕事は順調なようで、ジュリエットの小さな部屋には贈られた花が所狭しと飾られており、花瓶も足りない様子。届いた花をバーンズ夫人にあげたくなるも理解できます。

その日の郵便物には、ガーンジー島からの手紙があり、特徴的な切手が貼られていました。
ガーンジー島はイギリス領でありながら、第二次世界大戦中に唯一ドイツに占領された地域。占領中はイギリスからの補給が途絶え、日用品だけでなく郵便用の切手も不足しました。そのため、1941年からはガーンジー島で独自の切手が発行されるようになりました。

ガーンジー島からの手紙

手紙の差出人はガーンジー島で農場を経営するドーシー・アダムズ(ミシェル・ユイスマン)という男性。
彼が持っているチャールズ・ラムの「エリア随筆集」は、かつてジュリエットが所有していたもので、本の中に彼女の名前と住所が書かれていたため手紙を書いているといいます。

ドーシーはチャールズ・ラムの作品を何度も繰り返し楽しみ、特に「ロースト・ピッグ」の部分が印象的だと話します。彼は「ガーンジー島の読書とポテトピールパイの会」という毎週金曜夜の読書グループのメンバーで、この会はロースト・ピッグ(子豚の丸焼き)をドイツ軍に秘密にするために結成されたと語りました。

ドーシーはチャールズ・ラムの別の本「シェイクスピア物語」を購入したいと考えており、ドイツ軍は去ったものの島には書店がなく、ロンドンのどの書店で入手できるか教えてほしいと頼みます。

ジュリエットはこの会や成り立ちに興味を持ち、「シェイクスピア物語」を書店で購入し手紙とともに返送しました。彼女の返信には、

「あなたの手紙が無事届き、かつての私の本があなたのもとにあることを嬉しく思います。残念ながらお金が必要だったのでチャールズ・ラムの本を売らざるを得ませんでした。お探しの書籍をお送りする代わりに質問してもよろしいですか?
なぜロースト・ピッグは秘密にされたのですか?
豚が理由で読書会が始まるなんて本当ですか?
そして何よりも、ポテトピールパイとは何ですか?」

と書かれていました。
それに対しドーシーから返信が届きます。

ドーシーの説明によると、ドイツ軍がガーンジー島を占領したとき、彼の飼っていた動物はすべて没収されました。一匹でも持っていると違法となり、彼はじゃがいもを育てるよう命じられました。島民はラジオや手紙も制限され、孤立した環境で過ごすことになったのです。
毛布にくるまってスープにじゃがいも一つだけの食事でしのいでいたドーシーの姿に胸が痛みます。

ある日、ドーシーのもとに「Aの家に肉切り包丁を持ってきて、Eより」というメモが届きます。
意味がわかないまま包丁を持って「A」のイニシャルを持つアメリア(ペネロピ・ウィルトン)の家に行くと、彼女とエリザベス(E)(ジェシカ・ブラウン・フィンドレー)が迎えました。
こんな素敵なファーマーが肉切り包丁を持ってきたら、ドキドキしますね笑。

なんとアメリアは自宅の隅に豚を一頭隠しており、その日はそれを焼いて食べようというのです。この集まりを提案したのはエリザベスでした。

近所のイソラ(キャサリン・パーキンソン)とエベン(トム・コートネイ)もやってきました。
ハーバリストのイソラは自家製ジンを持参し、ハーブ療法や民間療法の知識を分けてくれました。彼女のジンはかなり強く、口にした人はむせたり驚いたりしていました。自家製ジンもドイツ軍に制限されていた可能性があります。

子豚の丸焼きはとても美味しそうで、農家のドーシーなら美味しい焼き方を熟知していそうです。
郵便局勤務のエベンが持参したのが、ポテトピールパイ。「バターなし、小麦粉なし、じゃがいもだけ」というものでした。パイの上には伝統的な模様がありましたが、それはポテトピール(じゃがいもの皮)が使われていました。

その食事では、全員が職業や戦争のことを忘れて楽しい時間を過ごしました。

しかしその帰り道、彼らはドイツ軍に見つかってしまいます。
彼らは読書会を実際に運営しなくてはならず、閉鎖された書店に忍び込み何冊かの本を取りに行きました。ドーシーは「エリア随筆集」を、他のメンバーもジェーン・オースティンの「ノーサンガー・アビー」などを手に取り急いでその場を離れました。

読書会はドイツ軍の見張りがいる中で続けられましたが、金曜夜の集まりは彼らにとって安らぎの時間となりました。周囲の世界が暗くなっても、ろうそくの灯りの下で本を通じて新たな世界が広がったのです。

不在の発起人

手紙に心を動かされたジュリエットは、この読書会についての記事を書きたいと思います。ガーンジー島への訪問を申し出ると、シドニーは反対しましたが、ジュリエットは行く決意をします。

島へ向かう船の出発前、ジュリエットはマークからプロポーズを受けます。ほかの乗客が見守る中、汽笛も鳴ります笑。彼女が承諾すると周囲から拍手が起こりました。そして、ジュリエットは大型船から小さな船に乗り換えます。当時、ガーンジー島のような小さな島には、大型船が直接接岸できる深い港や大型ターミナルが整備されていなかったためです。

しかし、島に着くとホテルが閉まっており、ジュリエットは郵便局へ行くよう案内されます。ジュリエットとドーシーの出会いです。
郵便局には少年イーライ(キット・コナー)が店番をしており、裏で仕分け作業をしていた祖父から別の宿を紹介されました。祖父の名を聞いたジュリエットは「あのエベン・ラムジーですか?ポテトピールパイの発明者?」と声を上げます。イーライは「祖父のパイを食べに来たの?」と少し驚きます笑。

イーライの郵便配達の馬車に便乗してジュリエットはホテルへ向かいます。そこにはガーンジー島の美しい景色が広がっていました。

読書会に参加したジュリエット。
アメリアは少しよそよそしく、歓迎していない様子です。時間制限を設けた活発な議論が進みます。ジュリエットは文筆業らしく意見を積極的に述べ、メンバーと打ち解けていきました。

やがてエベンが「オリジナルレシピですよ」と、ポテトピールパイを出します。ジュリエットが一口試して、「It’s the worst!」と感想を述べると、全員が笑います。
あまり美味しくないのはわかりますが、メンバーたちは苦しい時期にこのパイで笑顔になったのですから、もう少し敬意を払ってもよかったのかな・・・と思ってしまいました。

この日、この会ができるきっかけとなったエリザベスは不在で、今は海外にいるといいます。ジュリエットは、この読書会についての記事執筆の許可を求めますが、アメリアは否定します。

後日、ジュリエットは、エリザベスがドイツ軍に強制収容所に連れていかれ、まだ戻っていないことを知ります。彼女の娘キットはドーシーが世話をしており、キットはドーシーを「ダディ」と呼んでいます。ただし、メンバーはエリザベスの話を避けているようでした。

ジュリエットは帰国を延期し、島に留まって調査を続ける決心をします。メンバーにはドイツ占領について調べていると伝え、軍隊に所属するのマークに連絡してエリザベスの居場所調査を依頼しました。

彼女に何が起こったのか

キットの父親はドーシーではなく、ドイツ人の医師クリスチャンでした。彼はドーシーの牛の難産を手助けした誠実な人物だとドーシーは説明します。

エリザベスはドイツ兵のクリスチャンと密かに交際していましたが、アメリアはそれを許せませんでした。やがてクリスチャンは軍に見つかりドイツに送還されることに。しかし、彼が乗った船は海岸近くで魚雷攻撃を受け沈没し、二人は二度と会えませんでした。クリスチャンはエリザベスの妊娠を知ることもありませんでした。

一方、アメリアはドイツ軍が上陸する数日前の爆撃で、出産間近の娘を失っていました。娘も胎児も、そして夫もドイツ軍のせいで亡くなっているため、アメリアはエリザベスの交際を許せなかったのです。エリザベスの妊娠を知った時には強い憤りを覚え、ドイツ軍に発覚したらエリザベスまで失うのではという恐怖も抱いていました。

娘の親友であるエリザベスがそばにいてくれたにもかかわらず、アメリアは必要な時に彼女のそばにいられなかったことをずっと後悔していました。そして、エリザベスは負傷したドイツ軍の強制労働者の少年を病院に連れて行こうとしていたところ、少年は撃たれ、エリザベスは強制収容所に連れて行かれたのです。

アメリアは、もしエリザベスが戻らなければキットに残る親族はドイツ人だけになってしまい、キットがドイツに送られてしまうことを恐れていました。戦争は起こってほしくないことを次々に現実にしてしまうからです。

ジュリエットは過去の新聞を丹念に調べ、メンバーから聞ける断片的な話と、新聞から得られる情報をつなぎ合わせていきます。

ある日、ジュリエットはキットの世話を1日任されます。ドーシーの家で彼の部屋を見つけたジュリエットは、ベッドサイドにチャールズ・ラムの本が置かれているのに気づきます。開くと、そこにはジュリエットの手紙が挟まっていました。メールや印刷された手紙よりも、手書きの手紙というのは心がこもっていて重みがありますよね・・・。

その時、ドーシーが帰宅し、二人の間にちょっとしたスパークが起こります(お約束ですね・・・笑)。

そしてその頃、マークはジュリエットから依頼されたエリザベスについての情報をガーンジー島に持ってきました。彼はジュリエットが婚約指輪を外しているのを気にしますが、ジュリエットは指輪をなくすのが怖いから、島では目立ちすぎるからと言い訳をします。

その後、メンバーたちにエリザベスがすでに亡くなっていることが伝えられます。ドーシーは外で遊んでいたキットに知らせに行きます。メンバーたちは「私が伝える」「いや私が」と言い合いながら、親のように家族のようにキットを思いやっていました。

ジュリエットとマークの結婚はそのまま進められることになり、二人は飛行機でロンドンへ戻ります。飛行機が離陸のために一度遠回りしてから離陸するシーンがカッコよかったです。

再びタイプライターに向かう

ロンドンに戻ったジュリエット、心はまだガーンジー島に残っており、以前の生活に戻れませんでした。島のことを考え続け、食事も喉を通らない状態。
心配したシドニーが訪ねてくると、バーンズ夫人は「あのタイプの音がなくて、静まりかえっている方が心配だ」と話しました。

ジュリエットは読書会について書かないと約束していましたが、シドニーは自分の調べたことは書くべきだと言います。エリザベスも結果がどうであれ、自分の心の声に従わずにはいられなかったのだから、ジュリエットもそうするべきだと。
しかしジュリエットは、自分が経験し知ったことの重さをどう書けばいいのか、自分にそれを書く資格があるのか怖くなっていました。

ジュリエットはマークに結婚指輪を返して、結婚できないと謝ります。意外にもマークは指輪をポケットに入れ、あっさり受け入れて席を立ちました。彼が戻ってきたかと思いきや、「さよなら」とジュリエットに言いながら、テーブルの上の冷えたシャンパンを持っていってしまいます笑。

かつてジュリエットは書店のプロモーションで「作家の仕事は理想的。家にいられて、いつもティーポットのそばに座れる(すぐにお茶が飲める)」と冗談を言っていました。しかし、部屋の花や花瓶を廊下にすべて出して気を散らすものを排除すると、日が暮れるまで、あるいは朝になるまで、資料やメモを見ながら校正もしつつ、タイプライターを打ち続けました。背中が曲がり、目も疲れている様子です。

彼女は、手紙を書いているときや、タイプライターに向っているとき顔が一番素敵だと思います。

ジュリエットは書き上げた原稿の一つをシドニーに渡し、もう一つを読書会に郵送しました。読書会への原稿の本の献辞(dedication)には「for Kit(キットへ)」と記されていました。読書会のメンバーへの思いや関わるきっかけ、そしてガーンジー島への想いが綴られた手紙の冒頭部分がとても素敵でした。

ネタバレしない方が良いかと思いますのでここまでで・・・。

おわりに

心温まるエンディングでしたが、個人的なことを言うなら、読書会やガーンジー島、そしてキットへの愛情を前面に出した演出で締めくくってほしかったかなーと思います。

エンドロールでは、シドニーを含めた読書会の楽しい議論の様子も流れます。

ジュリエットは、宿泊先での食事のチョイスが少ないからと、パブで食事をしながら書きものをします。そこにドーシーがやってきて、エリザベスにハーフパイント、自分にはパイントを買って一緒に座ります。素朴なパブがとてもよい雰囲気で、ドーシーのパイントからビターがこぼれていたのも美味しそうでした。持ってくるときによくこぼれたりするので笑。

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