「Doc Martin(ドク・マーティン)」は、イギリスの医療系コメディ・ドラマであり、2004年から2019年まで放送されました。
主人公のマーティンは、インペリアル・カレッジ・ロンドンで優秀な血管外科医として活躍していましたが、血液に対する恐怖症(血を見ると気絶してしまう!)を発症してしまいます。その結果、ロンドンとは対照的な、のんびりとした田舎でGP(一般開業医)としての再スタートを切ることになります。
舞台は、イギリス南西部コーンウォールにある架空の村「ポートウェン(Portwenn)」。この村で、個性的な村人たちと織りなす人間模様が描かれていきます。
ちなみに、マーティン役を演じるマーティン・クルーンズ(Martin Clunes)は、イギリスの人気アニメ「Kipper」でキッパーの声を担当していたことでも知られています。のんびりした可愛いアニメです。
「Doc Martin (ドク・マーティン)」のあらすじ
マーティンは優秀な外科医だというのに、率直すぎる物言いや無愛想な態度が特徴的です。村の住民たちはそんな彼の言動に戸惑い、不満を抱くこともありますが、当の本人は気にも留めず、ただ淡々と自分の仕事をこなしたいと思っています。
一方、ロンドンではごく普通の慣習でも、田舎のコーンウォールではそれらが通用しないことが多々あり、マーティンにとってはそういったことが戸惑いになっています。診療所には設備が整っておらず、蛇口からは茶色い水が出てくる状態。そんな中、前任ドクターのアシスタントだった若い女性・イレインが突然現れて仕事を始めます。彼女の頭の中はいつでも彼氏のことばかりで、「勤務時間=彼氏との電話タイム」となっており、少しでも彼氏との仲がこじれようものなら、マーティンに当たり散らします(ひどい笑)。
そして、アシスタント嬢は、全くのパソコン音痴であり、口だけは達者ですが仕事の能力は低め。村で下痢や腹痛が流行した際には、診療所への電話に対し「薬を飲んで自宅待機して」と、勝手な判断で対応してしまいます。観ている側としてもちょっと驚いてしまうレベルです。
村人たちの常識もマーティンにとっては驚きの連続です。診療所が開くと、まるで公民館のような集会場になり、大勢の人がお茶を飲みにやってきます。実際に診察が必要な人はほんの数名です。診察室に呼ばれた「患者」は、特に体調が悪いわけでもなく世間話をしに来ただけ。マーティンが帰るように促すと、私はまだお茶を飲んでいませんよ、と逆に驚いた様子を見せます。でも、お年寄りってすることがない人が多かったり、人恋しかったりするから理解できなくもないですが。
マーティンが役に立たないアシスタントを解雇すれば、村中からバッシングを受けてしまいます笑。ロンドンの常識はこの村では通用しないんですね。村人たちは、自分たちの村での常識しか知らないのです。結局マーティンは、不本意ながらも再びそのアシスタントを雇うことになります。「他に有能な人で希望する人もいるだろうに・・・」と思ったのは、私だけではないはず笑。
このような環境の中で、マーティンは渋々ながらも診療を続けていくのです。
印象的なエピソード(シーズン1・エピソード4)
この回では、俳優ベン・ミラーがゲスト出演しています。
出張診療を原則しないマーティンですが、ある出来事に腹を立て、僻地の一軒家まで出向くことになります。その家に住んでいたのは、快活で知的、そしてマーティンと気が合いそうな雰囲気の男性・スチュワート。彼もまた村人に対して不満を抱いており、マーティンとは似た者同士です。
スチュワートは精神安定剤を処方してほしい旨をマーティンに伝えます。しかし、それを必要としているのは彼自身ではなく、彼の友人・アントニーだと言うのです。マーティンがアントニーを診察しようと提案すると、「彼はシャイだから」とスチュワートは拒否します。会話を進めるうちに、マーティンはスチュワートの精神状態に疑問を抱きます。というのも、その「アントニー」なる人物は、「リス」であることが判明するのです。さらに、それは大人の男性ほどの大きさだというから驚きです。
イギリスではかつて「赤リス」が主流でしたが、外来種である「灰色のリス」が侵入したことで赤リスの数が激減したという背景もあり、それでスチュワートは「アントニーは毎晩眠れない」と訴えます。当然、マーティンは処方を断ります。しかしその夜、スチュワートはポートウェンの村に現れ、庭にあるものを破壊するなど暴れます。
村人たちは、薬を処方しなかったマーティンを非難しますが、マーティンは過剰な薬の摂取で幻覚を見ていると反論。しかし村人は、アントニーの件はもう知っており、処方さえしていればスチュワートは何もしないし、彼は本当に頭の良い人だと理解していたのです。
ネタバレしない方が良いかと思いますので続きはご自身で確認してください。
なお、英語字幕付きのDVDを購入する予定がある方は、イギリスから直接購入した方が安価な場合が多いので、チェックしてみてください。
おわりに
シーズン1・エピソード6では、マーティンが救急車内で応急処置を行うシーンが描かれます。ハラハラしつつ、思わずちょっと涙ぐんでしまいました。
その日は村人たちに血液恐怖症の件でからかわれていたマーティンですが、恐怖を感じながらも真摯に医療行為に向き合う姿に、「村人は少しは反省しろよ・・・」と感じずにはいられませんでした。村人は、最初はマーティンのぶっきらぼうで無遠慮な態度に最初は戸惑いますが、マーティンが医師として非常に有能であること、人を助けようとする姿勢、そして血液恐怖症に苦しんでいることを、村人たちも徐々に理解していきます。
このドラマには、クイックな笑いやドタバタな演出はありません。オープニングのメロディは、マーティンの無愛想な性格や、これから起こる面倒な出来事を予感させるような、どこか気だるくてメランコリックな雰囲気を醸し出しています。少し失礼な言い方になるかもしれませんが、イギリスのドラマは日本とは違い、美男美女を揃えることが最優先ではないように感じます。でも、それが逆にリアリティを生み出し、視聴者の共感を呼ぶ要因にもなっていると感じます。
落ち着いた雰囲気のコメディドラマを探している方には、ぜひおすすめしたい作品です。コーンウォールの美しい自然も堪能できます。