「フォルティ・タワーズ」は、無礼で皮肉屋、短気でスノッブなホテルオーナー、バジル・フォルティ(ジョン・クリーズ)が経営するホテルを舞台にしたシットコムです。
彼の誤解やプライドが事態を取り繕うことにつながり、それがさらに別の取り繕いを呼び、事態を正常化させようとする彼の努力はしばしば悲惨な結果を招きます。皮肉やフィジカルコメディ、誤解が繰り広げられるドタバタ劇が展開されます。
個人的には一押しのシットコムで、ジョン・クリーズの動きが秀逸です。モンティパイソンを彷彿とさせます。
この番組は、1975年と1979年にそれぞれ6話ずつ放送され、受賞や投票で上位にランクインしています。
・英国アカデミー賞(BAFTA)で最優秀脚本コメディ賞を受賞
・2000年、英国映画協会の「イギリスの最も偉大なテレビ番組100選」で1位にランクイン
・2019年、「ラジオ・タイムズ」の読者投票で「最も偉大なイギリスのシットコム」として名を連ねた
・2004年、「英国で最も優れたシットコム」の投票で5位
・2006年、コメディ作家による「究極のシットコム」の投票では2位
・2006年、主役の「バジル・フォルティ」が「英国で最も面白いコメディキャラクター」の投票で1位
キャスト
舞台は、イングランド南西部・デヴォン州の海辺の町トーキーです。
バジル・フォルティ
この町でホテルを経営しているバジル(ジョン・クリーズ)は、いつも皮肉を言い無礼で傲慢な人物。彼はいつでも妻やスタッフ、宿泊客に苛立ちを募らせています。ところが、重要な客や訪問者や上流階級の客がやってくると態度が一変します。しかし、たびたび滑稽な失敗を引き起こしてしまいます。
バジルは妻のシビルに顎で使われ客には振り回され、そのフラストレーションをスペイン人の雑用係マニュエルにぶつけることもしばしばです。
ポリーと口論になった際には「じゃあその責任は僕にあるのか?」と自分自身を叩いて大げさに罰を与えたり、客の一人がホテルのインスペクターだと勘違いして大泣きしたりします。客にも平気で嫌味を言うし、入院中のシビルからの細かい電話の指示にイライラして「ああ、はいはい。なんならホテルを左に少しずらしておこうか?」とも提案したり。何か言わないと気が済まないよう性格のようです笑。
なにか不手際があると正直に言い出せず作り話を重ねたり、その場しのぎの行動をとったり、そのせいでどんどん事態が悪化する様子には、「落ち着いて」と止めたくもなってしまいます。ドイツ人の宿泊客について「戦争の話はするな!」とスタッフにくぎを刺しながらも、彼自身が料理の説明にからめてドイツにまつわる皮肉を次々と口にし、客を泣かせ、しまいにはヒトラーの模写までしてしまいます(現代であれば苦情が来ることでしょう)。
バジルは非常に長身でいつでも他の登場人物たちよりも頭一つ分飛び出していますが、それが彼の存在感を際立たせています。階段を軽々と駆け上がったり、車を全力で走って追いかけたり、また「モンティ・パイソン」で人気を博したスケッチ「The Ministry of Silly Walks」の歩き方が登場する場面も見どころの一つです。
彼のフィジカルコメディも秀逸です。「Dragonfly」という馬の名前をジェスチャーで伝えたり、庭に飾るノーム人形の首を絞めたり、車を木の枝で叩いたりと、観るたびに大笑いしています。
ジョン・クリーズ(John Cleese)は、1969年から1974年の画期的なスケッチ・コメディ番組「モンティ・パイソン」シリーズで有名に。「ワンダとダイヤと優しい奴ら(1988)」とその続編「フィアス・クリーチャーズ(1997)」に主演・共同脚本、ジェームズ・ボンドシリーズ「ワールド・イズ・ノット・イナフ(1999)」と「ダイ・アナザー・デイ(2002)」、「ハリー・ポッターシリーズ」では首なしニック役、「シュレック」シリーズ、「シルバラード(1985)」、「クロックワイズ(1986)」、「フランケンシュタイン(1994)」、「ラットレース(2001)」、「チャーリーズ・エンジェル フルスロットル(2003)」、「ピンクパンサー2(2009)」など、多数に出演しています。
シビル・フォルティ
シビル(プルネラ・スケイルズ)はバジルの妻。接客は丁寧だし、何をすべきかをよく分かっているので、もしかしたらバジルよりも仕事ができるのではと思われます。ただし、客がいるにもかかわらず私用の電話を平気でしていたり(これはイギリスでは時折見られる)、客と世間話をしてバジルに仕事をさせたり、バジルを顎で使ったりすることもしばしば。
シビルの仕事服は、凝ったデザインのブラウスや仕立ての良いワンピースやスーツ、入院時のベッドガウンや外出用のコートまでなど、どれも上品で素敵なものが多いです。ヘアスタイルは常にヘアピースを使ったアップスタイルで美しく整えられており、これもまた魅力的です。
彼女は小柄ながら姿勢が良くきびきびと歩く姿が印象的です。バジルはそんなシビルを恐れている一方で、「有毒な小人」「私の小さな司令官」「私の小さなピラニア」などと呼んだりします笑。彼女はいつでも「バジル、バジル」と夫の名を繰り返し呼んでおり、その口調はまるで母親のようにも聞こえます。
シビルは、2007年にBBCのチャリティ番組「Children in Need」のスケッチシリーズで、シビル役として再び出演しました。彼女は、当時放送されていたBBCのドラマ「ホテル・バビロン」の同名ホテルの経営者として登場します。ドラマの登場人物だけでなく、懐かしのシットコムのキャラクターたちも登場しました。シビルの「I know」は健在で、変わらぬ素敵なマダム姿を披露していました。
プルネラ・スケイルズ(Prunella Scales)はイギリスを代表する女優の一人です。代表作は「フォルティ・タワーズ」でのシビル役ですが、そのほかにも「The Buccaneers(1995)」、「ディケンズ・オブ・ロンドン(1976)」、「シャーロック・ホームズの帰還(1987)」など、数々のテレビドラマや映画に出演しています。また、「A Question of Attribution(1991)」ではエリザベス2世役を演じ、その演技によりBAFTA賞にノミネートされました。
マニュエル
マニュエル(アンドリュー・サックス)は、バルセロナ出身のウェイター兼雑用係です。不器用ながらも、仕事に対する熱意と善意にあふれています。英語が不得意なため、常に誤解が生じ、言葉の壁と陽気な性格が相まって、しばしばバジルの怒りやフラストレーションの標的となってしまいます。
彼のお決まりのセリフは「¿Qué?(何ですか?)」。バジルが何度説明しても、マニュエルはこれを繰り返すためバジルをいらだたせます。ホテルの宿泊客に対してもこれを言うことがあるせいか、面倒な宿泊客が訪れた際には、マニュエルが対応を任されることも笑。
ある場面では、彼はフロントデスクを掃除しながら英語の会話集から学んだフレーズを練習します。そこへ通りかかったゴーウェン少佐は、フロントデスクの上に臨時で置かれていたヘラジカの頭部の壁掛けが話しているのだと勘違いしてしまいます(その後少佐は、すごく優秀なヘラジカだけど日本製なのか?とバジルに質問します)。
ポリーが昼寝をしているので起こすように頼まれたときには、彼女がよく眠っているのを見てそっとしておいてあげたり、バジルとシビルの結婚記念日に母親のレシピでパエリアを作ろうとしたり(バジルのせいでめちゃくちゃに)、いい人なのがよく分かります。また、自室でギターを弾きながらスペインの歌を歌う場面も笑。
アンドリュー・サックス(Andrew Sachs)は、マニュエル役で広く知られるようになりイギリスのコメディ界での名声を確立しました。フォルテぃ・タワーズの撮影中ではしばしば怪我をすることもあったようです。そのほか「Are You Being Served?」、「Going Postal(2010)」、「Run for Your Wife(2012)」、「East Enders(2015)」などの作品に出演し、ナレーションや吹き替えの仕事も多数こなしています。
ポリー
ポリー(コニー・ブース)は、分別があり、多くの業務を頻繁にこなす有能なメイドです。マニュエルにスペイン語で指示を出したり、ドイツ人の客にはドイツ語で接客を行ったりします。また、あるときにはフロントデスクでマネージャーとして働くことも。彼女は美術系の学生で、ホテルではアルバイトをしているという設定です(が、有能だし、いつでもホテルにいるような気がします笑)。
バジルの思いつきによる計画に巻き込まれることが多いものの、バジルの意図を即座に理解し、その場を救うために臨機応変に発言してバジルを助ける場面がよく見られます。
ポリーの仕事着も魅力的で、胸元の白いリボンと腰の後ろのリボンがふわりと揺れて品があります。また、髪型はカールした髪をいつもアップにまとめており、彼女のスレンダーな体型と相まってとても素敵です。
コニー・ブース(Connie Booth)は、「フォルティ・タワーズ」の共同原案者・脚本家であり、当時の夫であるジョン・クリーズ(1968年〜1978年に結婚)と共にこの作品を作り上げました。「モンティ・パイソン」シリーズにも出演しています。1995年に女優業を引退し、その後は心理療法士へと転身しました。
脚本
「フォルティ・タワーズ」の脚本は、ジョン・クリーズと当時の妻コニー・ブースによって共同執筆され、全12エピソードすべてが二人の手によるものです。ジョン・クリーズとコニー・ブースは、脚本が満足のいく仕上がりになるまで数か月を要することもあったそうです。構成は緻密で優れており、編集作業にもかなりの時間をかけて行われたそうです。
最初のシリーズが成功したため、BBCは当然ながら続編を求めましたが、二人は続編制作にあまり乗り気ではありませんでした。シリーズ2が完成したのはそれからさらに4年後のこと。この頃には二人の結婚生活は急速に悪化し別居を経て離婚に至りました。それにもかかわらず作品のクオリティは驚くほど高い水準を保ち続けており、BBCは第3シリーズも強く希望しましたが、制作されることはありませんでした。
映画化の話もあったそうで、ジョン・クリーズが構想していた設定は、バジルとシビルがマニュエルを訪ねてスペインへ向かう途中、乗った飛行機がハイジャックされるというもの。もし実現していたら絶対に観たのに。制作されなかったのは本当に残念です。
「フォルティ・タワーズ」の始まり
「フォルティ・タワーズ」の構想は、イギリスで大成功したシットコム「モンティ・パイソン」のロケ撮影でキャストとクルーがデヴォン州トーキーを訪れた際に始まりました。
彼らの宿泊先は4つ星ホテルだったものの、そこの経営者がバジル・フォルティの原型ともいえる人物だったとのこと。キャストとクルーが夜遅くホテルに戻ると、オーナーはパジャマとスリッパ姿で時計を見ながら待っており、まるで寄宿学校の校長のようだったといいます。この校長の奇妙な行動は他にもいろいろあったようで、例えば、キャストの一人がブリーフケースをフロントデスクに置いたところ、オーナーはそれを爆弾ではないかと疑い、外に投げ捨てたそうです笑。
キャストやクルーはこのホテルを外れだと落胆しましたが、ジョン・クリーズとコニー・ブースは滞在を延長し、ホテルやオーナーの観察を続けたそうです。ジョン・クリーズは「モンティ・パイソン」のメインキャストの一人で、その後のシリーズ出演を断り「フォルティ・タワーズ」の制作に移行しました。結果として「フォルティ・タワーズ」は大ヒットを収めました。
奇妙なオープニング
もう一つの見どころは、オープニングで映し出されるホテルの外観です。
ワルツのような優雅な音楽を背景に、ホテルとホテルの看板が登場しますが「Fawlty Towers」のアルファベットが毎回異なっています。手入れが行き届いていないため文字が落ちかけていたり、アナグラムになって別の意味を持っていたり、あるいは誰かのいたずら(新聞配達員らしい笑)によって別の言葉に変えられていたりします。
視聴方法など
「Fawlty Towers」のDVDは日本語版があります。英語のリスニングとして活用したい場合は、DVDでの視聴がおすすめです。そのときはイギリスのアマゾンから直接購入してしまうと手っ取り早いかもしれません。イギリスで発売されているDVDセットは、時間が経過すると価格が大きく下がることも多いので定期的にチェックしてみてください。
登場人物たちの英語は聞きやすい方だと思います。ジョン・クリーズはなかなか早口ですが、彼のしぐさでかなり笑えると思います。
おわりに
海外のビジネススクール(ホスピタリティコースなど)では、「やってはいけない接客態度」を学ぶ教材として「Fawlty Towers」のビデオが授業で使用されることがあるそうです。
確かに、こんなホテルは観ている分には面白いですが、実際に泊まりたいかと聞かれたらちょっと考えてしまいますね。マニュエルには会いたいかも笑!