「Is It Legal?(こちらホゲホゲ法律事務所)」は、1995~98年に放送されたイギリスのシットコム。
ロンドン郊外の小さな弁護士事務所「ロータス、スペックマン&フェルプス法律事務所」を舞台に、日常の職場コメディを描いています(階級ジョークや自虐的ユーモア、職場ステレオタイプ、無能なスタッフの日常などが登場)。当時はITVでの放送だったことも影響したのか、視聴率はあまり振るわなかったようですが、再放送やDVDの発売を通じて再評価された部分もあるようです。
私がこのシットコムに出会ったのは15年以上前のこと。日本のケーブルテレビで放送されていて、タイトルは「こちらホゲホゲ法律事務所」。最初に観たのは「シリーズ3」で、当時の私は渡英直前でイギリス英語に慣れるためにBBCニュースを放送しているケーブルテレビを契約していました。コメディだと知らずに観はじめ、日本語字幕を読みながら、英語のセリフを聞きながらつつ、笑って視聴しました。
全シリーズ観たいと思いながら渡英となり、イギリスのシットコムなのに現地でもビデオ(古い笑)やDVDを見つけることができず・・・。2010年になってようやくDVDがリリースされたことを知りました。すべてのエピソードが面白くて愛らしくて、今でもお気に入りのシットコムです。
やっとリリースされたDVD
「Is It Legal?」のシリーズ1〜2はITV、シリーズ3はChannel 4で制作されました。テレビ局の利権の関係でDVDの発売には時間がかかったようです。
「どこでDVDが手に入るのか?」「どこで動画を見ることができるのか?」のような質問をネット上でよく見かけましたし、制作側も同様の問い合わせを多く受けたそうです。
私が持っているDVDはイギリスのアマゾンで購入したものです。私がケーブルテレビで見ていた頃の日本語字幕がついたもののDVDはないようです(面白かったのに残念!)。英語版なら日本のアマゾンでも取り扱いがあるようです。イギリスのアマゾンから購入すると日本よりも格安で手に入ることが多いです。(追記(2025年):最近では、イギリスアマゾンでもDVDの取り扱いが少なくなってきているようです)

「Is It Legal?」主要なキャスト
ストーリーは、新米弁護士コリン・ロータス(リチャード・ラムスデン)の初出勤から始まります。彼の職場は「ロータス、スパックマン&フェルプス法律事務所」。引退した父の後を継ぎ、ステラ・フェルプス(イメルダ・スタウントン)とディック・スパックマン(ジェレミー・クライド )とパートナーシップを組むことになっていました。パートナーとはいえど、実質的に法律事務所を切り盛りしているのはステラ。その他のスタッフは風変わりだったり無能だったり・・・なのです。
役名(役者名)の順で記しています。
コリン・ロータス(リチャード・ラムズデン )
弁護士になったことに誇りを感じるコリンはやる気に満ち溢れています。コリンが最初に担当したのは父から引き継いだクライアント。しかし、父から譲り受けた自慢のペン立てのペンでクライアントの頭を突き刺してしまいます・・・。彼は、大なり小なり、何らかのミスが起こるたび「It’s so easy to do(まあ、よくあることなんだけど)」とよく口にします。
シーズン2に入ってもなお法律事務所のオフィスの窓を見上げて至福を感じるコリン。喜びで自然と体がぐるぐる回ります笑。持っていたアタッシュケースを滑らせ、オフィス階下のベーカリーの窓ガラスを派手に破壊。また、刑務所にいるクライアントから「妻が浮気していないか様子を見てほしい」と依頼されたのに、訪問した自分が浮気相手になってしまったり、秘密にしてほしいと頼まれると余計な一言を無邪気に口にしてしまい情報が漏れてしまったりと、かなり天然な部分が多いキャラクターです。
そうは言っても、クライアントの犬を引き取って大切な相棒のように世話をしたり、誰に対してもとてもフレンドリーに接したりするコリン。彼と一緒にいると楽しいだろうなと思います。
ステラ・フェルプス(イメルダ・スタウントン)
ステラは事務所のシニアパートナー。子供の頃から弁護士になるという野心を叶えたプロフェッショナルな女性です。しかし、パートナーの一人のディックは無能で、自室でシェリーを飲みながらゴルフ雑誌を読んでいることがほとんど。もう一人のパートナーは新米のコリンで頼りにならず、ステラなしにこの事務所は成り立たないと言ってもいいぐらい。
事務所の若い事務員アリソンとはそりが合わず、アリソンが嫌味や生意気な発言をすると、ステラも遠慮なくそれ以上に言い返します。「背が低い」と他のスタッフによく揶揄されますが、パワフルで可愛いキャラクターだと思います。
イメルダ・スタウントンは、私の大好きなイギリス女優の一人です。彼女は大ベテランの役者で、舞台・映画・テレビと幅広い活躍ぶりです。多くの人にとって印象的なのは、ハリー・ポッターシリーズのドローレス・アンブリッジ役かなと思います。彼女はコメディ、ミュージカル、歴史ドラマなど、どんなジャンルでも役に入り込んで見事です。「Is it legal?(こちらホゲホゲ法律事務所)」でも、ステラとしての演技がとても絶妙だと思います。
「Peter’s Friends」「から騒ぎ」「いつか晴れた日に」「十二夜」「恋におちたシェイクスピア」「ヴェラ・ドレイク」「ナニー・マクフィー」「パレードへようこそ」「パディントン」シリーズ(声)「輝ける人生」「ダウントン・アビー」「デイヴィッド・コパーフィールド」「クランフォード」など、多数に出演しています。
ボブ・バーチ(パトリック・バーロウ)
オフィスマネージャーで不動産関係の担当のボブは、ステラに次いで最も有能な社員。オフィスで問題が発生すると彼が調査して原因を突き止めることが多いです。
ボブは既婚者でありながら階下のパン屋「Mr Bappy」のサラが大好き。サラがパンのデリバリーでオフィスへ入ってくるだけでボブは大慌てします。机の上のものをすべて払いのけたり、不自然に机の上に座ってポーズをとったり。実は小麦粉アレルギー体質にもかかわらず、サラに会いたい一心で毎日同じパンを買い続けます。デスクの引き出しには同じパンが山のように詰め込まれ、ファイルの中にもぎっしり。コートの袖からパンが一つ落ちてきたことも笑。
おどおどしたり、うろたえたり、慌てたりというボブの仕草はとてもコミカルで豊かです。食事中、誰かが後ろからぶつかってフォークや食べ物を落としたり、ケチャップをネクタイにこぼしたり、さらには顔を食べ物に突っ込んでしまったりと災難に見舞われることも少なくありません。シーズン3ではステラとカップルになりますが、サラよりもステラの方が相性が良いと思います。
ボブを演じるパトリック・バーロウは多才なイギリス人俳優・コメディアン・劇作家です。ヒッチコックの「39階段」の舞台化作品での活躍もよく知られています。他は「恋におちたシェイクスピア」「ノッティングヒルの恋人」「ブリジット・ジョーンズの日記」「ナニー・マクフィー」「Absolutely Fabulous(アブソリュートリー・ファビュラス)」などに出演しました。
アリソン(ケイト・イシット)
セクシーな事務員であるアリソンは仕事をする気がまったくありません。彼女の口ぐせは「I’m bored.(退屈だわ)」。
日常的なやる気のなさで「bar(法廷)」と入力すべきところを「bra(ブラジャー)」と入力するタイピングミスも頻発。事務所に寄贈された多額の債券をシュレッダーにかけてしまったり、ボブの注意を引くためにごみ箱に火のついたマッチを落として炎を上げたり。ステラがアリソンを雇い続けているのは不動産会社勤務のアリソンの彼氏がステラの事務所に仕事を回してくれるからなのです。
サラが彼氏を連れて事務所に来ると、アリソンはその彼氏を気に入ります。「私、あの彼と一晩過ごせるわよ」「そうしたらボブだって嬉しいでしょ」とボブに提案し、本当にその彼氏と一晩共にしてボブを驚愕させます。
アリソンのファッションは可愛くセクシーでありながら知的さも漂うスタイルが多く、彼女のスタイルの良さも相まって今でもおしゃれに見えます。90年代後半のシットコムなのでスマートフォンがまだ広く普及しておらず、アリソンは雑誌や本(ペーパーバック)を読んでいることが多いです(現在なら間違いなくスマホでしょう)。
ダレン(マシュー・アシュフォード)
アシスタント(雑用係)のダレンはあまり知的ではないキャラ設定のようですが、実はシリーズを通してさまざまな作業をしています。
事務所にコンピューターが導入されたときには、唯一その扱いに精通していたのはダレンだけでした。しかし、ステラが自分を解雇しようとしていることを知ると、復讐のために全員のコンピューターの画面上に動物の画像を表示させ、鳴き声まで流れるように設定してしまいます。その回のエンドロールの最後には羊の鳴き声が響き渡りました笑。
アリソンがパンツを履いているのかどうか気になってしまったダレン。「500ポンド払うなら教えるわよ」とアリソンに言われ、オフィスの文房具を通行人に販売して小金を稼ごうとしたり、コリンがワードローブに閉じ込められている間に彼の財布からこっそり金を抜き取ったりと抜け目のない一面も見せます。
マシュー・アシュフォードは「Mr. Bean(TVシリーズ)」で色々な脇役で登場しています。
ディック・スパックマン(ジェレミー・クライド)
シニアパートナーのディックは、オフィスでシェリーを飲みながらゴルフ観戦をしたり、パターの練習をしたりと仕事をしている様子がありません。彼自身、自分の役割は「仕事を取ってくること」だと考えていて、実際の業務はステラやボブがこなしています。ステラが手いっぱいだったときには法廷に出向いたこともありました。しかし部屋を間違え、さらに次の部屋も間違えるという失態を見せ、彼の無能ぶりが浮き彫りに。
ただし社交的で顔が広いため、人脈を活かして問題解決することの方が上手いかも。ステラが酒気帯び運転で切符を切られたときには、知人の警察に電話して取り消しを依頼したり、前日のオフィスパーティーで何かが起こったと察すると、すぐにセキュリティカメラの映像を取り寄せたり。また、ステラが他事務所へ移ろうとしていることを知ると、コリンから巧みにその事務所名を聞き出し、すぐに電話をかけて採用をキャンセルさせるなど策略的な一面もあります。ディックはシリーズ1~2の登場で、シリーズ3では「彼は引退した」と言及されています。
ディック役のジェレミー・クライドの先祖は、初代ウェリントン公爵とのこと(1815年のワーテルロー戦役でナポレオンを破ったことで有名な軍人で、ウェリントンブーツ(長靴)を発明した人物)。「バットマン」「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」「ダウントン・アビー」「Midsomer Murders(バーナビー警部)」などに出演しました。
気に入っているエピソード
すべてのエピソードが大好きなのですが、以下は特に気に入っているものです。
シリーズ1-2「Whodunnit?」
飲酒運転で切符を切られてしまったステラ。翌日どんよりした気分でオフィスに届いた郵送物を確認していると、誰かが事務所のコピー機を使ってクライアントにお尻のコピーを送っていたことを知り激怒。飲酒運転について知らないオフィスのメンバーたちはステラを元気づけようとするも、失敗に終わります。犯人探しが進む中、ボブは階下のパン屋のサラに花束を贈り、手違いでジェシンタという女性とデートをすることに・・・。
シリーズ1-3「Dick’s House of Horror」
ディックの新居の物件調査を任されたボブは、調査が行われていなかったことを知り、コリンの手助けで何とか調査を完了します。誕生日のダレンはオフィスからのプレゼントを心待ちにしているのに、皆忙しくてそれどころではありません。一方、眠気をどうしても払しょくできないアリソンは、解雇されると脅され、カフェインを取りすぎてテンションが上がり職場をかき回します。週末にはディックの新居でハウスウォーミングパーティが行われたものの、致命的な物件調査の不備が露呈します・・・。
シリーズ1-6「Bob Breaks In」
ディックは最近購入した船の話に夢中で、ステラはその資金の出所に疑問を抱きます。ボブは昨日と同じ服装で乱れた状態で出社し、妻に追い出されて車中泊したことを告白します。そして重要な書類を取りに家に侵入しようと試みます。アリソンの奴隷状態になっているダレンは、アリソンを振り向かせようと必死です。そんな二人にコリンはアドバイスを与えます。ステラはディックが顧客のアカウントから金を拝借していたことを突き止め、コリンが巻き込まれてしまいます。
シリーズ2-6「Office Party」
事務所ではオフィスパーティの準備で全員が忙しくしています。コリンは囚人から妻の浮気調査を依頼され、しぶしぶ妻の自宅を訪れますが、彼自身、妻の誘惑に負けて一夜を共に過ごしてしまいます。翌朝のオフィスは散乱しており、全員が二日酔いでひどい状態。そして、なぜか皆がよそよそしい・・・。何かがあったと察したディックは、警察からショッピングモールのセキュリティカメラの映像を入手すると、オフィス全員がその映像に愕然とします・・・。
シリーズ3-5「New Bloke」
新しい弁護士が事務所に加わることになり、その社交的な性格から事務所の全員を魅了するものの、ステラを苛立たせます。ダレンは自分の名前を上品なものに変えることを決意しますが、アリソンや他のスタッフとのやり取りで混乱が生じます。一方、スコットランドの親戚の結婚式に出席するというコリンは、購入したキルトを職場で披露した後、自分のキルト姿にはしゃぎます。しかしコリンの振る舞いは周囲のメンバーを困惑させることに・・・。
シリーズ3-6「Someone Is Lying」
日本文化に興味を持ったコリンは職場でその知識を披露し、サラと交際していることを明かすとボブはいら立ちます。そしてコリンは同僚たちを自身のフラットでの夕食会に招待。夕食会では騒がしくも楽しい時間を過ごしたものの、全員が帰った後、コリンは部屋から100ポンドが紛失していることに気づきます。
おわりに
「シリーズ1〜2」と「シリーズ3」制作局が異なるせいかオープニングが違います。シリーズ1〜2ではやや暗めの陰謀めいた印象ですが、シリーズ3ではポップで軽い雰囲気です。


「気に入っているエピソード」のひとつである「シリーズ3-6」ではコリンが日本語を学び、その他のエピソードでも「社用車で三菱の将軍(パジェロのこと)が欲しい」という台詞も登場します。1990年代後半には多くの日本企業がイギリスに進出していたこともあり、日本文化がイギリス人に受け入れられやすい(もしくは人気?)状況だったのかもしれません。当時のロンドンには、日本の小売企業ヤオハンが「ヤオハンプラザ」として、日本の食料品、スーパーマーケット、レストラン、書店、雑貨店などが入ったショッピングセンターを展開していました(今はありません)。
90年代後半のシットコムなので、オフィスにコンピューターが導入されるエピソードでは、デスクトップのモニターやケーブル付きのマウスが登場。ウィンドウズ3.1、95、98あたりを思い出します笑。
日本語のタイトルが「こちらホゲホゲ~」だったのは少しもったいないと感じました。というのも、英語のタイトル「Is It Legal?」は「これって合法?」というニュアンス。ステラたちの事務所での滑稽な日常や、倫理的にグレーな振る舞いが「本当に合法なの?」と思わせるような知的で大人な印象があると思いましたので・・・。
いずれにしてもイメルダ・スタウントンとパトリック・バーロウなくして、このシットコムは成り立たなかったと言っても過言ではないと思います。




